街路樹が色づき始めた。リーグ戦は大詰めを迎えている。富山は終盤にきて上昇気流に乗り、前々節には敵地で京都を破る殊勲も打ち立てた。しかし、今季のハイライトはこれからだ。早期にJ2残留を決めたうえでチームのさらなる可能性を示したい。今回は5戦負けなしのホームに戻り、勝てば残留が確定する。相手はJ1復帰を目指す3位の湘南。輝くための舞台は整っている。
富山は第32節・愛媛戦(9月2日)で16試合ぶりの勝利を挙げてから5勝1分2敗。勝点を重ねながら試合内容も良化し、地力強化がはっきりと表れている。観客の気持ちを高揚させるような鮮やかな連係プレーも随所に見られるようになった。選手たちは「積み重ねてきたものが発揮できるようになってきた」と口をそろえる。自信が生まれ、それがさらに成長を後押ししている。
先週19日の練習が印象的だった。締めに行った攻撃練習は2タッチまでの制限付きだったが、選手たちはミスなくつなぎ多彩な崩しで次々とシュートを放った。通常サイズのコートでタッチ数を制限した攻撃練習はこれまであまりなく、安間貴義監督に尋ねると「今までならミスが多くて出来なかった。ここまでやれるようになったんだよねぇ」とのこと。表情はうれしそうだった。ここにきての成長スピードは指揮官の予想をも上回っている。
それだけに前節・徳島戦の完敗は意外なものだったが、一頓挫も次なる段階に入るためのプロセスと捉えたい。キャプテン足助翔は「久しぶりに思い切り叩かれて良い刺激になった。自分たちのスタイルを崩すとうまくいかないのが分かったことに意味がある」と話す。チームは敗因をボール保持者への寄せが甘かったことと総括。今回は本来の持ち味であるアグレッシブな守備を取り戻すはずだ。
監督がもう1つの反省点に挙げたのが「ボールを失うことを恐れて前方へのパスが少なかった」こと。パスを回せるようになると陥りがちな問題点といえる。常にゴールを目指すサッカーを標榜し、「仕掛けるためのポゼッション」を理想にする安間カターレにとっては進化のために克服すべき課題だ。攻めの姿勢とより的確な判断力が求められる。MF森泰次郎は「徳島戦は選手それぞれにミスが多くてうまくいかなかった。今回はいつも通り裏を狙って、そこから押し上げていきたい」と話した。
今回は今季すべての試合に先発してチームを支えてきたMF大西容平が負傷のため欠場する。MFソ・ヨンドク、MF加藤弘堅も累積警告で出場停止。大西に代わるボランチには練習試合で吉川健太、山瀬幸宏、國吉貴博、谷田悠介が試され出番を待つ。吉川は「今のチームには勢いがあるのでプレーするのが楽しみ。湘南はうちと特長が似ていて、アグレッシブな良いチーム。押し込まれる時間は長くなるだろうが耐えて0−0の状態を続け、昇格のかかっている相手の焦りを誘いたい」と話した。
湘南は前節・千葉戦で後半40分に追い付かれて1−1の引き分けに終わった。3連敗後の3試合連続ドローで自動昇格圏の2位から陥落。2位京都との勝点差は4に開き、今節の結果次第では自動昇格の可能性が消える。プレーオフ出場を争う後続とも差がないことを考えれば、残る富山、鳥取、町田戦は連勝が望ましい。相当の決意を胸に乗り込んでくるはずだ。
守りの中心であるDF遠藤航がU-19日本代表の主将としてAFC・U-19選手権(UAE)に出場するため今節から欠場する。次節後、「J1に行きたい。みんなを信じ、僕は自分のやるべきことを精一杯やってくる」と語っている。仲間に命運を託した若者の思いはチームの団結をさらに強固なものにすることだろう。
前回の富山戦(第18節・6月9日)は8戦勝ちなしの状況で迎え、後半アディショナルタイムにFW中村祐也が決勝点を挙げて1−0で勝利した。チームが勢いを取り戻した今季節目のゲームのひとつだ。奇しくもまた6戦勝ちなしの苦境での再戦となる。
一方の富山は当時の敗戦が15戦未勝利の端緒となった。内容的にも圧倒された前回の借りを返したい。
昇格がかかった時の湘南の勝負強さを富山の安間監督は身を持って知っている。09年、監督として率いた甲府との昇格をかけた激闘を記憶にとどめるファンは多いだろう。MF坂本紘司が決勝点を挙げ3−2で湘南が勝ったゲームだ。今回、富山は残留を争う身ではあるが、リーグの最終盤に昇格を争う好チームと互いの命運をかけて戦うことができる。強敵を乗り越えてシーズンをさらに実り多きものにしたい。
以上
2012.10.27 Reported by 赤壁逸朗
J’s GOALニュース
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