今日の試合速報

開幕招待
開幕招待

チケット購入はこちら

J’s GOALニュース

一覧へ

【第92回天皇杯 4回戦 大宮 vs 川崎F】レポート:奇跡のオレンジ劇場。前半3−0から大逆転でベスト8へ!(12.12.16)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ハーフタイム。前半だけで3ゴールをたたきこまれたチームのロッカールームには、それでも下を向いている選手はいなかった。互いに檄を飛ばし合い、騒然とする中、コーチの一人が語りかける。「仮にもリーグ11戦負けなしできたのに、こんな形で3点やられて悔しくないのか。もう一度誇りを、プライドを持ってやれ!」と。そして指揮官は、守備をコンパクトにすることと、攻撃では少ないタッチ数で早くボールを動かすように指示し、「相手に3点取れて、我々にそれができないはずはない」と、勇気を持ってプレーすることを求めた。ゲームはまだ終わっていない。「もう一回やろう!」「このままオフにはならねえよ!」と、選手たちの中に自信と気力がみなぎる。そして、奇跡とも思える逆襲が始まった。

実際、前半の大宮にはまったく良いところがなかった。立ち上がりから川崎Fにボールを回され、6分には登里享平とのコンビネーションからレナトに右サイドを破られ中央の小林悠に先制ゴールを許した。「プレスがうまくハマらなくてバラバラだった」と青木拓矢が振り返るように、小林と楠神順平のスピードに苦しんでDFラインが下がり、前線は前から追いに行った結果、リーグ11戦無敗の記録をわずか4失点で支えた堅守は完全に崩壊。守備からリズムを作るチームの、その守備が崩壊しているのだから、攻撃もうまくいくはずがない。
対照的に川崎Fは攻撃からリズムを作るチームであり、選手たちは気持ち良くプレーしていた。攻守の切り替えでも大宮を圧倒し、大宮がボールを奪っても素早い寄せであっという間に奪い返し、攻撃につなげる。追いつこうと前がかりになる大宮だが、どうしてもペナルティーエリアの中に入れない。特に川崎Fは稲本潤一が圧巻の出来で、中盤で大宮のボールを狩り続け、そのまま攻撃の起点になった。本来、相手が攻めて崩せず焦れて前がかりになったところをカウンターというのは大宮がやりたかった形だが、それを実行していたのは川崎Fだった。26分に小林が2点目、38分にレナトが3点目をぶち込む。大宮のシュートはわずか2本、それも金澤慎のミドルとノヴァコヴィッチのフリーキックだけだった。

前半の不調の理由を、ベルデニック監督は「メンタル面の問題」と結論付けた。今年のあまりに厳しかった残留争いのプレッシャーから解放された燃え尽き感と、この時期に避けては通れない自身やチームメイトの契約問題などで、選手をこの一戦に集中させることが難しかったのだ、と。しかしハーフタイムを終えて再びロッカールームから出てきた大宮の選手たちは、この試合を引っくり返すことしか考えていなかった。

一方で川崎Fは、「3得点の中で、気の緩みがあったのかもしれない」(稲本)。後半開始40秒で東慶悟にペナルティーエリアを割られ、GKと1対1の場面を作られると、風間八宏監督が嘆いたように「受けに回ってしまった」。かといって引いて守りを固めたわけでもない。そもそも風間サッカーに、その形はないのだ。あくまで攻撃でリズムを取り戻そうとする前線と、大宮の圧力を受けて後退する守備陣が完全に間延びし、前半の大宮と同じ形に陥った。
その流れを見た大宮は55分にボランチの1枚を金澤慎から上田康太へと、攻撃的なカードを切る。「中盤が空いていてやりやすかった」という上田がボールを動かして攻撃のリズムを作ると、63分、東の左からのミドルシュートのこぼれ球をノヴァコヴィッチが押し込む。さらに67分、左サイド深くに進出した上田のクロスがペナルティーアークにいた東に渡り、ねらいすましたミドルを左上隅に巻いて決めた。
川崎Fは足をつらせた稲本を下げて風間宏希を投入。その直後、川崎Fはレナトがドリブルからゴール正面で強烈なシュートを放つが、北野貴之が弾き出す。大宮もペナルティーエリア内で東のスルーパスを受けたノヴァコヴィッチが、GKとの1対1をクロスバーに当ててしまう。互いに試合を決定付け得るチャンスを逃した後、しばらくは試合がこう着した。川崎Fからしてみれば、中村憲剛をボランチに下げたことで、うまくゲームを落ち着かせたといってもいい。
しかし86分、今季リーグではわずか1ゴールと苦しんだ大宮の若きエース東が、再びゲームを動かした。中盤でボールを持つと、前線のノヴァコヴィッチに当ててペナルティーエリアに突進。体を張って粘ったノヴァコヴィッチからのリターンを受けた東が右足を振り抜くと、西部洋平の手を逃れるようにカーブを描いたボールが川崎Fゴールに吸い込まれる。同点。3点を追いつき、さらに選手たちが、スタンドが加熱する。

川崎Fは、選手たちが完全にパニックに陥っていた。焦りからパスはつながらず、守備は下がるばかり。この状況での残り4分とアディショナルタイムは、あまりにも長かった。90+1分、カウンターから中盤でパスを受けたノヴァコヴィッチが左オープンで待つ東へ。東からのクロスへ絶妙のタイミングで走り込んだノヴァコヴィッチが逆転ゴールを叩き込む。爆発するオレンジの歓喜と、サックスブルーの悲鳴。文字通りのラストチャンスとなった中村のフリーキックが枠を外れ、大宮は奇跡的ともいえる大逆転でベスト8への切符をもぎ取った。

とてつもなく劇的な試合だったが、川崎Fの自作自演ともいえる悲喜劇だった。大宮にとっては、川崎Fが3点リードしているような戦い方をしてこなかったことが幸いした。ボールを持つと川崎Fは、まるで攻撃練習であるかのように、ボールロストを恐れず、律儀に大宮ゴールのみを目指して攻めてきた。ボールを回して時間を使うでもなく、勝っているにもかかわらず、大宮の注文通りに、カウンターの撃ち合いに付き合ってしまった。それを愚かだと断じるのは容易いが、それで攻め勝つのが風間サッカーであり、実際に追加点を奪って押し切れる可能性も低くはなかった。シーズン最後の試合として幕切れは最悪なものになってしまったが、来年も風間体制でブレずに継続する川崎Fの進化に注目したい。
そして大宮は7年ぶりの天皇杯ベスト8へ、大きな自信とともに駒を進めることとなった。伝統の堅守に加え、「点が取れる」という実感を、選手もサポーターも手にした。確実にこの勝利は、大宮のレベルを1段階引き上げた。次(12/23@熊谷陸)は柏を倒し、行こう、国立へ――。

以上

2012.12.16 Reported by 芥川和久
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

旬のキーワード

最新動画

詳細へ

2025/12/21(日) 10:00 知られざる副審の日常とジャッジの裏側——Jリーグ プロフェッショナルレフェリー・西橋勲に密着