スロベニア代表招集を辞退してまで残留に懸けた男が、これ以上ないというほどの結果を残し、チームに勝点3をもたらした。「彼のスピード、ボールを持った時の強さ、シュート力が今日の試合内容にマッチしていた。彼の長所が最大限に生かされた」とベルデニック監督もハットトリックを演じたズラタンを大いに称えた。
「相手は狭いスペースでプレーせざるを得ない状況になったところでボールを失う可能性がある。そしてそこからの速いカウンターで守備の問題点がある」(ベルデニック監督)。
ここ最近の柏の試合をスカウティングすれば、そういう狙いになるのは当然である。レアンドロ ドミンゲスを欠く攻撃陣は、狭いスペースでは打開策がなく、もはやジョルジ ワグネルのスーパーな左足頼みになりつつある。守備も手数をかけないスピーディーな攻撃に脆く、カウンターを浴びるといとも簡単に失点を喫する。
大宮は最終ラインの4枚とダブルボランチが近い距離を保ち、その6枚がスペースを埋め、奪った後は一気にカウンターへと転ずるという狙いは見られた。だが序盤はこの戦い方がハマったとは言えず、カウンターに固執するあまり、ズラタンを狙った安易なロングボールに終始。そこは柏のセンターバック、増嶋竜也、那須大亮がしっかりと対応し、こぼれ球は大谷秀和と茨田陽生がケアし続けた。
しかしひとつのミスが引き金となり、スコアが動く。21分、クォン ハンジンの軽率なプレーをズラタンがカット。ボールを奪った勢いそのままにゴール前へ突進したズラタンは、GK菅野孝憲の左横を射抜き、ゴールネットを揺らす。流れを掴みかけていただけに、柏にとっては痛い失点となったが、クォン ハンジンに果敢にアプローチを仕掛けたズラタンの献身な姿勢が生んだ先制ゴールだったと言える。
ビハインドを背負った柏は、ネルシーニョ監督が早くも2枚のカードを切った。後半からネット バイアーノと水野晃樹を投入、澤昌克と福井諒司をベンチに下げたのだが、後半開始早々、手元に届いたネルシーニョ監督のハーフタイムコメントを見た時、正直違和感を覚えた。なぜならば、そのコメントと実際に目の前で繰り広げられている試合展開には、あまりにもギャップがあり過ぎたからだ。そのハーフタイムコメントにはこう書かれていた。
「セカンドボールを拾われないように。マイボールを大切に」
「後半もしっかりとつないで攻めていこう」
ところがジョルジを左サイドバックに下げたため、中盤には収まりどころがなくなり、加えて前線にネットを置いたことによってマイボールを大切にしてパスをつなぐどころか、中盤を省略するロングボールが前半以上に増える。
まだネットが前線でボールをキープする、あるいは制空権を掌握して味方に好パスを落とすのなら話は別だが、大宮のセンターバック、菊地光将、河本裕之にとって縦へのイージーな放り込みの対応は、それほど難しいタスクではなかっただろう。彼らがネットへのボールを弾き返し続けると、それは当然ルーズボールになる。となると、最終ラインとダブルボランチの距離間が近い大宮と、行き当たりばったりの布陣を敷いた挙げ句、バランスを崩して前線にはネットと田中順也しかいない柏、どちらがセカンドボールを支配するか、明白である。ハーフタイムコメントとは全てが真逆となっていた。
そして試合は大宮の思うままに進んでいった。「やられる感じはしなかった。相手にやらせながら、奪ったらカウンターという感じで、それがハマって点が取れたことで、落ち着いてやれた」(青木拓矢)。柏がバランスを失い、至る所に発生したスペースを大宮が面白いように突いていく。
47分、ネットへのボールを河本が跳ね返すと、セカンドボールを拾った大宮はズラタン、渡邉大剛、チョ ヨンチョルがダイレクトでつなぎ、素早く柏の背後を突く。最後はディフェンスラインの裏へ抜け出したズラタンが菅野を抜き去り、左足でゴールへ転がして2点目。
49分、セットプレーのボールをキャッチしたGK北野貴之が前線へ大きくフィード。渡邉のワンタッチパスがスペースへ駆け上がるズラタンへ通る。大谷をかわしたズラタンの力強い右足シュートは、一旦左ポストを叩き、勢いよく右側のサイドネットに跳ね返った。これでズラタンはハットトリックを達成。79分にも前がかりになった柏の背後を鋭く突き、ズラタンからのスルーパスを受けた渡邉が菅野をかわして4−0とした。
大宮が放ったシュートは前後半を合わせて10本。筆者の集計では、枠内シュートは6本。そのうち4本をゴールに沈めた。柏の組織がバランスを失い、ミスが頻発した部分を差し引いても、こうも完璧にカウンターをはめることは簡単な作業ではない。ベルデニック監督の言葉通り、ズラタンの速さ、強さ、シュート技術の高さ、それらが合致した見事な試合運びと、それに伴う必然的な勝利を収めた。残り4試合、まだまだ予断は許さないが、残留に向けて大きな勝点3を手にしたのは間違いない。
試合終盤での安英学の気迫溢れるプレーは、せめてもの救いだ。カルリーニョスへのチャージがファウルとなり、カードをもらい受けたことに関しては「反省しています」と本人も振り返っていたが、最後の一矢報いたネットのゴールも、安英学の決死のタックルから生まれたものだった。ネルシーニョ監督の采配が奏功せず、バランスを崩したことが根本的な敗因にあるとしても、劣勢を跳ね除けようとする闘争心やメンタリティが安英学以外に見られなかったのは、残念でならない。
残留に向けて前進した大宮とは対照的に、AFCチャンピオンズリーグ出場権獲得に向け、柏は一歩後退した。
以上
2012.10.28 Reported by 鈴木潤
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