何度スタジアムが大きなため息に包まれたことだろう。そしてピッチでは、上里一将が、アレックスが、衛藤裕が、ドウグラスが、天を仰ぐ──。
徳島は湘南相手に数多くのビッグチャンスを作り出した。しかし、それら決定機で放ったフィニッシュはどれもネットを揺らすことが出来ず。結果、湘南を完封こそしたものの、終始主導権を握り続けたこの一戦をモノにし切れないまま選手たちはタイムアップのホイッスルを聞くこととなってしまった。
ゲームは立ち上がりから徳島が戦前予想とまるで反対の構図を生み出して見せる。湘南の攻撃に対し徳島はまず守備と思われていたのだが、チームは序盤から前への強い意欲を体現して積極的な攻撃を仕掛けたのだ。開始すぐに得たCKに上里が頭から飛び込みヘディングシュートを狙うと、その直後にはアレックス。期待の新戦力が湘南DFラインの裏を取って45度の角度から得意の左足を振り抜いた。また徳島は今季初先発の太田圭輔が完全に右サイドを掌握していたと言えよう。自慢の走力でマッチアップする湘南の左サイド・高山薫の背後を再三取ってチャンスメイクするとともに、自らもバイタルエリアへ侵入して果敢なミドルを放っていったのである。
さらに徳島は攻撃に入った際、後方のプッシュアップによる厚み形成もしっかり出来ていた。特に平島崇は右タッチライン際で太田と常に絡み、精力的な追い越しも披露。非常に効果的な攻撃のサポート役となっていたのは間違いない。
そのような徳島が優位を握った戦いは、後半も変わることなく続いていく。上里と濱田武がボールを散らしながら、前半同様太田のいる右サイドを最大限に活用して幾度も湘南ゴールへ迫っていった。
ただ、それだけの内容を展開しながらいかんせんフィニッシュが決められない。前記した前半早々の上里、アレックスから始まり、50分の好機には衛藤がゴール正面でのファーストタッチをミスしてミートに持ちこめず終わると、湘南DFのパスミスを引っ掛けこのゲーム最大のチャンスになった71分の場面でもドウグラスが至近距離からまさかクロスバーに当ててしまった…。
こうして徳島は決定力不足を露呈する形で勝点1を手にするに留まってしまう。「やはりチャンスがたくさんあったのでチームとしてゴールを決めたかった」と太田も無念の表情を浮かべていたが、もう後がない状況に立たされていることを考えれば前節・町田戦の敗戦に続きこの結果もチームにとっては痛過ぎるとしか言い様がない。
しかしながら小林伸二監督も「クロスも良くなっていますし、中の選手が受け方を工夫していました」と語っていたように、組織は攻撃における成長部分をハッキリと感じさせていた。それだけに、いっそう厳しい立場になったとは言え次の徳島のゲームは楽しみである。
対して、湘南について触れると、選手たちの連戦疲労がモロに出てしまったと言わざるを得ないだろう。個々の動きには本来のキレが全くと言っていいほど見られず、チーム全体の動きも何か重い印象のものとなってしまっていた。その上徳島の開始直後からのアグレッシブな攻撃的姿勢に出端をくじかれ、自分たちのリズムと落ち着きを作れなかったのではないかと思われる。事実、湘南はこの一戦でらしくないパスミスを連発。易々とボールを徳島へわたしてしまうシーンを繰り返し、失点を覚悟するような場面まで自ら発生させてしまっていた。そのため次節に向けては何よりまずひとりひとりのコンディション調整が不可欠となろう。しっかりそれを行って昇格レース終盤へ臨んでいかなければ。
以上
2012.08.23 Reported by 松下英樹
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