前半のうちに先制点を奪い、後半相手が前がかりになってきたところでカウンターから追加点。そしてアディショナルタイムにダメ押しの3点目を決めて完封勝利。しかも、3得点すべてを決めたのが新時代のエース・大前元紀。大まかな流れだけを振り返れば、清水が完璧な勝利を果たしたように見える。
しかし、ヤマザキナビスコカップの決勝戦に進むのは、そう簡単ではない。ひとつのプレーが違う方向に転んだだけで、試合内容も結果もどう変わっていたかわからない。そんなスリルが90分間漂い続け、内容的にも非常に拮抗した好勝負だった。
立ち上がりは、どちらも先に失点したくない試合だけに、まずは守備の安定を重視する入り方に見えた。清水は、9月の2試合でかなり裏をとられた石川直宏に対して、吉田豊を左サイドバックに回して対抗。右サイドバックには不慣れな18歳の石毛秀樹を起用したため、いつもは左にいるボランチの村松大輔を右に回してカバー役を任せた。前線からのチェイシングもそれほど深追いせず、早めにリトリートして守備組織を整えることを重視する動きを見せた。
それはF東京も同様で、清水ボールになった瞬間にはすかさず奪い返しにいくが、そこで取れなければスッとリトリートしてコンパクトな3ラインのブロックを整え、スペースを消して清水にパスの出し所を与えない。そのため両チームとも、攻撃の際には前線にパスを通すスペースをなかなか見つけられず、序盤は高いDFラインの裏を狙うロングパスが多くなった。
つまり、スタートはどちらも様子見の状態で、どちらも自分たちのスタイルとは言えない展開。これがもしリーグ前半戦の1試合であれば、サポーターからブーイングが出てもおかしくない内容だが、この試合の重さを考えれば、逆に相手のスキを探り合う緊張感が、見る側にも醍醐味として感じられた。
そんな中での前半9分、清水のDFラインが揃わずにオフサイドをとり損ねたところからエジミウソンが裏をとり、両チームを通じて初めてのビッグチャンスをF東京が迎えるが、左足のシュートはわずかに左に外れてしまう。
それに対して清水は、26分のセットプレーの2次攻撃から右に開いた高木俊幸がクロスを入れ、ファーサイドにするするとフリーで入った大前元紀がヘッド。しっかりと地面に叩きつけられたボールは、ちょうどGKには触りづらいバウンドになり、逆サイドのゴールネットにタッチダウン。清水が最初のチャンスをしっかりと生かして、値千金の先制ゴールを奪った。
その後も清水の戦い方は変わらない中で、決定機の回数は明らかにF東京のほうが多かったが、シュートはどれも枠を外れてしまう。また清水のほうも、44分に長谷川アーリアジャスールに抜け出された場面では、GK林彰洋が勇気ある飛び出しで長谷川の身体ごとストップし、気迫と集中力の高さを見せつけた。
後半は、立ち上がりからF東京が一気に攻め立て、開始数十秒のところで左クロスからビッグチャンスを作り、長谷川とルーカスが続けざまに決定的なシュートを放ったが、どちらも決めきれない。その後もF東京が攻勢を続け、高さで圧倒的に優位に立つセットプレーのチャンスも何度か続いたが、やはり攻めきれない。
スタメン11人のうち、F東京には180cm以上の選手が8人いたのに対して、清水は4人だけ。F東京のCKは後半だけで11本もあったが、そこで得点を与えなかったことも、清水にとっては非常に大きかった。
後半10分あたりからは清水もようやくペースを取り戻し、落ち着いてF東京の攻撃をしのぎながら試合を進める中、18分に待望の追加点をつかむ。自陣に押し込まれた状況から左タッチライン際の高木俊幸が大きく逆サイドの裏に出したボールは、走り込む大前の足下にピタリと通り、大前が細かいドリブルから放ったシュートは低い弾道で左ポストぎりぎりに突き刺さる。ここでも高木→大前のホットラインが機能し、小さなエースが素晴らしい決定力を発揮した。
ただし、2-0となってもF東京が1点返すだけで2試合合計では完全にイーブンな状況になるだけに、清水としてはまったく気を抜けない状況が続く。だが、なかなか勝てなかった時期と違って、最後まで守備の集中力が落ちないのが今の清水。選手たちが互いに声をかけ合い、重い身体を動かして守備組織を保ち、セットプレーでもつけいるスキを与えずに、5分と表示されたアディショナルタイムも確実に守り続けた。
そして、アディショナルタイムに入って投入された鍋田亜人夢がF東京のミスを突いてPKを獲得。これを決めた大前のハットトリック(プロ初)というオマケ付きで90分の激闘を締めくくった。これで清水は4年ぶり5度目の決勝進出が決定。先発11人の平均年齢が23.09歳、ニューヒーロー賞の対象選手が7人という若いチームで勝ち取った大きな1勝だった。
逆にF東京にとっては、何度も決定機がありながら1点も取れなかったことが、もっとも悔やまれる部分。内容では押していたが、守備面でゴール前での甘さがあったことも否めない。
対照的に清水は、攻守ともにゴール前で力を発揮。終盤の苦しい時間帯でも、「みんなで声をかけ合って、集中して守れていた」(村松)、「チームも自分も良い雰囲気でやれていて気持ち良かった」(石毛)という言葉が、チームの団結や精神面の充実ぶりを物語っている。
ただ、清水にとってひとつ残念だったのは、ゲームキャプテンの杉山浩太がイエローカードを受けて、決勝戦が出場停止になってしまったこと。後半13分に彼がカードを出された場面は、自分のミスは自分で取り戻さなければならないという強い意志が表われた結果であり、そうした熱い責任感や闘志が若いチームを支えてきたことは間違いない。そんな杉山の想いに報いるためにも、11月3日の国立競技場で再び若い力を100%以上発揮することが求められる。
以上
2012.10.14 Reported by 前島芳雄















