何の因果だろうか。1993年5月16日、Jリーグの開幕節で名古屋は鹿島に0-5で敗れた。名古屋はJリーグにおけるクラブ史を、惨敗からスタートさせたのだ。それから20年、クラブの20周年を祝う記念試合と銘打たれたG大阪との一戦に臨んだ名古屋は、あの日と同じスコアの屈辱を、節目で再び味わうことになった。
名古屋としては苦境の中で迎えたメモリアルマッチだった。長引く主力の負傷に加え、今節は田中マルクス闘莉王が累積警告で出場停止。本職のDFとしてのみならず、最近はケネディの代役として前線で存在感を発揮していた闘将を欠き、一時は大幅な戦力ダウンを覚悟した。オリンピック帰りの永井謙佑に加え、負傷から金崎夢生と玉田圭司が戦列に復帰したことで前線のメンツは揃ったが、3選手の誰もが万全のコンディションとは言い難い。さらには前節で痛恨のオウンゴールを献上した阿部翔平をベンチに下げ、石櫃洋祐を本来の右ではなく左サイドバックとして起用するなどスクランブル感が否めない布陣で、自らが定めた大一番に臨んでいた。
しかし、名古屋はこれが裏目に出た。不慣れな左サイドに置かれた石櫃の下にはボールがなかなか供給されず、攻撃は田中隼磨、藤本淳吾、小川佳純の右サイドに集中。1トップに入った永井を走らせるボールを狙う素振りも見せず、ひたすら右サイドから中央でのショートパスの連続か、最終ラインからのロングボールに藤本ら2列目が飛び出す形が繰り返された。サイドの選手はタッチライン際に張り付くのが名古屋の戦術のため、前半の金崎は孤立する場面が目立った。少し引いた守備ブロックを敷いたG大阪はワンパターンな攻撃に対処しつつ、レアンドロを起点にしたカウンターに徹すればよかった。
そして試合の趨勢が決まる瞬間がやってくる。38分のコーナーキック、ニアで佐藤晃大が合わせ、GKが弾いたところをレアンドロが詰めて先制。続く42分には何でもない相手の縦パスを名古屋DF増川隆洋がトラップミスし、そのボールを拾った佐藤がペナルティエリア内で倒されPKを獲得した。このファウルで増川が一発退場となった上に、PKは職人・遠藤保仁がきっちり決めてリードを広げることに成功。以降は点差以上に一人少なくなったことが、名古屋の反撃に暗い影を落とすことになった。
かくして後半の豊田スタジアムのピッチはG大阪が支配することになった。名古屋は増川の位置にダニルソンを下げ、中盤を小川、田口泰士、藤本、金崎で構成するもG大阪の巧みなポゼッションの前に守備が空回り。攻めたい前線と積極的な守備に踏み切れないDFラインの思惑のズレが、布陣を前後に分断させることにつながってしまった。61分の玉田投入後もそのギャップは埋まらずさらに迷走。それでも金崎が独力でチャンスを作っていったが、運動量も少なく連動性も欠き、不発に終わっている。23分にはショートコーナーから今野泰幸に「どフリーすぎて緊張した」というヘディングシュートを決められ万事休す。その後は堰を切ったように2失点を喫したが、そのどちらもがカウンターのチャンスを確実に沈められたものだった。小川は「先制されると取り返そうと自分たちが前がかりになり、裏を取られて失点を重ねる。そういう悪循環に陥っている」と振り返ったが、過不足のない説明だ。守護神・楢崎正剛の奮闘がなければもう5〜6点は取られていたかもしれない。今季最多の30354人の集客に一役買った、熱心なゴール裏のサポーターたちからのブーイングは、当然のことだった。
試合後、饒舌だったのはもちろんG大阪の面々だ。遠藤が「結果的に5-0ですし、相手が10人になりましたけど、前半からいい形でやれていました。快勝というか、久しぶりにいいゲームでした」と話せば、無失点に抑えたDFラインのふたりも充実の表情で語る。「謙佑がスピードあるのはわかっていたんで、逆にラインを高くして無力化した。動き出しを極力やりにくくする考えで」とCBの丹羽大輝。決定的な3点目も決めた今野は「何といってもレアンドロは動き出しがいいし、だから相手のDFラインも下がる。二川さんとかヤットさんもフリーで持てる。それでスルーパスとか間、間のパスが増えてきてる。これがガンバの攻撃なのかな」とチームの復調ぶりに手応えを感じていた。いまだ順位は降格圏真っ只中だが、上昇の兆しは明らかに見えてきたと言えるだろう。
逆に名古屋は茫然自失。特に大敗の責任を背負い込んだ増川は絞り出すように謝罪の言葉だけを残してスタジアムを後にした。ベテランの楢崎ですら「敗因は少し考えさせてください」と話すショッキングな惨敗に対し、ストイコビッチ監督も「今日のゲーム内容、そして今日の結果は忘れるべきものだと思います」と呆れ顔だった。そして前節と同じく現状のチームの限界を口にした。後半残り15分、反撃の一手として高卒2年目の田中輝希と高卒新人の田鍋陵太しかカードがなかったことに、確かに同情の余地はある。同じ主力を下げるにしても、試合運びの安定感とリードを盾にレアンドロ、二川孝広、遠藤保仁と主力を休ませた松波正信監督とは正反対である。わずかシュート4本しか打てなかった試合内容は、今季ワーストと言えるものだった。
名古屋はこれでリーグ戦連敗、公式戦では3連敗で12失点という危機的状況だ。得失点差もマイナスに転落し、順位も9位に後退した。残り12試合で首位との勝点差11は現状を見れば絶望的と言わざるを得ない。だが、諦めるわけにはいかない。
「20周年ということで、クラブにとっても日本のサッカーにとっても記念すべき試合でしたが、我々にとっては悪い記念となってしまいました。0-5で負けるのは非常に良くないことです。ただ、しっかりリベンジしますので、心配しないで下さい」
ストイコビッチ監督は気丈に話した。その言葉を信じるしか、今はできない。次節、アウェイ川崎のピッチで見せる、名古屋のプレーに括目するしかない。
以上
2012.08.19 Reported by 今井雄一朗
J’s GOALニュース
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