試合前の会見でベルデニック監督は、仙台を率いていた2004年にコーチを務めた手倉森 誠監督について、「システマティックに物事を考えることができ、試合の分析能力にも長けている」と評した。8年の時を経て実現した『師弟対決』は、その能力を存分に発揮した弟子に軍配が上がった。
序盤は大宮のペースだった。高い位置からプレッシャーをかけ、コンパクトな守備でボールを奪うと、鋭いカウンターを仕掛け、無理ならばボールを保持して仙台の守備を揺さぶった。アウェイの仙台は「グラウンドの硬さにファーストタッチが浮いたりして」(手倉森監督)、なかなかリズムが作れない。大宮は25分、仙台対策として取り組んできた、「相手が戻りきる前の、より速い攻撃」(ベルデニック監督)が実を結ぶ。カルリーニョスが中盤で東 慶悟とのワンツーから、仙台DFの間でフリーになっていた長谷川 悠に縦パスを入れると、長谷川が見事なトラップから左足を振り抜き、ゴール左隅に突き刺した。
ファインゴールではあったが、このタイミングでの先制点が、逆に大宮の戦いを難しくした。前節、ノヴァコヴィッチのスーパーゴールの1点を死守した勝利について江角浩司は、「得点したあと、前から行くのか、引くのか、意思統一してDFラインの高さを決めて、しっかりコンパクトにする必要がある。あの試合は得点した時間帯が遅かったから、守りきることができた」と語ったが、この試合では「菊地と『前からもっと行くか、どうする?』という話をしたが」(江角)、結局は全体に守備ラインを下げてしまった。当然、前から積極的にプレスをかけてくる仙台に対し、大宮の攻めはロングボールが多くなり、孤立した前線で次々にボールをロストして仙台の逆襲を食らった。
仙台は大宮が受けに回ったことで、「相手のサイドでの中列を起点とする」(手倉森監督)試合前からのねらいを徹底することができた。「カルリーニョス選手は本来はボランチだし、渡邉大剛選手の守備の癖もスカウティングで分析していた。彼らの背後を取れれば最終ユニットをまた破れる」と、序盤に苦しんだ中盤でのパス回しは省略し、長いボールをサイドバックの大外に蹴り込む攻撃に着手。これは第3節の前回対戦時、大宮に前半で1点リードを許したものの、後半に4ゴールを挙げて勝利したときと同じやり方だが、今回はそこでサイドハーフが起点を作ってサイドバックとセンターバックの間を広げ、その間をウイルソンがフリーランニングし、さらに深い位置を取って攻めたてた。大宮のラインはズルズル下がり、クロスのセカンドボールも仙台に拾われて2次攻撃、3次攻撃を許すようになる。29分には太田吉彰が決定的なシュートを放ち、これが仙台のファーストシュートだったが、あっという間にシュート数で大宮は仙台に逆転された。そして前半終了間際に、仙台は左サイドに起点を作って朴 柱成からのクロスを太田が落とし、走り込んだウイルソンが冷静に江角の股間を抜いて同点に追いついた。
後半に入ってもゲームの流れは変わらない。大宮は「フレッシュな選手を入れて、走りと、ゴール前での危険性も含めて相手に驚きを与えたい」(ベルデニック監督)とノヴァコヴィッチを投入するが、「FWに当ててもボランチの位置が低かったり、間延びして厚みが出せなかった」(江角)ことで、指揮官が期待したような効果は発揮しなかった。高さを生かすべくサイドに振ってクロスを入れても、クロスを上げた瞬間にノヴァコヴィッチはマークを外す予備動作の途中だったりという場面も散見され、この攻撃が脅威となるにはまだチームへのフィットが足りないと感じさせた。66分にズラタン、77分にはチョ ヨンチョルを投入し、3−4−3の形で攻めに出るが、決定機はほとんど作れなかった。
仙台は57分に得意のセットプレーで逆転。「大宮はコーナーキックのときにニアが空く」(鎌田次郎)とのスカウティングから、しっかり練習してきた通りの形で、梁 勇基の左コーナーキックを鎌田が沈めた。そして後半アディショナルタイムにもサイドから、途中出場の関口訓充が下平 匠と片岡洋介の間をドリブルで切り裂き、折り返しをこれも途中出場の松下年宏が豪快に決めて試合を決めた。
試合前に勝負は決まっていたのかもしれない。仙台は大宮を丸裸にしていた。攻撃でのねらいどころはもちろん、守備においても、「ベルデニックさんは指導でよく『Look Top』といって、FWに早めにボールを入れてくるから、そのタイミングを見逃すな」と、かつてコーチを務めていただけに大宮の手の内は分かっていた。もちろん敗軍の将は多くを語らないものであり、大宮も仙台に対してしっかりスカウティングしていたはずだが、仙台のねらいの確かさとプレーの精度がそれを上回り、かつての『師』であるベルデニック監督も、「我々は負けに値するゲームだった」と脱帽するしかなかった。
サッカーは偶然性(運と言ってもいい)が支配する部分の大きいスポーツだが、ベルデニック監督が試合前に「偶然に頼るようなサッカーをしていない」とも評したように、仙台の強さは手倉森監督はじめテクニカルスタッフの分析能力にある。ゆえに、ここ5試合は勝ちがなかったとはいえ4引き分けと、安定した戦い方ができている。逆に大宮が今の順位にいる理由は、偶然性に頼る部分が大きいからだ。前節の勝利は江角のファインセーブと相手のシュートミスに助けられたところが大きいし、この試合まで4試合で毎試合1ゴールは挙げているが、広島戦で長谷川がドリブル突破で得たPKを含め、いずれもFWが個人技で難しい局面を決めたものだ。偶然性が強いということは、要するに再現性がないということで、これでは2点、3点と奪って勝ちきることは難しい。
これで仙台は「首位への追撃態勢が整い」(手倉森監督)、大宮は17位に転落した。8年ぶりの師弟対決は、両者が大きく明暗を分ける結果となった。
以上
2012.08.26 Reported by 芥川和久
J’s GOALニュース
一覧へ- 終盤戦特集2025
- アウォーズ2025
- 明治安田J1昇格プレーオフ2025
- 明治安田J2昇格プレーオフ2025
- J3・JFL入れ替え戦
- AFCチャンピオンズリーグエリート2024/25
- AFCチャンピオンズリーグ2 2024/25
- はじめてのJリーグ
- Jリーグ×小野伸二 スマイルフットボールツアーfor a Sustainable Future supported by 明治安田
- 明治安田Jリーグ百年構想リーグ
- 2025 月間表彰
- 2025 移籍情報
- 2025 大会概要
- J.LEAGUE FANTASY CARD
- 2025 Jリーグインターナショナルユースカップ
- シャレン Jリーグ社会連携
- Jリーグ気候アクション
- Jリーグ公式試合での写真・動画のSNS投稿ガイドライン
- J.LEAGUE CORPORATE SITE













