横浜FM・樋口靖洋監督は試合後の会見でこう評した。
「予想以上に神戸がターゲットに入れてセカンドボールを狙う、あるいはターゲットに入れてそこにプレスをかけてきた。正直、なかなかサッカーをさせてもらえなかったなというのが90分を通しての印象です」
実際、その通りの展開だった。神戸は横浜FM戦に向けて、2トップを田代有三と都倉賢のツインタワーで調整してきた。だが、試合当日に田代が脚の違和感を訴えて出場を回避。前節の川崎F戦で吉田孝行と相馬崇人が負傷退場した時と同じように、西野朗監督は青写真を変更せざるを得なくなった。中澤佑二と栗原勇蔵という屈強な横浜FMのセンターバックに、都倉賢が1人で競り合わなくてはいけない事態。当然、思うようにボールは前線に収まらず、樋口監督の言うように“予想以上に”ターゲットの都倉にロングボールを入れて…という形を繰り返すことになった。
それでも前半は、このロングボールから決定的なチャンスが何本か生まれた。20分過ぎにはマルキーニョスへのパスを神戸のボランチ三原雅俊がカットすると、そのボールが前線でフリーになっていた大久保嘉人へ渡るビッグチャンスもあった。主導権がどちらにあるのか分からない展開ではあったものの、両チームともにゴールの匂いは漂っていた。
試合が動いたのは45分。ドゥトラがペナルティエリアへの侵入を試み、DFにカットされたこぼれ球を齋藤学が拾い、そのボールを左へメッセージ付きのパス。メッセージを受け取った富澤清太郎がペナルティエリア外からダイレクトで豪快にミドルシュートを放つと、神戸のGK嘉味田隼の手をかすめることなくネットに突き刺さった。横浜FMの先制。
この失点について神戸の橋本英郎はこう振り返る。「前半残りちょっとの時間に後ろでつなぎ、それを2回繰り返した。前は前で残っちゃって、結局間延びした状態でボランチ(富澤)に打たれた。(中略)あの時間帯で無理してつなぐ必要はないのに、スペースがあると思ってつないだら、相手はそれを喜んで狙ってきた」。富澤のスーパーゴールを褒めるべきかもしれないが、神戸が隙を作り、それを瞬時に嗅ぎ取った横浜FM全員の共通認識のようなものが生んだゴールでもあったと言える。
後半に入ると、横浜FMがサイドから果敢に崩しにかかり、序盤からチャンスを作る。66分の得点シーンでは、まず左サイドでドゥトラや齋藤学、マルキーニョスがパスワークでタメを作ると、そこから一気に右の金井貢史へサイドチェンジ。それを金井が中央へ折り返し、最後はフリーのマルキーニョスがゴールへ蹴り込み、追加点を挙げた。
神戸DFを左右に揺さぶり、一気にスイッチを入れてゴールへ結びつけた横浜FM。この一連の流れの前に、金井が右で手を上げてボールを要求し、それをドゥトラは目視しながらあえて左サイドで突っかけ、頃合いを見計らって逆サイドへ展開している。この辺りの感性はさすが横浜FMと言えるだろう。
試合はこのまま横浜FMが主導権を握って進むと思われた。だが、69分に先制点を挙げた富澤がこの日2枚目のイエローカードを受けてピッチを退くと、流れは一気に神戸へ。63分に交代でピッチに入っていたMF森岡亮太がリズムよくボールを捌き始めると、74分にはポスト直撃の惜しいミドルシュート、76分には左サイドの茂木弘人へ蹴って的なスルーパスなどを披露。また長身DFのイ・グァンソンを前線へコンバートし、パスワークからの崩しとパワープレーで猛攻をみせる。89分には野沢拓也が強烈なミドルシュートを放ち、そのこぼれ球を拾った茂木が都倉へラストパス。最後は都倉が2試合連続となる貴重なゴールを押し込んで神戸が1点差に詰め寄った。その後も神戸が1人少ない横浜FMを攻め続けたが、追加点は奪えず。無常のホイッスルがスタジアムにこだました瞬間、都倉、茂木、イ・グァンソンがピッチへ倒れ込み、いい流れを引き寄せた森岡は頭を抱えた。
勝った横浜FMは順位を6位に上げ、ACL圏内の3位・浦和との勝点差を2に縮めた。非常に大きなポイント3を手に入れたと言える。
敗れた神戸は、残留争いの渦中にいるG大阪、大宮の試合結果を受けて残留ボーダーライン上の15位に後退。非常に苦しい状況となったが、下を向いていても何も始まらない。2年前に奇跡の残留劇を経験した森岡は「こういう時はいい部分をイメージに焼き付けて次へつなげていくことが大事かなと思います」と話す。大久保は「試合になると残留とかは忘れてやっている。(試合中は)自分のプレーや自分たちのプレーをどうしようかしか考えていないもの。(残り3試合は)そこで楽しめるかどうかだと思う。そうしないとミスしたら嫌だから、みんなボールを受けにいかなくなるでしょ。そういうのが大事になると思う」と言い残し、スタジアムを後にした。
以上
2012.11.08 Reported by 白井邦彦















