3−1で折り返した後半に、浦和が攻勢を仕掛ける。彼らが掲げる目標は優勝であり、12位に低迷する川崎Fになど負けられない。鬼気迫る思いがそこには込められていた。そんな浦和の攻撃に対し、川崎Fは3バックの両脇に両サイドのウィングバック(とは風間八宏監督は表現していないが便宜上。3−4−3の4の両端の選手)がポジションを取り、さらに3トップの一角の山瀬功治までがラインに吸収される時間帯が続いた。最大6枚でラインを作り、ゴール前にへばりついて浦和の攻撃をしのいだのである。浦和の優勝というモチベーションと同等かそれ以上の強さで、川崎Fは勝利を欲した。結果にこだわったのである。
試合の序盤、川崎Fの右サイドは浦和の左サイドからの攻撃に上手く対応出来ずにいた。左サイドに張り出した浦和の梅崎司が中央にポジションを代える。梅崎のその動きに田中裕介が付いていくことで、川崎Fの右サイドにスペースが生まれると、そこにマーカーの楠神順平を引き連れた槙野智章が飛び込むのである。試合開始直後には、この動きに付き切れず梅崎にミドルシュートを打たれる場面もあった。このサイドをどのように安定させるのかが、川崎Fの課題の1つとなった。
また、ピッチ中央からの浦和の攻撃に対しても後手を踏む。2分のファウルに引き続き、6分にも原口元気に激しいタックルを浴びせ、ジェシがイエローカードをもらう。この2度のFKを含めたマルシオ・リシャルデスのエリア直近でのFKは、西部洋平のセーブなどもありゴールネットを揺らすことはなかったが、それにしても危ない状況であったのは間違いない。
「試合が終わって、まだ私はなぜ今日のゲームに負けたのか理解できていないです」と話すペトロヴィッチ監督は、会見でこのマルシオ・リシャルデスのFKについて「相手のFKよりももっといい場所でのFKがあったと思います」と振り返り、彼が蹴ったFKの危険性について言及するほどだった。
序盤から浦和の流動的な攻撃が川崎Fを押し込む試合展開の中、前半19分に柏木陽介が先制点を決める。山田暢久からのロングパスを受け、スペースに飛び込んだ原口に引きずられて川崎Fが守備のバランスを崩す。これによって生まれたスペースで、その原口からのパスを受けた柏木がゴールを決めた。
そこまでの試合展開を考えれば川崎Fに逆転の芽はなさそうな展開の中、川崎Fを救ったのがレナトだった。失点からわずかに3分後の22分。小林悠に通った楔のパスに対し、浦和守備陣が激しくチャージして川崎FにFKが与えられる。30mほどの距離からのこのFKをレナトが蹴ると、壁にあたってドライブ回転がかかり、加藤順大の頭上を超えてゴールネットを揺らした。28分には楠神への楔のパスに対するチャージによって川崎FにFKがもたらされ、これをレナトが再び決める。
逆転に成功した川崎Fはさらに34分に決定的な3点目を決める。浦和陣内深い場所でのプレスで奪ったボールを繋ぎ、最後はレナトがフィニッシュ。エリア内での落ち着いた切り返しによる技巧的なゴールだった。川崎Fも攻撃的な場面は作ったが、それでも浦和に先制を許していた。だからこそ、結果的に2点リードで前半を折り返せたのは幸運な展開だった。
後半に入るところで、風間監督は交代枠を1枚使う。右サイドの安定を狙い、攻撃面でその能力を存分に示していた楠神に代え、後半の頭から山瀬功治をピッチに送り込んだのである。その山瀬は田中裕介との連携によって梅崎と槙野の動きに気を配った。
「リードはしていましたが、ぼくが入った右サイドでは槙野が高い位置を取っていたのでケアしていました。守備面が第一でした。梅崎と槙野、特に槙野をどうケアするのかのところで、(田中)裕介と中で声を掛けあいました」(山瀬)
川崎Fの狙いは功を奏していたが、優勝に向けて負けられない浦和のモチベーションは高かった。総攻撃の様相を示す浦和の攻撃に対し伊藤宏樹は「相手が人数を掛けてきた。後ろを崩されないように対処しました」と振り返る。ただ、それでも後半開始から間もない58分に、ケアしていたはずの槙野にゴールを許し1点差とされる。気持ち的に崩れてもおかしくない失点だったが「3−2にされた後、踏ん張れたのが大きかったと思います」と伊藤は述べていた。
2点差を追いつかれた前節の神戸戦の残像が脳裏をよぎる中、チームを勇気づけたのが山瀬のゴールだった。そもそも3点目を狙いにかかっていた浦和の陣内には広大なスペースが広がっていた。「久しぶりにカウンターを打てた試合でした」と話す中村憲剛が起点となり、山瀬にパス。これを山瀬が50mほどもドリブルで持ち上がり小林悠に。小林のシュートは浦和守備陣にブロックされるが、このこぼれ球に素早く反応した山瀬がコースに流しこむのである。
4−2とした川崎Fは、この2点差をまさに死守した。冒頭で表現したような極端な守備陣形を敷きつつ浦和の攻撃を食い止めたのである。それがどれだけ不細工なサッカーであろうとも、ホーム等々力での勝利を優先させた戦いは見事だった。勝てないチームに対し、サポーターからは不満の声が広がりを見せていただけに、意味のある勝利となった。
「実際にそれほどいいゲームとは言えませんが、それぞれがしっかり戦うこと。それからひとりひとりの判断で、サッカーを90分戦ってくれた。それがチームになったということで、よかったと思います」と風間監督は試合を総評した。
対する浦和は優勝を狙っていただけにダメージの大きい敗戦となってしまった。首位広島とは残り3試合で勝点9差。得失点差では24もの差を付けられてしまった。優勝の可能性がほぼ断たれたことについて問われたペトロヴィッチ監督は「我々がACLの出場権を得ることができれば、我々にとってはそれは優勝に値する成果だと思います」と述べて目標を下方修正。名古屋に勝点49で並ばれるなど、8位柏まで勝点3差の中に6クラブがひしめく状況があり、「3位以内という順位に到達するために残りの3試合全力で戦いたいと思います」と気持ちを切り替えていた。
以上
2012.11.08 Reported by 江藤高志















