堅く入ったのか?もしかすると硬いのか?試合の入りはお互いに慎重だった。FC岐阜のプランは「町田にポゼッションをさせて、奪ってカウンターを仕掛けよう」(行徳浩二監督)というもの。FC町田ゼルビアは、岐阜に勝たないと最下位脱出の望みが消える。そこから生まれる焦り、攻め急ぎを突こうという狙いだったのだろう。
ただ町田は賢くボールを動かした。引いている岐阜に対して、フリーでボールを持てたのが最終ライン。CB田代真一が起点となり、相手の隙を突いた。中が固ければ外に大きく飛ばし、縦への強いボールで北井佑季の飛び出しも生かす。そういう揺さぶりを重ねていると、岐阜の守備ブロックに“ムラ”が生まれはじめた。町田も相手の狙いは分かっていて、カウンターは避けたい。しかしこの試合は大きなリスクを冒さずとも、前半からボールを動かせていた。「相手を引っ張り出すイメージ」(太田康介)で、岐阜を振り回していく。
町田にとって初めての“いい形”は7分。田代が左にサイドチェンジを飛ばし、藤田泰成は中に叩く。鈴木崇文が切れ込んで折り返し、北井は左足ボレーを狙う。このシュートは弱かったが、北井の積極性は序盤から光っていた。15分には下田光平のロングフィードからいい飛び出しを見せ、18分、36分、38分とシュートを重ねる。北井は前半だけで4本のシュートを放ち、相手ディフェンスに脅威を与えていた。岐阜が前半に迎えた最大の決定機は40分。野垣内俊の右クロスから、井上平がファーに飛び込みヘッドを合わせたが、コースは枠外だった。
アルディレス監督は「良い前半だった」というハーフタイムコメントを残している。大胆な選手交代、布陣変更の多い指揮官ではあるが、優勢な展開で後半開始から2枚もカードを切る監督はJ40クラブでも彼だけだろう。町田は「勝たなければいけない試合という位置づけ」(アルディレス監督)を受けて守備的な選手を2人下げ、幸野志有人と勝又慶典を投入。布陣も3バックから4バックに変更した。
後半開始から1分も経たずに、2人のプレーが町田の先制点を呼び込む。町田は藤田が左サイドで相手のパスをブロックし、北井はボールを下げる。幸野が1タッチで縦にフィードを入れると、勝又の裏に大きなスペース。勝又が縦に切れ込んでクロスを蹴ると、相手CBの足に当たってうまい具合にこぼれた。ドラガン ディミッチが左足で流し込んで、町田は先制する。
岐阜も負けじと交代カードを切り、リスクを取り始める。62分には山崎正登の投入で2列目を厚くした。ビハインドを背負った岐阜が出てきたこともあり、試合は一進一退の展開となる。岐阜は71分、尾泉大樹のフリーキックから、樋口寛規がこぼれ球をシュート。これは決定的だったが吹かしてしまった。町田も72分、勝又がループシュートを狙って枠上。73分には右サイドの崩しから北井が切れ込むが、DFにブロックされる。
試合に波紋が走ったのは76分。町田は右SB三鬼海が2枚目のイエローカードを受けて、残り15分を10人で迎えることになってしまう。アルディレス監督はすかさずFW勝又を下げて、CB薗田淳を起用。藤田を右サイド、鈴木崇を左サイドに置いた〔3-5-1〕の形を作る。岐阜は長身FW梅田直哉を投入し、終盤にはCB関田寛士を前に出したパワープレーも繰り出した。しかし町田のCB3枚が相手のパワーを苦にせず、前線では1トップの北井が時間をうまく使う。町田は4分のアディショナルタイムも凌いで、1ゴールを守り切った。
田代は「全員が笑顔でできるようにという姿勢が、この勝ちの理由」と試合を振り返る。町田は悲壮感を排除して練習に臨み、ナーバスな試合運びで失点を重ねた前節から精神的に建て直した。負傷から復帰したCBイ ガンジンも好プレーを見せ、10試合ぶりの完封に貢献している。次節は平本一樹が出場停止から復帰するため、攻撃陣もより強力な陣容で臨むことができそうだ。差が縮まったとはいえ、町田は残り2戦で21位・岐阜との勝点差を3ポイント残す。チームは今なお崖っぷちで、最下位を回避してJ2残留を決めるというミッションは容易でない。しかし町田はこの試合で、ピンチにあってもゲームを楽しむ、まず自分たちのサッカーを貫くという“サバイバル術”を掴んだ。厳しい戦いにあって何より大切な、希望を手に入れた。
以上













