サッカーはアメリカ生まれのスポーツと違い、数字を使っての論評や予想は馴染まない。データでは表現しづらい「創造性」や「予測能力」、パスの強弱やポジショニングの是非などがゲームを左右することはよくあること。デジタルに変換しえないアナログ部分が大きな要素を占めるサッカーは、数字で全てを語ることができない。
ただ、数字から何かを感じることができる。例えば、広島とF東京を比較した場合、パスの総数は共にハイレベルでリーグトップクラス(F東京が2位、広島が5位)。しかし、シュート数では広島が3位(平均12.4本)なのに対し、F東京は15位(平均9.6本)。この数字がそのまま、総得点数(広島44点=2位、F東京24点=15位)につながっているとも言える。
ただ実は、過去5試合のシュート数と得点の相関を見ると、話は変わってくる。広島のシュート数は11・7・7・7・11、平均8.6本。一方のF東京は13・7・15・8・18、平均12.2本。過去5試合に限れば、F東京のシュート数が上だ。しかし得点数は広島=10得点、F東京=3得点。これらの数字を並べて考察すると、広島の試合巧者ぶりが目につく。
ここ5試合のシュート数が全てチーム平均より下回っている現実は、今の広島が「自分たちのサッカー」が出来ていない証明。試合内容にも広島側にミスも目立ち、むしろ相手にボールを持たれるシーンも少なくない。対戦相手が徹底して広島対策を練り上げていること、そして酷暑で運動量があがらないことも手伝い、「広島らしさ」を出し切ることができていないのが現実だ。
だがそれでも、広島は1試合平均2.0の得点ペースを崩さない。パスワークで相手を圧倒できなくても、新潟戦での先制シーンのように緩急のメリハリをつけ、1発のパスで相手の裏をついて得点をもぎ取る。DFとの駆け引きとラインの裏をとる技術にかけては文句なしに日本一のストライカー=佐藤寿人(5試合5得点)という存在を最大限に活かしつつ、流れの中で得点できなければセットプレーでもチャンスを活かす(5試合3得点)。前半戦のように主導権を完全に掌握し、相手をパスで崩してシュートを連発するようなサッカーをやりとげることは、この季節は難しい。その現実を選手全員が把握し、試合の状況を判断しつつ最善解を求め続ける姿勢こそ、広島が結果を出せている要因だろう。
一方のF東京は、5試合勝利がないとはいえ、そのシュート数が表現するように内容そのものは決して悪くはない。しかし結果は、5試合で3完封負け。期待のエジミウソンにもまだゴールは生まれておらず、この5試合で前線の選手が決めた得点はルーカスの1点のみ。組織的な守備を敷く鳥栖・新潟・大宮から得点を生み出せなかったという現実は、ポポヴィッチ監督が推進する「主導権を握るサッカー」が、まだ本当の意味でチームに浸透していない証拠だろう。
ただ、そうは言っても「F東京のアタッカー陣は脅威。一人で局面を打開し点がとれるタレントがそろっている」(水本裕貴)ことも事実。新加入のネマニャ ヴチチェヴィッチも前節の大宮戦では途中出場ながら2本のシュートを放ち、才能の片鱗を見せつけた。5試合連続勝利なしと言っても、例えば9試合連続勝利なしの清水が20節以降は3連勝している例もある。何かのきっかけがあれば、爆発するタレントを多数擁しているのが、F東京というチーム。そう言えば、清水に立ち直りのきっかけを与えたのは、他ならぬ広島だった。
F東京は練習で3バックを試すなど、広島戦用の戦術を用意してくる可能性もある。だが、「自分たちらしさが出せれば、相手のことを気にする必要はない」と青山敏弘は自信を見せ、西川周作も「僕らは何も怖れる必要はないし、どんな対策を講じられてもその上をいけばいい」と断言する。「相手の情報を把握した上で、自分たちのサッカーを貫けばいい」という「森保イズム」が浸透している広島が、ハイレベルな「組織の洗練」を活かして首位の座を確固たるものとするか。日本代表経験者をズラリと擁し、能力の高い外国人選手も控えるタレント軍団=F東京が、その本質を見せつけるか。互いに「アクションサッカー」をめざしている両チームの広島ビッグアーチ決戦は、Jリーグでも最高レベルの「美しくて激しいサッカー」が実現する可能性も、十分にある。絶対に、見逃してはならない。
以上
2012.08.24 Reported by 中野和也
J’s GOALニュース
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