数字以上の差を痛感させられた試合。それが甲府との戦いだった。ピッチの上から伝わってきたのは、互いの順位が示している通り、埋めようがない成熟度の違い。ともに1年でのJ1復帰を目指し、監督を代え、大幅にメンバーを代えて臨んだ2012シーズンだったが、シーズンを終えようとしている現在、福岡と甲府の立場は全く違ったものになっていた。「1人、1人は頑張っていたと思うが、それが上手くつながらなかった。福岡が目指しているサッカーが悪いと言うことではなく、チームとしてのやり方は甲府の方がハッキリしていた。そういう差はあったと思う」。鈴木惇の言葉が両チームの現状を物語る。
それが顕著に表れたのが前半の戦い方だった。ボールポゼッションで上回るのは福岡。しかし、甲府は福岡に攻撃の糸口を渡さない。バランスの良い3ラインは、前へ出過ぎることもなく、しかし、後ろに下がり過ぎることもない。守備の始まりは前線のチェイシングから。それに連動してパスコースを限定し、中へ入ってくるボールに対しては2人、3人で囲みこんで数的優位を崩さない。そして、ボールを奪った時は素早く切り替えてダヴィへボールを預け、それがかなわないと見るとサイドへ付けて前へ出る。何か特別なことをしているわけではない。しかし、やるべきことを、当たり前に、確実に実行していく。
それに対して、やるべきことを実行できなかったのが福岡だった。それが前半の3失点につながる。1失点目はCKのこぼれ球から生まれたもの。クリアボールがペナルティエリア内で高く跳ね上がったところ、危険な地域にも拘わらず全員がボールウォッチャーになり、永里源気、ダヴィをフリーにしてしまった。同点に追いついた後に奪われた2失点目は甲府の素晴らしい連携を誉めるべきだが、ゴールに至る過程でボールホルダーに対してプレッシャーをかけず、数的優位を作ろうともしない福岡の守備には問題があったと言わざるを得ない。さらに、プレッシャーの甘さが生んだのは3失点目も同様。そして、サイドを深くえぐられた時に最も注意すべきエリアに大きなスペースを作り、そこへ易々と永里に入りこまれた。この永里のゴールは素晴らしいの一言に尽きるが、やはり、福岡の守備に関するアラートさのなさは、この場面でも顕著だった。
後半は、59分にオウンゴールで1点差に迫った福岡が甲府を押し込む展開が続いたが、1点差勝負をモノにするのも今シーズンの甲府の強さの要因。慌てることなく、そして福岡に決定機を許すこともなく試合を終わらせた。「負けても成果を確認するし、勝っても課題を確認する。試合後は必ず自分たちと向き合った3日間があって、その次に対戦相手の対策を綿密にやる2日間があって、この5日間というのを、どんなにいい時でも、悪い時でも続けてきた。そうすることによって、なぜ勝点1に終わったのか、なぜ勝点0で終わったのかという悔しさが選手の骨身に染みてきた。その成果が後半戦の無敗記録につながった」と話すのは城福浩監督。ここにも、あと一歩が届かずに勝点を落とし続けている福岡との大きな差があった。
無敗記録を21(うち12試合が1点差勝ち)に伸ばし、いつものように1点差で勝負を制した甲府は、クラブ史上初の「優勝」というタイトルを手にした。1点差での勝利が多い要因を「まだまだ、我々は力を付けていかなければいけない。1点差で終わってしまうというのが現実」と城福監督は話したが、その中で、いかにして勝点3を取るかを追求してきた結果が優勝というタイトルに届いた。いかに戦うか、いかに徹底するか、いかに継続するか。それを実行したのが今シーズンの甲府だった。
そして敗れた福岡。試合後、ピッチに倒れこんだ鈴木は「やりきった感じが全くしない試合で不完全燃焼のまま終わってしまった。しかも、ホームでああいう試合をしてしまって、相手に優勝まで決められてしまって、終わった瞬間は情けなくて立っていられないくらい悔しかった」と話す。両チームの間にある成熟度の差を突きつけられた現実は、受け入れ難いものだったに違いない。
それでも鈴木は前を向く。「後ろを向いている暇はない。こんな状況でも応援してくれているサポーターがいる。サポーターのために、クラブのために戦わなければいけない。前を向いてやるしかない」。その言葉は、福岡に関わる全ての人たちの想いを代弁する言葉。残された3試合で悔しかったシーズンを変えることはできないが、最後はともに笑って終わりたい。それがアビスパに関わる全ての人たちの願いだ。
以上
2012.10.22 Reported by 中倉一志
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