レナトが左サイドでの1対1を仕掛ける。この試合のそれまでの攻防を頭に思い浮かべつつ、タテに抜き去るところまではイメージができていた。しかし、そこでレナトは想像を超えるプレーを選択した。対応したDFを左右に揺さぶってゴールを視野に入れると、そのまま左足を振り抜いたのである。誰もがPK戦を覚悟していた延長後半のアディショナルタイムでの出来事だった。
凄まじい球速のシュートはニアポストをかすめ、そしてゴールネットに突き刺さった。勝利を確信したスタジアムは歓喜に沸き返り、そして試合終了のホイッスルが吹き鳴らされた。川崎Fがホームに徳島を迎えた一戦は、共に譲ることのない激戦となった。
先手を打ったのは川崎Fだった。それは意図しない形で徳島を揺さぶっていた。試合後の会見で小林伸二監督が「基本的に4−4−2です」と話すのは、徳島の通常のフォーメーションである。それに対し、この試合で徳島が採用したのは3−4−3のシステムだった。川崎Fが3−4−3を使うかもしれない、という情報がその根拠だったと話す。
「川崎さんが噂で3−4−3でくるのかなと。うちが4枚なのでより前でプレスを掛けてくるという話が情報として入っていたので」
どんなシステムを使うにせよ守備の時間が長くなることを覚悟していたという小林監督は、3−4−3で試合に入ることで川崎Fのシステムの裏を突くことを想定していたのだと話す。川崎Fの情報を元に採用した戦術は、小林監督の思惑通りの展開をたどる。川崎Fがゴールを狙い、ポゼッションを続けていた前半中頃の24分のこと。左サイド(川崎Fから見て右サイド)の鈴木達也から、中央のキム ジョンミンへとパスが通り、さらに右サイド(川崎Fから見て左サイド)でフリーになっていたアレックスにパスが通る。
川崎Fは小林監督が得た情報どおりに3バックで試合を進めていた。左のストッパーの位置に入っていたのはジェシ。彼の左側に広がるスペースは、ジェシはもちろん、そのひとつ前にポジションを取る山越享太郎がポジションを下げてケアするような約束になっていた。
「ボールが逆の時(左サイドの山越から見て、右サイドにボールがある時)はジェシの横に戻るように言われていました。ジェシとアレックスが1対1になった場面は、僕が戻っていれば問題なかったです」
つまり川崎Fから見て右側に徳島のボールがあったのだから、鈴木達也がボールを保持していたこの時点で山越は、彼自身がそのポジションを下げていればよかったのだと反省しているのである。しかし、アレックスはフリーのままボールを引き出し、ジェシとの1対1に。この時のことをアレックスは「自分がいつも居るポジションでした。得意なポジションでした」と振り返る。アレックスがボールを受けた瞬間に、そのアレックスの右足側にジェシは一歩を踏み出してしまう。簡単にそのジェシをいなしたアレックスが、利き足の左足からシュートを放った。
よもやの失点にベンチの決断は早かった。登里享平を下げ、大島僚太を投入するための準備を進めるのである。そんな中、26分にレナトがFKを直接ねじ込む。レナトがFKを蹴る直前、手前からダッシュして壁に入ったジェシの動きは、現横浜FMの谷口博之のそれを彷彿とさせるものがあった。ジェシの動きに惑わされたということもあったのだろうが、川崎Fに来て初めて見せる弾道のレナトの直接FKが決まった。
同点に追いついた川崎Fは、用意していた大島を27分に登里に代えてピッチに投入。数プレーほどを経過させた後、大島を1ボランチでプレーしてきた風間宏希の横に置き、ボランチを2枚に増やすという采配を見せる。そしてこれによって川崎Fは中盤が安定し、盤石の態勢のまま試合をすすめる事となる。
後半も試合を支配したのは川崎F。69分に井川祐輔を下げ風間宏矢を投入し、慣れ親しんだ4−2−3−1(4−3−3)のフォーメーションに戻すと78分には楠神がレナトからのパスを受け、逆転ゴールをねじ込む。後半のこの時間帯までに川崎Fが徳島に許していたシュートは0本。試合はそのまま終わるのだろうとの楽観的な空気が等々力を弛緩させ、強い心を侵食していたのかもしれない。「敬意を込めて胸を借り、そして勝つ」との決意の中、少数精鋭で応援を続けていた徳島サポーターと、彼らの声を受けた徳島の選手を除いて。
後半のアディショナルタイム、90+1分の失点を悔やむ實藤友紀は「最後の失点とかはシンプルにプレーしていれば問題なかったところ。そういうところでも隙を見せるとレベルに関わらずやられてしまうという事だと思う」と反省の弁を口にする。
誰かが悪いという事ではなく「勝てそうだ」という空気に、気持ちが蝕まれてしまったのであろう。集中を切らした一瞬のエアポケットを突かれ、衛藤裕からキム ジョンミンに渡ったクロスボールはさらに中央の津田知宏の元に。ほぼ、勝ちが確定していた川崎Fは後半唯一徳島に許したシュートにより失点。試合はそのまま延長戦に入る事となった。
消耗戦の様相を色濃く見せていたのは徳島だった。
「取った後、中盤がやっぱりミスが多かったのは残念だったなと。取った後だったり、ちょっとしたイージーミスを引っ掛けられたというのは、ちょっと多かった。それで2つのカードを、ボランチの選手を代えなけれればならなかったのは誤算でした。そこはもったいなかったです」と小林監督。前半から出色の出来を見せ、徳島に戦う力を与えていた青山隼と上里一将の両選手はそれぞれ75分、84分にピッチを去らざるを得なかった。この2枚の交代により「前の(攻撃の)カードを切れなかった。そこがもう少しうまく運べていればよかったというところがあります」と小林監督は無念さをにじませた。
とは言え、川崎Fの攻撃を120分間では2点に抑え、そして2ゴールを奪った徳島の戦いは賞賛されることはあっても批判されるべきものではないだろう。結果的に延長後半のアディショナルタイムに決勝ゴールを許したが、その粘り強い戦いぶりは、今のJ2での順位が彼らの実力を正当に反映していないように見えるもので、実際に会見でもそうした質問が出るほどだった。そして堅守の徳島を、最終的にこじ開けた川崎Fの攻撃もまた見事なものだった。
3バックへの転換に当たり「戦いのやり方は変えていない」と話していた風間監督は柔軟に試合中にフォーメーションを変化させ、選手の組み合わせのベストな形を追求し続けた。2失点は反省すべきものであり、また90分では2−2のスコアであるという点を考えれば手放しで喜べない結果である。しかし、形は作れており、そこにレナトという決定力が加わることで強さは実現できるはず。そうした今後につながる可能性を見せてくれた試合となった。
ちなみにチームの大黒柱である中村憲剛は日本代表の欧州遠征のため不在。その中村の不在を風間宏希と大島の両選手の働きでカバーしていたことについては付記しておきたいと思う。ポストケンゴの時代への希望になりうるプレーぶりだったように思う。
以上
2012.10.11 Reported by 江藤高志
J’s GOALニュース
一覧へ【第92回天皇杯 3回戦 川崎F vs 徳島】レポート:レナトが見せた決定力で、川崎Fが徳島を振り切る。お互いにシステムを駆使し、可能性を追求した両者の戦いは延長後半アディショナルタイムの決勝弾で決着(12.10.11)















