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【J1:第24節 名古屋 vs 柏】レポート:帰ってきた主力の活躍で名古屋が連勝、6位に浮上!現実的に戦う中での状況判断の確かさが勝敗を分けた。(12.09.02)

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支配力より決定力。要するに、パスを回しているだけでは勝てない。図らずもそれを証明するような形で名古屋は勝点3を手にした。美しく魅力的なサッカーを一部封印し、劣勢の現状に即した戦い方に徹した結果は6月以来の今季3度目の連勝。柏との今季対戦成績も2戦2勝とした名古屋は、また一歩トップ3へとにじり寄ることに成功した。

名古屋の戦い方がどれだけリアリスティックであったかは、スタメンの11人を見ても明らかだった。試合へ向けた練習では3センターMFに田口泰士と藤本淳吾、小川佳純、3トップは玉田圭司を頂点に永井謙佑と金崎夢生という顔ぶれだったが、発表されたスタメンは3センターが田口とダニルソン、藤本、3トップは永井が1トップで両サイドには小川と金崎だった。玉田、そしてようやくケガから復帰したケネディをベンチスタートとしたのは、ストイコビッチ監督が「この試合は後半が勝負になる」と読みを利かせたためだ。ケガ明けで無理をさせられない2選手は、相手の動きが鈍る後半に使って効果を上げようという狙いである。着実に戦力が回復しつつあるチームを目減りさせることなく使い切る。周到な計算がそこには見てとれる。

状況的には現実的にならざるを得なかったのは柏も同様だ。DFラインの軸である近藤直也が出場停止のため、増嶋竜也とセンターバックのコンビを組んだのはまだJ1経験の浅い渡部博文。同じく出場停止のジョルジ ワグネルの代役は澤昌克で問題なかったが、チーム内での存在感が大きい2選手の欠場は戦い方を変えないまでも、慎重になってしまう要素ではあった。また柏は8月の4試合を3分1敗と勝てない状況が続いており、勝負強さという点においても不調に陥っていた。

キックオフ直後から、両チームの狙う展開は明確だった。普段通りにポゼッションから崩しのタイミングを伺う柏に対し、名古屋は自陣に相手が入ってから守備を展開。つまり引いた守備からのカウンター狙いである。1トップの永井にも持ち味の激しいチェイシングを自粛させ、じっとチャンスの到来を待ち受けた。選手たちはみな「今はまず結果が大事」と話していたが、本来目指すべきサッカーの対極にあるリアクションサッカーを徹底するあたりにチームの窮状が見え隠れする。となれば当然、試合を支配するのは柏であり、名古屋は前半、ほぼセットプレーからでしかゴール前に攻め入ることができなかった。柏のネルシーニョ監督も前半の出来には及第点以上をつけたが、ここで得点を奪えなかったことは敗因のひとつだった。田中順也が「決められる時間に決めないと苦しい試合になる」と試合後に振り返った通り、後半は名古屋が持ち直したからである。

後半、名古屋は2つあるジョーカーのカードを開始から1枚切ってきた。前半でミスが散見された小川に代えて、玉田圭司である。古巣との対決を「特別な試合」と心から楽しみにしていたファンタジスタは、1トップの位置からチームをけん引。少し守備ブロックの位置を上げたことで全体のバランスが整備されたこともあり、名古屋の攻撃に迫力と緩急が付き始めた。続く67分には金崎に代えてケネディを投入。まだ本調子には程遠い動きではあったが、存在感は絶大。「簡単に預けられるし、そのあと自分も前に出ていける。やっぱりやりやすい」(藤本)、「ケネディが入ったことでクロスもシンプルに上げてくるようになった」(増嶋)と、名古屋の攻撃をより簡潔に、だからこそ強力に変えていった。

それでも後半の中盤の時間帯には柏も支配力を取り戻し、レアンドロ ドミンゲスのチャンスメークなどで反撃。しかし皮肉にもその勢いが失点につながってしまう。79分、自陣でのパス回しから那須大亮がピッチ中央のネット・バイアーノへ速いクサビのパスを入れる。これを狙っていたのは田口だ。激しいチャージでボールを奪うと、すかさずケネディへクサビのパスを入れる。着実に足元に収めたケネディが振り返り、DFの間を駆け上がる玉田へスルーパス。これを玉田が落ち着いたトラップから右足で流し込み、名古屋にとって待望の先制点が生まれた。「あそこでDFを背負っている選手に入れる必要があったのか。チームで状況判断していかなければいけない」と大谷秀和をはじめ柏の面々が悔やんだ一瞬の出来事。田口、ケネディ、玉田の3人で完遂したショートカウンターは、柏の選手6人が対応したがすべてが後追いになるほどスピーディーなものだった。柏のミスもあったが、ケネディが入って本来のサッカーができるはずの名古屋が、それでも引いてカウンターを狙い続けた判断の確かさも見逃せない。大谷の言う通り、両チームのピッチ内での状況判断が、勝敗を分けた最大の要因になったわけである。

名古屋は得点後すぐに増川隆洋を投入し3バックで守備固め。柏も茨田陽生と水野晃樹を入れて反撃に出たが、これといった決定機は作れなかった。5分の追加時間をきっちり締めた名古屋は虎の子の1点を守りきり、連勝で6位に浮上。勝点でいえば4位タイであり、一気に上位への視界が開けた。逆に柏は名古屋のいた8位に転落し、ここ1ヵ月勝利なしという泥沼の展開に。「いいゲームはできているが、決めるところを決めなければいけない」とネルシーニョ監督は語ったが、決定力の改善というのはサッカーの指導の中で最も難しいことでもある。

この試合は常にピッチサイドで檄を飛ばし続けた名古屋のストイコビッチ監督は、粘り強い勝利に上機嫌で語った。「今日はできる限りの“全て”をやり切れた。勝ち方を“知っていること”、これが一番重要だ」。確かにこの試合の名古屋は、優勝した2010年や2位となった昨季のような勝負強さを発揮した。本来のスタイルではない部分は改善点ではあるが、柔軟な状況対応能力だと考えればオプションにもなる。守備からカウンターで結果を重視し、戦力の充実とともに“美しいサッカー”を取り戻す。残り10試合、逆転優勝を諦めない名古屋の方向性は定まった。

以上

2012.09.02 Reported by 今井雄一朗
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