何も知らない人が小野路グラウンドの練習を見たら、降格の危機にあるチームだとは思わないだろう。選手の声がよく出て、どこか楽しそうな雰囲気がそこには漂っている。FC町田ゼルビアのアルディレス監督は「勝ちたいという強い意欲が、逆に働いてしまいました」と愛媛戦を悔いる。それもあって大一番を前にしても殺気立った雰囲気を作り出すことはせず、「いい意味でリラックスして、冷静にプレーをするということが大事」という方針を貫いた。ボールを大事にして、自分たちから仕掛けていくという町田のスタイルも、今更になって揺らぐことはない。相手の強みを消すのでなく、自分たちの特長を出すことで上回ろうという姿勢が、技巧的なサッカーを貫いてきた指揮官のプライドだ。

しかし最下位・町田を取り巻く状況はとことん厳しい。J2のリーグ戦を3試合残して、21位・FC岐阜との勝点差が6。JFLではJ2ライセンスを持つ長崎が、2位・長野と勝点5差で首位に立っており、最下位は自動入替に直結する。町田にとって今節・FC岐阜戦はラストチャンスだ。勝ってなお厳しい状況なのだが、仮に敗れたら今季のJ2最下位が確定する。引き分けなら最下位は確定しなくとも、残り2試合で最少でも6の勝点差が残るため、残留の確率が“微粒子レベル”に落ちる。勝って岐阜との勝点差を3に縮める。それは町田が生き残るための最低条件だ。

町田にとって目下の課題は“試合の立ち上がり”だ。チームの士気を落とし、相手の試合運びを楽にする先制点は絶対に避けたい。前節・愛媛戦は慎重さがかえって失点を招いた。FW勝又慶典は「カウンターでやられたというより、プレッシャーが掛かってなかった」と前線の守備を反省する。後方の選手はリスクを抑えつつ、前線は激しくボールを追うという“二枚腰”が岐阜戦のテーマとなる。前節・愛媛戦の4失点はCBイガンジンの不在も響いた。今週は紅白戦でもプレーし、「一日一日よくなっています」と復帰に前向きだ。また前線は平本一樹が出場停止で不在だが、好調の北井佑季が復帰する。

岐阜は代替開催による強行日程もあって松本、京都に連敗を喫してしまった。しかし9月は4戦で3勝を挙げるなど、秋に入って上昇基調である。W杯2大会に出場した39歳・服部年宏の存在感は今なお大きく、今季は39戦全てにフル出場中だ。前線は1トップの佐藤洸一が競り合いで強く、チーム最多の8ゴールを挙げている。また町田のGK修行智仁が警戒するのはSB尾泉大樹の左足プレスキック。尾泉と北井佑季、鈴木孝司の“桐光学園同期対決”も密かな注目ポイントだ。

ボールを大事にして、選手の強みを引き出す町田のサッカーは、人を育てるための方法論でもある。しかし選手とクラブが成長するためには、まず何よりJという舞台が必要だ。「Jリーグでこんなに試合に出られて、自信になった」と振り返るのは19歳の三鬼海。若手選手は濃密な1年を経験したからこそ、Jという舞台の重みも分かっている。関東リーグ時代からクラブと成長を共にしているキャプテン勝又は「いつもこういうギリギリのチームなので…」と苦笑いを浮かべる。一昨年はJFLで好成績を収めつつ、スタジアム問題でJに昇格ができなかった。昨年もシーズン序盤はJFLの中位に低迷し、終盤に追い上げて掴んだ昇格だった。そういう“ギリギリ”の状況を、このクラブは二度三度と乗り越えてきた。一昨年の悔しさ、昨年の苦労を乗り越えた掴んだ成果を、町田は何としても守り抜きたい。町田にJリーグクラブを作る、少年少女に夢を与えるという夢を、未来につなぎたい。

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