神戸にとっては評価の難しいゲームだ。プランが崩壊する中での貴重なドローか、それとも勝点３を逃した痛い一戦か。西野朗監督の評価はこうである。「最初から想定外のアクシデントが続き、全くゲームプランとは違うゲームを強いられました。ただ、そういう中で私以上に選手たちが冷静というか、戦術的な変更もよく理解してくれて。非常に劣勢な状況に陥りましたけど、最後まで戦い抜いて、ポイント１をもぎ取ってくれたと思います」。

神戸は川崎Ｆとの一戦を前に、大久保嘉人、野沢拓也、田代有三、伊野波雅彦らが戦線に復帰した。万全とは言えないが、彼らの帰還は間違いなく好材料だった。だが、相手の脅威となりつつあった小川慶治朗、正GKの徳重健太が離脱。しかも、西野監督コメントにもあるように、想定外のアクシデントも起きた。13試合ぶり先発起用となったベテランFW吉田孝行が前半の開始早々に左膝を負傷。田代との２トップで前線から激しいプレスを仕掛ける構想はもちろん、「彼のメンタリティーチームに浸透させたかった」（西野監督）という狙いも崩れてしまう。
とはいえ、交代で入った都倉賢が前線でタメを作り、流れを引き寄せる好結果に。ピッチに入ってすぐの11分には田代が頭で落としたボールに反応して強烈なミドルを放つと、13分には野沢のCKを相手に競り勝ってヘディングシュート。川崎Ｆの風間八宏監督が「長いボールでチーム全体が後ろに下げられてしまった」と振り返るように、田代と都倉のツインタワーになったことで神戸がリズムをつかむ。川崎Ｆのプレスが低い位置になり、神戸はDFからビルドアップしながらポゼッションを高めていった。 　

そんな神戸に２つ目のアクシデントが発生する。果敢なオーバーラップで左サイドを制していた相馬崇人が、左太腿裏の違和感で37分に離脱。奥井諒を右サイドバックに、茂木弘人を左へコンバートする予定外の展開に。この交代劇で浮き足だった神戸を、川崎Ｆのレナトは見逃さなかった。39分。ドリブルで仕掛けたレナトは、奥井が寄せてこないのを見計らってペナルティーエリア外から強烈なミドルを決めた。結局、シュート数11本の神戸がゴールを決められず、わずか４本の川崎Ｆが先制点を奪って前半を折り返すことになる。

後半、川崎Ｆは前半のゲーム内容を受け、システムを３−４−３に変更。中盤に厚みを持たせ、中村憲剛を２列目からボランチに下げてゲームの主導権を握る。だが、56分にDFの連携ミスでゴール前にこぼれたボールを、神戸の都倉に押し込まれてゲームは振り出しに。風間監督が「ゲームというのは１人のミスで崩れてしまうので、そこのところは痛かったなと思います」と振り返るように、この失点で流れが再び神戸へと傾いた。
61分には野沢のCKに北本久仁衛が合わせて決定的な場面を作り、63分には橋本英郎からのスルーパスを受けた朴康造がペナルティーエリアへ侵入し、最後は都倉がシュートを放つなど、神戸が完全に息を吹き返した。

だが、この流れとは裏腹に追加点を挙げたのは川崎Ｆだった。65分に中村のCKをファーサイドから走り込んで来た小林悠が難しいバウンドを上手く処理してゴールへつなげると、69分には右サイドの楠神順平が放ったクロス性のボールが神戸ゴールへと吸い込まれる。
これで１−３。あとがない神戸は、この直後に大久保を投入し、橋本の１ボランチシステムに変えて攻撃に転じる。すると、76分にはその大久保から奥井、田代へとワンタッチプレーでつないで２点目を奪い、82分にはボールをカットした田代から右の朴へ、朴からのセンターリングを都倉が中央で競り勝って同点弾を決めた。６月の対戦では“バロテッリ・パフォーマンス”で話題を集めた都倉。古巣の川崎Ｆ戦に強い男が、どうしても勝点が欲しい大事な一戦でも大きな仕事をやってのけた。

とはいえ、神戸は14位。降格圏内にいる16位のＧ大阪とは勝点差３、17位の新潟とは５差と予断を許さない状況。ただ、都倉が「結果が出なかったのは残念ですけれど、これが現状の実力だと思う。真摯に受け止めて、何ができて何ができなかったのかをしっかりトレーニングでやっていくことが次の試合につながると思う」と言うように、今節の勝点１を次へつなげないと価値あるゲームだったとは言えない。貴重な引き分けか、痛いドローか。２点リードを追いつかれた川崎Ｆも同様、その答えは次節の結果に委ねるしかないのかもしれない。

以上


2012.10.28 Reported by 白井邦彦