テレビで観た岡山とスタジアムで観る岡山の印象は随分と違った。印象というより、怖さかもしれない。毎節岡山の試合を観ている訳ではないし、スタジアムで見た1試合だけで正確な評価はできないが、「もっと上の順位にいてもいいはず」ということは試合中に何度か思う内容だった。ポゼッションのスタイルはチームによって違うが、岡山の後手を踏ませるパスワークがハマったときは脅威。前に出るチームには特にハマり易いのではないだろうか。前日、城福浩監督が「(岡山は)影山(雅永)監督の意図が浸透しているし、共通認識を持ってプレーしている。(前回の対戦は)崩されてシュートまで持ち込まれたことは我々の方が多かった」と話したが、それを聞きながら「今回はそんなことないはず」と根拠もなく思っていたが、プロのスカウティングが凄いことも実感できた。
「甲府に勝ってほしい」と思って観ているから、ピンチはより大きなピンチに感じがちになるのだけれど、公式記録のシュート数が甲府16本に対して岡山7本というのは体感より少なかった。試合中は後手を踏まされる原因をみつけようと思っていたが、分かった(つもり)のはボランチの後ろのスペースを使われてセンターバックが吊り出される場面と、ワンタッチパスを連続するから甲府のファーストディフェンダーがアプローチしきれずにボールを見てしまってマークが緩くなるということ。この点について、監督会見後に城福監督の考えを聞こうと頭にメモしていたが、時速40キロで会見室を出て行った城福監督に追いつくことができずに断念した。
ともかく、岡山のパスワークは素晴らしいということ。川又堅碁は「毎日の練習でサボるような選手はいないし、みんな真面目に取り組んでいる。コーチングスタッフもトレーニング方法をいろいろ考えてくれているし、選手もそれを信じてやっている」と、岡山が一枚岩であることを強調する。執行部から党首選挙に立候補するような人が出ない団結力があるのだろう。ただ、「(甲府と)内容では差を感じなかったが、トレーニングではもっと技術面を突き詰めないと勝てるようにならない」と川又が言うように、前半から何度かあった決定機に決めきれなかった岡山。甲府は、「守備の役割分担がはっきりしてきたし、軽率なプレーがなくなった。そして、最後の場面はみんなが身体を張ってくれる。ゴールキーパーは判断に迷うことなく自分の特徴を出してプレーできる」と荻晃太が言うように、最後の砦が堅固でもある。甲府が勝てる理由の一つがココ。前半17分の金民均のシュートは、ミスだと思うが、20分の川又のシュートに出て行った荻の迷いのないプレーにそれが象徴されている。残念なのはそういうシーンがその後も何度かあったことだが、良かった点は堅固であり続けたこと。
前半の後半あたりから甲府が主導権を取る時間が長くなり、岡山がワンタッチパスを連続させるカウンターで対抗することで、お互いのバランスが取れたがゴールは決められずに0−0で前半を終えた。後半は、開始直後に甲府のクリアミスから岡山が決定機を迎えたのでなんとなくやられた感じで始まったが、マークは出来ていた。岡山が思い切りよくワンタッチパスを使ってくるだけに、甲府が後手を踏まされているイメージが強くなりがちだったが、「ボールを回されても(最後は)中を閉めるから問題ないと思っていた」と佐々木翔が言うように、スタンドから見ている印象と違って、選手は自信を持ってプレーしていた。そして、60分。少しイライラし始めているように思えたダヴィに佐々木がペナルティエリアの外から浮かして入れた縦パスが通り、出てくるGK・中林洋次に後手を踏ませるようにダヴィが右足で触ってゴール。なんだかんだ言っても決めるのはダヴィ様、という嬉しいゴール。ダヴィも組織的なプレーをやるようになって、少し野獣度が下がったのではないかと心配していたが、進化しつつも凄みは失っていなかった。
0−1になれば岡山がアクセルを踏むのは当然。65分には金がディフェンスラインの前でフリーで受けたボールから竹田忠嗣の決定的なシュートにつなげるが、ここも「本当に草食系?」と思えるほど積極的な荻の飛び出しで甲府が防ぐ。ダヴィがゴールを決めることも素晴らしいが、相手の決定機に最後の砦が機能していることがチームとして素晴らしい。ただ、岡山のパスワークに甲府は最後まで苦しめられた。それだけに、「2点目が欲しい」という思いで見ていた人が多いと思うが、77分のフェルナンジーニョのシュートは中林が足に当てて防ぐなど、岡山も崩れない。終盤はお互いに選手交代でダメ押しゴールと同点ゴールを狙うが、最後は甲府が逃げ切りに成功。千葉、山形、京都という昇格争いのライバルが敗れ、2位の湘南が勝ち切った夜に甲府も勝点3をもぎ取った。プレーオフ圏内入りを目指す岡山は半歩後退という結果だが、まだ9試合ある。次のホーム湘南(2位)戦に勝てば2歩くらい前進の価値があるし、岡山サポーターも喜ぶし、甲府サポーターも喜ぶ。
試合後、影山監督は「我々は胸を張ってこのサッカーを続けて行きたいと思います」と話したが、これは「異議なし」と言いたくなる堂々としたコメントだった。岡山サポーターはこのチームが影山監督のもとでどんなふうに成長していくのか楽しみだと思う。大木武監督(現・京都監督)や安間貴義監督(現・富山監督)の頃の甲府も似た雰囲気の期待や希望がつまっていた様な気がする。でも、このまま3年やり続ければJ2で優勝できるのかといえば、別の問題に出くわすと思う。バルセロナのような土壌があるなら違うだろうが、「いいサッカー」で勝てるとは限らない。「勝つサッカー」に振り子を振る必要もあるのではないだろうか。で、今の甲府につまっている希望や期待は少し違う。どの監督もいいサッカーをやって勝ちたいとは思っていても、そんな夢が叶わないのが現実。どうしてもどちらかに振り子は振れる。世界中から最優秀な選手を集めてチームを作っているわけではないのだ。甲府は城福監督のもとで現実的な振り子を振りながら「勝つ」サッカーをやれている。「今年のJ2ではね」という前提があるが、昇格しなければJ1での挑戦もできないので何の問題もない。こういう戦い方は甲府にとって初めての経験だと思う。昇格した05年とも10年とも違うし、J1に残留した06年とも違う。だからこそ、城福監督でJ1に行ってどんな戦いになるのか知りたい。残り9節。NISSANもKAWASAKIも最上級はZ。JFK甲府も今シーズン最上級のZに近づきながら勝ち続ける。
以上
2012.09.15 Reported by 松尾潤
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