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【J1:第30節 名古屋 vs 横浜FM】レポート:名手の一撃で横浜FMが土壇場で引き分けに持ち込み上位戦線に生き残る。悪癖をまたも露呈した名古屋は順位アップも後味の悪い一戦に。(12.10.28)

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1−1のドロー劇ながら、試合終了後の様子はさながら横浜FMが勝者のようだった。名古屋は今季の悩みの種である後半、特に終了間際の失点を前節に続き喫し、手にしかけた勝点3をあと一歩のところで逃した。負けたわけではないが、ショックは特大だ。名手・中村俊輔の一撃にしてやられた赤いユニフォームの面々は、終了のホイッスルの後もしばらく立ち上がることができなかった。

名古屋にしてみれば、現状での万全を期して臨んだはずの一戦だった。この日も1トップに任命された田中マルクス闘莉王にはシュート特訓を施し、右サイドバックには小川佳純ではなく本職の石櫃洋祐を起用。前節で良い動きを見せていた小川は攻撃的なポジションでチャンスを与えた。守備面でのリスクを抑えつつも、控えにダニルソンと玉田圭司を擁する何とも贅沢な布陣で、守備力自慢の横浜FMにあくまで攻撃的に立ち向かったのだ。

しかし、誤算が生じた。過去、いくつものチームのDFたちを圧倒してきたFW闘莉王が、ものの見事に封じられたのだ。中澤佑二と栗原勇蔵。Jリーグを代表するセンターバックたちは、プライドむき出しの激しいプレーで空中戦でも闘莉王を圧倒した。「今日はトゥ(闘莉王)にボンバー(中澤)と勇蔵がほぼ負けなかった。小さなことだけど、それでチームが勇気づけられて、前の選手もセカンドボールに集中すればよかった」とは中村の言葉だ。前線で起点を思うように作れない名古屋の攻撃は形を成さず、前半のシュートはわずか3本にとどまった。逆に横浜FMは名古屋の構造的欠陥であるバイタルエリ周辺で中村やマルキーニョス、兵藤慎剛らが自由にプレーしDFラインを翻弄。左サイドではドリブラーの齋藤学がドゥトラとマルキーニョスとの連係で次々とサイドを突破した。41分からの3分間にはバイタルエリアを起点に立て続けに3つの決定機を作るなど押し込んだが、ここは名古屋の守護神、楢崎正剛がすんでのところでゴールを守り抜いた。

前半の主導権は完全に横浜FMのものだったが、名古屋も何もせずに手をこまねいていたわけではない。前半30分、ファウルでプレーが止まった隙に、ストイコビッチ監督が石櫃を呼び寄せフォーメーション変更をピッチ内に伝える。金崎夢生と闘莉王を前線で組ませ、小川と永井謙佑をサイドハーフに配する4−4−2への移行である。その直後に石櫃が負傷退場したことで右サイドバックが小川、交代出場の玉田が前線に行き、金崎がサイドハーフを務めるマイナーチェンジがあったが、天皇杯3回戦・岡山戦で成功したポジションチェンジに、指揮官は活路を見出そうとした。

そして後半、さらなる選手交代によって名古屋は完全に息を吹き返すことになる。藤本淳吾に代えて、ダニルソン投入。これにより中盤の守備力が上がっただけでなく、ボールを失わずに前線へと運ぶ推進力が生まれ、攻撃が一気に活性化した。その証拠に54分、59分と続けて決定機を作ると、64分にも金崎が決定機を迎える。そのどれもが闘莉王の空中戦ではなくショートカウンターからの素早いパスワークからのものだった。だが、前半の横浜FM同様にゴールは遠かった。そうした展開の中で試合は徐々に膠着。横浜FMは65分に小野裕二を、名古屋は72分に吉田眞紀人を投入し目先を変えたが、特効薬的な効果は得ることができなかった。

迎えた終盤、90分まで残り3分というタイミングで試合は急激に動いた。シュートのない一進一退の攻防の中で、まずは名古屋が決定機を掴む。中盤でボールを拾った田口泰士からパスを受けた闘莉王が、ワンタッチでゴール前に走る永井へスルーパスを送る。抜け出した永井のシュートはGK榎本哲也に弾かれたが、こぼれ球を田口がシュートし、DFがブロックしたところを玉田が押し込んだ。残り時間を考えれば、決勝点だと誰もが考えた起死回生の得点だった。

ところが4分間のアディショナルタイムで、名古屋の望みは打ち砕かれた。ダニルソンは言う。「しっかりと時間を使い、頭を使い、失点をせずに終わらなければいけなかった。その賢さが足りなかった」。先制後の名古屋は安全第一なプレーを選択し、無理につながずクリアを優先するサッカーに終始した。ここまではいい。しかし前がかる横浜FMの裏を突くカウンターを簡単なミスで失敗し、易々とボールを渡してしまうプレーがいくつかあった。そのことで相手の反撃のチャンスを増やしてしまったことが、最後のFKにつながったともいえる。どこか浮足立ったプレーを続けていた吉田がクリアしようとして相手の足を蹴ってしまい、直接FKとなったことは、その流れと無関係ではないだろう。サッカーとは、より積極的な方にボールが転がっていくスポーツだからだ。

結局、185cm以上の選手を4人も揃えた7枚の壁を越え、ポストに当たって入る執念のFKを中村が決め、試合は勝点1を分け合う形で終わった。この結果で名古屋は順位を一つ上げて5位に、横浜FMは7位のままだったが、冒頭でも書いたように選手、指揮官ともにその表情は横浜FMが勝者のようだった。名古屋は闘莉王の高さに頼らない攻撃を展開できたことは収穫と呼べるのだが、あまりに後味が悪すぎる。「みなさん、今日は楽しみましたか?」とストイコビッチ監督は報道陣に問いかけたが、つまりは「私は楽しくない、とても悔しい結果だ」と言っているわけである。選手たちの言葉はそれぞれに趣を異にするが、表情は一様にすぐれなかった。目標とする3位以内にはまた一歩近づいたが、達成のためには克服すべき大きな課題が厳然とそびえ立っている。次節は中9日という変則日程。平日の夜に行われるFC東京戦では、彼らの対応力、修正力に大いに期待したいものだ。

以上

2012.10.28 Reported by 今井雄一朗
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