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【J2:第39節 東京V vs 栃木】レポート:新星・中島翔哉の最年少ハットトリック記録樹立で、東京Vがプレーオフ出場権争いを制覇!栃木は“らしさ”出せず、力不足感じる悔しい敗戦に。(12.10.22)

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「開花はもうすぐだと思います」
ただのビッグマウスではなかった。高校生Jリーガーの中島翔哉が、宣言通り自身が最もこだわりを持つ「ゴール」という大輪の花を、3つも咲かせてみせた。
それは、育成組織から身を置く東京Vの今季J1昇格戦線参入に望みをつないだばかりではなく、Jリーグ最年少ハットトリック記録という偉業達成のおまけもついた、価値ある3得点となった。

そういう意味では、「何かを変えたい」という高橋真一郎監督の思惑は、功を奏したと言えるのではないだろうか。中島の先発起用に限らず、高橋祥平のサイドバック、梶川諒太のサイドハーフ起用、深津康太の登用、和田拓也と柴崎晃誠のダブルボランチと、テコ入れした部分それぞれが見事に機能した。
結果に表れた通り、やはり中島起用の効果は大きかった。「ゴール前でパスを出すつもりはない」と口にし、試合前からシュート意識の強さを伺わせていたが、言葉どおり試合開始直後からわずかな可能性を見出せば、多少の距離があろうと積極的にゴールへ向け足を振った。時には、「我々がサイドを変えろと言ってもシュートを打つ」と、指揮官を苦笑させるほど。それでも、「それが今日は良い方にいったんじゃないかなと思っています」(高橋監督)。18歳は結果で周りを納得させた。

「(ハットトリックは)とらせてもらった感じ。チームメートに感謝です」と、中島もコメントしていたが、どのゴールにもチームメイトの好アシストが欠かせなかった。その上に、彼の非凡さが相まり生まれたいずれものゴールだった。

先制は16分だった。どのチームにも大事とはいえ、特に東京Vにとっては先取点はゲームの出来を左右するほど重要な意味を持つものとなっている部分がある。その意味でも価値あるものとなった。左サイドから梶川の上げた中央への浮き球に、相手DFの背後を上手く抜け出して左太ももで絶好の位置に落とすと、そのまま左足を振り抜き流し込んだ。

2点目は、後半開始直後に同点に追いつかれ、停滞した空気が漂いつつあった58分だった。西紀寛がペナルティエリアぎりぎりのところから思い切って放ったシュートを、栃木GKが弾いたところを押し込んだ。このゴールの形を見ると、和田のドリブルから右の西へボールが渡ったところで、サイドバックの森勇介がその外をオーバーラップし、ゴール前にはニアに中島、ファーに阿部拓馬がスピードアップして入っている。さらに、そのやや後ろのエリア内には逆サイドバックの高橋までが詰めていた。この試合、「躍動感をもって戦う」がテーマだったと高橋監督は会見でコメントしている。躍動感とは、「攻撃に入った時に誰かがそこを追い越していく。あるいはサイドを変えた時は逆サイドの選手が意識してゴール前に走っていこうとか」だと具体的に説明したが、まさにその通りの形だったと言えるのではないだろうか。西の積極的なミドルも含め、一人一人の「点を取りたい」という気持ちが表れていた、チームとしてまさに理想的な攻撃の形と言えよう。

そして記録達成の3点目は、その2点目のわずか6分後。栃木の中盤がボールを持った瞬間、和田が素早く猛プレッシャーをかけ奪取。そのままかっさらって持ち込み、併走している中島へ渡す。ペナルティエリアに入り、GKとDF2人が奪いに来たのよりもわずかに早くボールを放し、冷静かつ鮮やかに流し込んだ。そのゴール前での落着き払ったプレーにも、中島の才能の豊かさ、日頃の努力が表れているのではないだろうか。

「宣言通り」だと、冒頭で記したが、中島の言う「開花」の真意は、プレビューでも書いたとおり「点を獲り続けること」にある。もちろん、1試合3ゴールも高評価を得るのに十分すぎるほどの結果であることは言うまでもない。だが、世界最高レベルを視野に入れている中島にとっては、やはりどんな相手でも次の試合でしっかりと起用され、その中でゴールする。それがコンスタントに積み重ねられる選手こそ、真の「良い選手」だと意識しているのである。だからこそ、本当の意味で「開花」は次節、またその次の試合で結果が出せて、はじめて「有言実行」となるはずである。

来季トップチーム昇格が決まった前田直輝のJリーグデビューも含め、若手の台頭が大いに見られたこの試合だったが、それ以上にチームにとって価値があったのは、阿部拓馬に約1ヶ月ぶりのゴールが生まれたことではないだろうか。監督が「最近、拓馬が2人ぐらいにマークされるんで、翔哉がフリーになるんじゃないかなと」と、会見で語ったとおり、まだほとんど相手にとってデータがないため、自由に動けた中島の特徴を引き出すための役割に徹していた時間が長かったように見えた。だが、その中でも動きの質、テクニックなど巧さを見せる部分もあり、ゴール前のチャンスを迎える場面もあった。何本かの決定的シュートを外したことは、恐らく誰よりも阿部自身が自責していることだろう。
ただ、それでも、2点リードしていながらもアディショナルタイムに追加点を奪い、「阿部拓馬」という名を記録上に表記されたことは、チームメイト、そしてサポーターをどれだけ喜ばせたことだろうか。“得点”以上の意義が、エースのゴールには宿っていることを改めて感じるゴールだったように思う。ゴールした阿部自身に笑顔はなかった。それでも、エースのゴールが、これからの残り試合に向け、チームにとって価値あるものであることを期待したい。

栃木にとっては、痛恨の敗戦だったと言わざるを得ない。プレーオフ出場権獲得のためには、「ここで負けたらあとはない。ある意味、もう終わりだという覚悟でゲームを始めた」(松田浩監督)が、残念ながらその思いを勝利という結果として表すことはできなかった。
「悔しい」菊岡拓朗が唇を噛み締めながら口にした一言には、ただの敗戦による悔しさ以上の思いが表れていたように思う。それは、他の選手のコメントを聞いても同じだった。「1点目も、軽い感じで失点してしまって、ウチらしくない失点の仕方だったなと思いました」と、廣瀬浩二の言葉や、「1点目も2点目の失点も、ちょっと安い失点というか、これまでに出ていなかった失点の形かなと思います」との、松田監督の会見コメントに象徴されているように、シーズン終盤、しかもJ1昇格争いに生き残れるか否かの大一番で、自分たちの本来の戦い方ができなかったことが、もっとも悔やまれるのではないだろうか。

前半、先にリードを許したとは言え、戦況を見つめた松田監督は「ボール自体はスムーズに回せていたし、相手のプレスも、落ち着いて、そのサポートのスピードを早めれば、逆にしっかりバイタルエリアとか背後をとっていけるというのはあった」と、勝機を見出していたという。そして、後半開始直後、GKからのカウンターで上手く狙い通り東京Vのバイタルエリアのスペースを使い同点とした。そこから流れを一気に引き寄せ、自分たちのリズムで何度か東京Vゴールを脅かしたが、逆に停滞していた相手にゴールを許したのをきっかけに、勝負を持っていかれた。
敗因の1つに、大黒柱パウリーニョの不在が挙げられるだろうが、それに関しても「それを乗り越えて勝てないと」と、菊岡も語っており、決して言い訳にはならないことは監督も選手も誰もが理解していた。
「今、良い時期にできていたことができてない。それでも、悪い時でも、内容が悪くても結果として負けない。なんとか引き分けに持ち込むとかの勝負強さというものを、チーム全体としてつけていかないと、上に行くのは難しいなと感じました。今のチームの力が、今日のような本当に大事な試合でこそ出るんだと思います。つまり、力不足です・・・」西澤代志也は真摯に受け止め、語っていた。

それでも、数字上はまだプレーオフ圏内参入の可能性は残されている。「可能性があるんだったら、それに向かってしっかり戦うだけだし、昇格の6位以内という可能性がなくなったとしても、得点は1点でも多く、失点は1点でも少なくするし、1勝でも多くあげるし、勝点1でも多くあげるし、それで順位を1つでも上げるしっていうのは最後までやらなければいけない僕らの責任。その姿勢で戦うだけです」と、松田監督は力強く語った。

以上

2012.10.22 Reported by 上岡真里江
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