「やっぱゴールでしょ。うちのことだから先に1点決めたら勢いづいて一気に2点、3点って止まらなくなる。絶対にそうなる。俺も早く決めたいよ」
前節C大阪戦の直後、石川直宏は予感めいた言葉を口にしていた。
F東京がこれまでの鬱積した思いを晴らすかのようにゴールネットを揺らし続けた。5年ぶりにクラブ最多タイ記録となる5得点を奪い、5−0で札幌を圧倒した。
試合序盤の札幌は、アンバランスな状態が続いていた。前線からボールを奪いにいくが、それを交わされると中盤で簡単にボールをつながれてしまった。それは1トップのルーカスに対し、最終ラインが3枚で対応したことが原因だった。人数不足の中盤は、パスコースを塞ぎきれなかった。ただし、先に決定機をつくったのは札幌だった。20分過ぎまでにカウンターから2度のチャンスをつくり、F東京ゴールを脅かした。しかし、それを決めきれず。試合の流れは、F東京へと傾いた。
主導権を握ったF東京は、前線が流動的にポジションを入れ替えてボールを動かし続けた。すると17分、セットプレーのこぼれ球をつなぎ、DFチャン・ヒョンスが頭で先制ゴールを挙げる。この勢いに乗って、鮮やかな連係で何度もフィニッシュまでつなげた。
しかし、F東京の追加点はなかなか入らなかった。何度もゴール前へと運んだが、札幌を突き放す1点が奪えなかい。石崎信弘監督が「あまりにも守備のバランスが悪く、押し込まれる時間が続いたので4バックにシステムを変えた。それで前半は少し落ち着いた」と話すシステム変更によって、札幌の守備のバランスが改善され、均衡を保ったまま前半を折り返した。
徳永悠平は「先制点もそうだけど、追加点がこの試合で一番大きかった。そういう意味でも(田邉)草民の活躍は大きい」と試合を振り返った。
後半開始早々の47分、「2点目を決めれば、試合も決められるって話していたし、早い時間に決められてよかった」という田邉草民が大きな仕事をやってのける。ドリブルで仕掛けると、上手く抜け出して思い切りよく左足を振り抜く。ボールはポストを叩いてそのままネットを揺らした。
くすぶっていた火種は、このゴールによって一気に点火した。競い合うように選手が躍動し、次々とゴールへと迫り続けた。
まず石川が田邉に続いた。59分、ゴール前で仕掛けてゴールを奪うと、続く64分には「今年、目指してきた形」というゴールを奪った。相手の背後にフリーランニングで抜け出し、森重真人からの浮き球のパスを呼び込む。左足で上手くゴールへと流し込んで一気にリードを広げた。最後は、ネマニャ・ヴチチェヴィッチがダメ押しとなる5点目を決めて快勝した。
大量失点を許した札幌だったが、出場停止、代表招集などでセンターバックの人材が不足した中でも気持ちを切らさず戦った。「一つひとつのゲームを今後につなげていくためにもトレーニングを考えたり、戦い方を考えたりしている。それは自分自身のためにも、選手、チームのためにも、できることを最大限にやっていくのが私の仕事だと思っています」と話す石崎監督の思いを汲み取り、最後までゴールを狙い続けていた。
F東京はここ数試合、溜め込んできたものを吐き出した。「勝ちたい」。「ゴールを奪いたい」。そう言葉にしてきた選手たちがゴールを奪った。自分の言葉によって体を硬くすることもある。だが、それが力になることもある。口にした言葉は、誰よりも自分自身に強く響くからだ。森重は「残り4試合。ACLという目標を持ちつつ、見に来ている人に、面白い、退屈させないサッカーを見せ続けていくことが何よりも大切だと思っている」と口にした。札幌にも、F東京にも、まだやり残したことがある。
以上
2012.10.28 Reported by 馬場康平
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