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【J1:第25節 川崎F vs 鹿島】レポート:2点差を追いついたにしては後味の悪い試合。川崎Fが幸運な勝点1を手にする(12.09.16)

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押し込みながらも先に2失点した前半の拙い試合運びは頭を抱えたくなるレベルだった。1点を追いかける後半は、効果的な攻撃がほとんど出せなかった。そうした試合展開もあり、非常に後味の悪い試合だった。そしてその後味の悪さに比べると、勝点1が残ったという事実が不思議だった。体にまとわりつく感覚は、敗戦時のそれとよく似ていたが、結果として川崎は勝点1を手にした。非常に不思議な試合だった。

そんな倒錯的な試合後の選手たちの反応は、決して悪いものではなかった。前半早々に2点を失った守備陣は、自分たちに対処方法があったのだと失点を振り返る。例えば井川祐輔。1失点目に関しても、2失点目に関しても、その失点については理由があるのだと説明。「僕らの意識を代えるだけで、防げた失点もあった」とする。そして、だからこそ修正が可能なのだと前を向いていた。

そして複数の選手が、前半に作り出したチャンスの場面を悔やんでいた。例えばそれは8分に山瀬功治から中村憲剛へとつながり、エリア内に走りこんだ風間宏希にマイナスのグラウンダーのラストパスを合わせた場面に象徴的である。相手を完全に無力化した状態にまでは局面を作れており、決めるも外すもそれは川崎F次第という場面だった。そうした場面を作れていた事が、希望になっていた。

しかし、その一方で鹿島の試合運びはうまかった。試合開始早々の6分に先制点を上げていたこともあり、彼らは自陣でブロックを作り、川崎Fが回しているのではなく、川崎Fにボールを回させている、という感覚で試合を進めていた。その戦いは、17分の2点目の得点により盤石なものになるはずだった。

負けパターンに入ったように見える川崎Fは、そこで落ち込むことはなかった。それまでの試合内容の良さも後押ししていたのだろうが、特に實藤友紀のメンタルは前向きだった。實藤は、結果的に1対1の対応を誤り、PKを与える事になった選手である。

「(PKを与え2点差になった後)あそこまで行くと楽しむしかなくなる。PKを与えたからと下を向いたらダメ。気にせずに、仕方ないと思っていました」

そこにはいい意味での開き直りの精神状態があった。腰椎部分の骨折により戦線を離脱していた實藤にとってこの試合は復帰戦である。だからこそ、「チームに迷惑をかけた、どうしよう」ではなく「じゃあ、やってやる」と気持ちを前向きに切り替えたのである。

19分に生まれた川崎Fの1点目は、その實藤のゴールとなる。スルスルっと前線に顔を出した實藤は、中村憲剛にパスを付ける。「リターンが帰ってくることを信じてました」という實藤は、スペースのあったエリア内に入り込み、中村からのパスをコントロール。テクニカルな身のこなしによってボールを流し込むのである。

1点を返した川崎Fは、その後も鹿島を押しこみチャンスを作り続けた。だからこそ、後半の試合展開は意外なものとなる。鹿島にうまく対応され、シュートにまでなかなか持ち込めなかった。その一方で、鹿島はチャンスを演出し続けた。そんな中、川崎Fは耐えた。

杉山は「3失点目を奪われないように気をつけました」と試合を振り返る。そうやって1点差を保ち続けたことが吉と出る。試合も終盤に差し掛かった78分の事だった。

この試合を前にした一週間、風間八宏監督は選手たちに「個人の利益とチームの利益がいっしょになるようにしよう」と言い続けていた。個人とチームプレーとの適切なバランスを図っていたのである。そして、その指導がこの78分の大島僚太のゴールとして結実する。

左サイドでボールを運んだ川崎Fは、中央の大島にパスを付ける。エリアの外でボールをもらった大島は、当初前方にポジションを取っていた風間宏矢とパス交換することを考えていたという。相手を崩す方法の一つとして、ショートパスを多用してきた風間サッカーにおいては当然の発想である。また風間宏矢も「今週まで(鹿島戦前の1週間を経験する前の週まで)は」との前置きに続き、「止まってワンツーを狙っていたと思う」と述べている。しかし彼は「個人とチームの利益の一致」をコンセプトとした練習の成果もあり、パスを受けられるよう対角線の動きを見せるのである。しっかりと訓練された鹿島の守備陣は、この風間宏矢の動きを見逃さなかった。そしてこの動きによって、大島にスペースが与えられ、同点ゴールとなるミドルシュートが放たれる事となるのである。

もちろん、だからといって手放しで練習の成果が出たのだと、この試合内容を褒め称えるわけにもいわかない。後半鹿島に打たれた13本のシュートは、同じく後半に川崎Fが放った4本のシュートの3倍を超えている。後半89分にはジュニーニョがゴール至近からのシュートを外した場面もあり、勝点1の試合結果は鹿島の拙攻に助けられた側面もある。だから試合後の会見で風間監督は「最後の方で、チームの中での一人ひとりの判断が少しちぐはぐになっていた。大きなピンチを何回か招いた。そういう意味ではポイントを拾ったゲームだと言っていいんじゃないかと思います」と率直に勝点1を手にできたことを幸運だったのだと表現している。

「もっとミスを恐れずにやらないとだめだ」と話す中村は、前半に近い距離を保っていた風間宏希と大島僚太との距離が後半離れてしまった事がペースを奪われてしまった原因であると述べている。つまり、中盤の選手の距離が不適切であり、サイドにボールが移動する傾向が強まったのであろう。鹿島が後半はサイドでボールを奪う場面が増えていたことを考えると、そうした戦いを鹿島は狙っていたのかもしれない。前述した通り、シュートを思うように打てなかったという試合展開も含め、後半は川崎Fにとっての見所は殆ど無かった。

内容は悪かった。しかし、前向きなメンタリティによる1得点と、練習の成果による1得点が決まりかろうじて勝点1を手にした。その点については、前向きに評価すべきであろう。ただ、降格圏のボーダーラインがじわじわと迫り来る中、着実に勝点を積み重ねる戦いが求められている。得点も失点も、そこに至るステップは自明であり、修正も可能である。そうした心の余裕は大事ではあるのだが、そこに安住することは避けたい。サポーターのためにも、勝てていない現実を真正面から受け止める必要がある。

以上

2012.09.16 Reported by 江藤高志
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