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【J2:第38節 甲府 vs 湘南】レポート:J1昇格争いど真ん中の甲府対湘南戦。置かれた環境でベストを尽くしたJFK甲府がJ1復帰。今度は山梨県民がこの偉業を評価することになる(12.10.15)

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満員(公式発表は16643人)の山梨中銀スタジアムの観客席を見渡して思い出した言葉がある。

「シーズン最初に城福(浩)監督から『スタジアムを満員にするのは自分たちの力(でやるもの)』。と言われた。明日満員になればプレッシャーよりも喜びの方が大きくなると思う。サポーターがそういう状況を作ってくれることに感謝したい」、と前日練習後、キャプテンの山本英臣は話していた。選手とスタッフはここまで戦い抜いて、第38節に満員のスタジアムを勝ち取ったのだ。

「補強するための余力は自分たちの力で稼がないといけない」という趣旨の言葉も思い出した。これは城福監督の言葉で、大口のスポンサーがポンと強化費を出してくれる環境ではないだけに、自分たちが魅力的なチームとなって観客を増やしてクラブの収入を増やさないといけないという意味の言葉。この1試合で全てが変わるわけではないが、06年のJ1初年度の浦和戦以来の満員を勝ち取ったことは本当に素晴らしい。

アウェイの湘南サポーターも、ゴール裏のスペースをギッチリ埋めた上に、ライトグリーンとブルーのコレオグラフィーまで用意して、青赤VS緑青の対決を盛り上げてくれた。自動昇格の2位以内を確保するために5試合ぶりの勝利が欲しい湘南に対して、勝利と京都の負けという条件で、昇格だけでなく優勝まで決まる甲府も勝利が必要。ホームで勝てば、優勝、昇格、20試合負けなしなどのタイトルや記録をサポーターと一緒に喜ぶことができる。予想していた硬さのなかった甲府とアグレッシブな湘南との戦いは、イージーミスのない素晴らしい内容の立ち上がり。大槻周平をワントップに置いた湘南は、その下のキリノと菊池大介の機動力や展開力を活かそうとし、甲府はサイドハーフへのマークを緩めることなく、湘南の湧き出る攻撃に対応していった。

お互いのマークが激しくなっていき、倒れる選手も増え、湘南の攻撃が徐々に深いところまで届き始めた頃、湘南の先制ゴールが決まる。甲府の左サイドで古林将太が佐々木翔を振り切って入れたクロスを、ファーの高山薫が福田健介に競り勝って中に折り返し、大槻がヘッドで仕上げたゴール。2回振られたことで大槻に対する中央のマークは外れていた。湘南の両サイドハーフが甲府の両サイドバックに勝って生み出したゴールでもあった。ただ、甲府は焦る必要も、急遽決まった「優勝ビールかけ」のビールを片付ける必要もない状況だったが、ダヴィがイライラしてイエローを貰って負けるというのが最悪のシナリオとして頭に浮かんだ。しばらくダヴィの様子を注目して見ていると、熱くはなっているが制御できている熱さで安心したのだが、記者席の隣に座っていた湘南の美人レポーターが「湘南は先制した試合は負けなしです」と、教えてくれた。甲府の昇格に対しては――時期を問わなければ――不安はないが、満員の観客の前で昇格を決められなかったら盛り上がりに水を差すことになりかねない。

若干の不安を抱えてハーフタイムを過ごしたのだが、後半に入ってすぐに井澤惇が同点ゴールを決めてくれた。今シーズンは10番を背負った重圧や体調を崩した時期などもあって難しいシーズンだった。何度もあった決定機にもゴールを決められずに、大西容平(甲府→富山)以来の「ノーゴールの呪い」に苦しんでいた。チャンスボールが来ると「やべぇ、ボールが来た」とまで思うほどトラウマになっていたそうだが、フェルナンジーニョが右サイドから入れたボールに走りこんでいた井澤は、「何かを考える余裕はなかった」という状況でシュートを打つことができた。明鏡止水、無心のゴール・・・というほど哲学的ではないが、井澤は愛されキャラ。みんなの弟・井澤の今シーズン初ゴールをスタジアム全体が喜んでいた。でも、このゴールの余韻を楽しんでいたら、キリノがズドーン。1分後には古林のクロスをキリノが頭で決めていた。(やっぱり、ビールは片付けたほうがいいのかも)なんて思ってしまうゴールだった。井澤が「ようやく決まった初ゴールだったけど喜び終わる前に(失点して)強制終了でした。でも、1本決まれば次々に決めますよ」と言うように、出入りの激しい2分間だった。

1点リードされた状況は変わらない甲府は津田琢磨を下げて石原克哉を投入。城福監督は週末の試合に向けて、色々なケースを想定した複数の配置をシミュレートするのだが、この配置はリードされている時のもので石原の運動量を活かすことが狙い。時間とともにゲームの熱量が高まっていく中で、シュート態勢に入ったダヴィの足に湘南の選手の足がかかって甲府がPKを獲得(62分)。湘南のGK・阿部伸行が入念にストレッチをして時間を使ってダヴィの集中力を乱そうとしたが、ダヴィは感情をコントロールしてきっちり決めて同点。ベンチ前で熱く抗議していた城福監督が蹴っていたら外したかもしれない場面だった。お互いに「勝ちたい」という気持ちが高いレベルでぶつかり合っているから、いろいろなことが起こるがいい試合であることには変わりない。

2−2になって思い出したのは、「ダヴィが決めると甲府は負けなし」ということ。ここまで4回しか負けていないのでジンクスになるのかどうかわからないが、先制点を決めると負けない湘南のジンクスと折り合いをつけるとすれば「『引き分け』が落としどころか」と、となりの湘南の美人レポーターに言うと、(オッサン黙れ)と顔に書いてある愛想笑いだけが返ってきた。彼女が愛する湘南は前線にフレッシュな選手を投入しながら配置を修正して3点目を狙ってくるが、甲府は中盤以降の選手を投入して、勝点3を狙いつつも1は最低でも確保する戦いに徐々に移行していった。アディショナルタイムにゴールを決められて敗れた、09年の第49節に展開が似てきているので、(この盛り上がりの中で負けて、何にも決まらなかったら・・・)と思うと熱が出てきそうになる後半の終盤。疲れもあってか、お互いにミスが出やすくなって、ショートカウンターの回数も増えていた。4分間のアディショナルタイムには、甲府のGK・荻晃太が接触で傷んで、その治療の時間分アディショナルタイムが長くなった。結局は6分間だったのだが、湘南のCKが続いた最後の2分間は呼吸をするのを忘れそうになるほど。でも、今回の対戦では坂本紘司のアディショナルタイムのゴールは決まらず2−2で引き分けた。

甲府のゴール裏の前には山梨中で買い占められた青赤の紙テープが乱舞していた。1年しかJ1にいることができなかったチームが1年でJ1に復帰するという偉業を達成した。20試合連続で負けなしの新記録も達成した。でも、一番素晴らしいと思うのは最後から2試合目のホームゲームで山梨中銀スタジアムを満員にできたことだと思う。観客数が1万人を切ることが少なくなかった今シーズンだが、最後には多くの人々の関心を集めることに成功したことが嬉しい。練習グラウンドを転々とする状況の中、今週はとくに最悪の週だった。毎日違う5箇所のグラウンドを使い、なかには半ば放置されていうようなピッチもあった。この環境でも選手は自分たちでゴールや道具を運んで、お世辞にも綺麗とはいえないロッカールームやシャワールームを使って試合の準備をしてきた。
ブツブツ文句くらいは言ったかもしれないが、手は抜かなかった。そして掴んだJ1昇格と満員のスタジアム。多くの観客が山梨を誇りに思うことにつながる昇格だと思う。「ひとつのプロクラブのために税金を使って施設を作ることはできない、独占的に貸すこともできない」という考え方も理解できるが、ひとつのプロクラブが喚起した感動や活力や郷土愛を無視することはできないだろう。満員の山梨中銀スタジアムで達成したJ1昇格を山梨県民がどう受け止めるのか。JFK甲府が1年をかけて蹴り出したボールは、いま県民の側に届いた。県民がどんなボールを蹴り返すのだろうか。

京都、千葉、東京Vと上位が敗れた第38節。湘南にとって最悪ではない勝点1ではないだろうか。この結果を見ても分かるのは甲府がダントツの実力で独走して昇格を勝ち取ったのではなく、2位以下が転ぶことが多すぎた。それだけに、まだまだ2位以下の争いは混戦が続く。勝ち抜く秘訣は分からないが自分たちとチームを信じ抜くことしかないだろう。3連敗して2引き分けでも2位にいるのは長いシーズンの積み重ねのおかげ。最近の成績を悔やむよりも、ここまで成し遂げてきたことを誇り、信じて湘南は突き進めるはず。曹貴裁監督が言った「今シーズンのJ2最高の試合だと思う」という言葉は甲府にとっても褒め言葉だし、湘南の自信でもある。甲府はJ2優勝に向けて進む、湘南は2位自動昇格に向けて進む。J2昇格争いど真ん中の山梨中銀スタジアムで最高の試合を戦った両チームが相応しい結果を手に入れることを願いたい。

以上

2012.10.15 Reported by 松尾潤
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