青山敏弘に澤昌克がピタリ。大谷秀和・茨田陽生のダブルボランチは高萩洋次郎・森崎浩司の2シャドーを明確にマークし、佐藤寿人は2人のセンターバックで挟み込む。ジョルジ・ワグネルは森脇良太、工藤壮人は水本裕貴を、そして田中順也は千葉和彦と森崎和幸の2人を厳しく監視。サイドの1対1を含め、柏のフィールド・プレーヤーは全員、自らのマークを明確化し、いつものスタイルを捨てリアクションサッカーに徹する。そのマンツーマン・システムが先制点の起点となったのだから、策士・ネルシーニョの面目躍如と言えるだろう。
前半アディショナルタイム、千葉のクサビを高萩が受ける、その瞬間をマーカーの大谷が鋭く狙った。厳しいプレス。ボールはこぼれ、さらに広島に不運が。危険を察知して守備に参加した佐藤の足に当たったボールが、工藤の足下に入ったのである。水本との1対1。しかし、工藤の狙いはシュートではなく、スルーパス。走り込んだクォン ハンジンの強烈なシュートがネットを揺さぶる。
鮮やかなカウンター。
柏は会心、広島は痛恨。
実は広島・森保一監督は、前半の途中から柏のマンマークシステムに対する打開策を見い出していた。攻撃時には最終ラインに入る森崎和と「4−1−5」の「1」にいる青山とのポジションチェンジを頻繁化させること。澤はそのまま青山につく必要があり、田中は千葉を見る。論理的に考えれば、この策によって背番号8(森崎和)はフリーになる。
実際、この施策によって柏の守備は混乱をきたした。52分、高い位置に入った森崎和の縦パスを森崎浩がスルー。受けた佐藤のスルーパスに3人目で飛び出した背番号7(森崎浩)が利き足ではない右足でネットに突き刺した。森保監督の修正の的確性をこの同点劇が証明したのである。それだけに「前半の失点が痛かった」と森崎和は唇を噛む。
相手の動きに合わせることは、自らの意志で動くことよりも倍の疲れを肉体と精神に及ぼす。特に縦横無尽の動きを見せる2シャドーへのマークは、外側から見るほど簡単ではない。後半、柏の守備に緩みが出ることも予測していたネルシーニョ監督は63分と早い時間で大谷を諦め、人に強い安英学を投入。中盤の守備を引き締める策に出た。
ただそれでも、広島の1トップ2シャドーへのマークは、前半ほどの堅牢さはなくなった。裏へのパスに佐藤が飛び込み、シュートを放つ場面が2度。ミキッチが、内側に切れ込み、ジョルジ・ワグネルの厳しい監視を振り切った森脇が侵入。佐藤のパスにボランチから青山がペナルティエリアに飛び込み、フリーになる場面もあった。
一方、広島がゲームを支配する中でも、身体の強さを最大限に活かした守備から柏が鋭いカウンターを何度も繰り出す。鋭い刃の切っ先を相手ののど元に突きつけながら、「あと1点」を望む両チーム。白熱の闘いに広島ビッグアーチは熱狂し、2万4839人のサポーターが両手を打ち鳴らして選手たちを鼓舞する。Jリーグが持つ素晴らしく美しい光景が、広島で生まれていた。
だがそんな感慨も、90+4分に起きたドラマが吹き飛ばす。
柏が迎えたゴール正面でのFK。この試合で広島が与えた4つ目の直接FKは、ジョルジ・ワグネルにとって初めて得点を狙える場所でのキックとなった。フワリと浮き上がり、ストンと落ちる魔球。しかし西川周作の集中がゴールを許さない。
CK。柏、最後のチャンス。セットするのは左足の魔法使い。しかし今季の広島がCKから許した失点はわずか1点。CKの守備には自信がある。魔術師が蹴ったボールに対し、187センチのクォンがニアに飛び込んだ。千葉が身体を寄せる。こぼれ落ちたボール。その落下点には水本と激しいポジション争いを繰り広げた増嶋竜也の右足が存在した。偶然に近い感覚で当たったそのボールは、西川の反応も空しくネットに転がる。
確かに幸運。だが、その運を引き出したのは、佐藤との厳しいバトルを最後まで頑張りぬき、自分を信じて闘った増嶋の情熱だ。劇的な勝利を得た柏は3位浦和と3ポイント差、ACL圏内が現実感を増した。
ショッキングな敗戦。2位仙台と勝点で並ばれ、得失点差も3点差に迫られた。だが、佐藤は「これもサッカー。受け入れて、そこから(優勝を)勝ち取ればいい」と語り、森崎和も「何かが終わったわけではないし、敗戦の中でもヒントをつかんだ」と共にポジティブな姿勢を示した。
まだ何も手にしていない。まだ何も失ってはいない。初体験となる優勝争いのしびれる感覚を実感しつつ、全員で前を向いて闘うだけ。優勝争いという恍惚と不安を胸に抱き、広島は敗戦の中から立ち上がる。
以上
2012.10.21 Reported by 中野和也













