開始2分に左サイドからのクロスを田代有三が押し込み、後半立ち上がりの53分にはペナルティエリア入口付近からの直接FKを野沢拓也が見事に沈めて神戸が2−0のスコアにしてしまう。スコアの推移以外に目を向けても、フィジカル面などで優位に立ち続けた神戸が、ホームの札幌を相手に地力の差を見せつけている。そんな展開だった。
しかし、試合はここから大きく動く。それを引き出したのが札幌の石崎信弘監督、神戸の西野朗監督という経験豊富な指揮官同士のベンチワークだった。
まずは札幌。左MFの砂川誠に代えて長身の上原慎也を前線に投入し、システムを4−2−3−1から3−5−2へと変更。内村圭宏と上原を2トップに置き、トップ下にハモンを置く陣形。左利きの古田寛幸も右サイドから左へ移し、シンプルなサイド攻撃を仕掛けるやり方だ。
すると66分、クロスボールを入れた展開のなかでハモンがペナルティエリア内で倒されて得たPKを、ハモンが自ら決めて1点差とする。続いて74分には内村からのロビングを上原が頭で流し込み、采配が的中した札幌が2点差を埋めてしまった。もちろんホームスタジアムは沸き、その大声援がさらにチームを後押ししていきそうな気配が生まれていた。
ここで手を打ったのが西野監督だ。こちらも前線に長身の都倉賢を投入してきたのである。この采配について指揮官はこう説明する。「あのままの流れであれば、札幌にひっくり返される展開でもあった。まだ時間もあったので、もう一度、攻めの姿勢というものを送らなければいけなかった」。
ベンチには中盤の底でハードワークができる三原雅俊がいたため、この選手を投入することで、地元の声援を背にアグレッシブに攻めてくる札幌の勢いをストップさせるという策もあったはず。だが、西野監督は都倉を入れることでチームに「攻める」というメッセージを送ったのである。
そしてその投入から僅か1分後に相手ゴール前の混戦から野沢が蹴り込むと、3分後には野沢からのクロスを都倉がヘディングで押し込んで、神戸が再び2点差として勝負を決めてしまった。
「早めに同点に追いつかれたことで逆に、メッセージは送りやすかった」。都倉投入時を振り返って西野監督はこのように話している。「メッセージ」とは、攻めにいくためのものを指しているのだが、神戸があらためて攻める姿勢を思い出すことができたのも、札幌の見事な同点劇があったからということだ。
結果的に札幌は4失点、2点差で敗れてしまったわけだが、要はそれも札幌が試合を振り出しに戻すことに成功していたからだろう。「終盤までもつれていれば都倉の起用は考えられなかった」という西野監督の言葉通り、2−1などのままで推移していれば、神戸は守備的な選手交代を行ってクローズした展開のまま試合は終盤を迎えていたはず。
しかし、実際には札幌が試合を振り出しに戻してみせたことで、神戸も再び攻めに出て、終盤は両チームが猛然と相手ゴールに突き進むアグレッシブなゲームを観ることができたわけだ。
徐々にシーズンも中盤戦から終盤戦へと差し掛かっていくなかで、どんな試合を展開するかよりも、勝点を獲得することのほうが絶対的に重要だという意見もあるだろうし、それも正しいと思う。どちらかというと筆者もそういう考え方に近いスタンスだと自分では感じている。それでもやはり、双方が必死で相手ゴールに向けて攻め合う展開というのは面白い。
簡単に2点差にされてしまったり、2点差をあっという間に追いつかれてしまったり。せっかく追いついたのに、再び2点差にされてしまったり。そこにはナイーブさだったり、甘さというものも混在しているのかもしれないが、ゴールネットが揺れた瞬間のスタンドの盛り上がりを見ていると、やはりサッカーというのはゴールを奪い合うゲームなんだと再確認させられたような気分になる。
札幌と神戸との戦いは、両チーム合わせて6ゴールが生まれた好ゲームだった。
以上
2012.08.19 Reported by 斉藤宏則
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