試合後に選手たちがゴール裏スタンドにあいさつに行ったとき、清水サポーターはブーイングするわけでもなく、かといって大声援を送るわけでもなく、不思議なほど静かな反応を見せた。その姿は、11日前よりも明るい兆しが見える勝点1という結果に対して、どうリアクションすればいいのか戸惑っているようにも見える。その光景は、今の清水のチーム状況を象徴的に物語っているように感じられた。
清水は土曜日の前節からスタメンを5人、甲府は6人と、お互いに比較的少ないメンバー変更で臨んだヤマザキナビスコカップ初戦。清水のほうは今季初出場が2人だけで、右センターバックの犬飼智也(19歳)と、これがプロ初出場のGK櫛引政敏(20歳)。昨年の初戦ほど大胆なメンバー変更はなかったが、平均年齢が21.91歳で、ニューヒーロー賞対象選手が8人という驚くほどの若さは変わっていない。
甲府のほうは今季初出場が、GK河田晃兵(J1初出場)、センターバックのドウグラス、左サイドバックの崔誠根の3人で、いずれもずっとベンチに入っていた選手。両チームとも、選手に経験の場を与えるということよりも結果を重視するという意志が感じ取れる構成だった。
そんな中で、どちらも多少慎重な面はありながらもまずまずのスタート。とくに清水は、これまでのようなロングボールを混ぜながらも、しっかり足下でつないでいこうという姿勢を出してリズムを作っていった。そして9分には、ロングボールのこぼれ球を高木俊幸が拾ったところから起点を作り、伊藤翔が絡んで左サイドをうまく崩してボランチの位置から攻め上がったイ・ミンスがクロス。これにファーサイドから走り込んだ八反田康平がうまく合わせて押し込み、今季初の先制点を奪うことに成功。八反田は、リーグ戦前節に続けて2試合連続でプロ2点目を決めた。
また、これまでの清水の得点は、セットプレーかその流れの中からのものと、パワープレーによるものだけ。本来チームが目指しているサイド攻撃から生まれたチャンス自体も少なかっただけに、これは非常に大きな価値のある1点だった。
だからこそ、その後もさらに攻撃の流れが良くなり、落ち着いてパスをつないで相手のスキやスペースをうかがいながら仕掛けていくという攻撃ができ始めていた。「今までよりはだいぶ足下のパスが回って、少し去年の感覚で良いイメージでやれていた」(石毛秀樹)というあたりが、清水にとってこの試合でのもっとも大きな収穫と言える。
ただ、その良い感覚はまだ非常に脆いものでもあった。14分にCKのカウンターから甲府に決定機を作られ、平本一樹のシュートはプロの舞台で初めてのピンチを迎えたGK櫛引がよく弾いたものの、その後チーム全体にカウンターに対する恐れが芽生え始め、選手たちに余裕がなくなっていく。そして攻守にバタバタするシーンやミスが目立つようになって、リズムを崩していった。
一方、逆に甲府のほうは、徐々に攻撃の組み立てが良くなっていく。「名古屋に比べたら清水のほうが中盤のプレスは速かったけど、その中でもみんなうまくボールを回せていた」(平本)と、清水にプレッシャーをかけられても個々の選手が慌てて蹴ることなく、しっかりとボールをキープしてつないでいくという場面が目立つようになった。アタッキングサードでの崩しのところはもの足りないものの、メンバーが多少変わってもしっかりとパスをつなげるチームであることを証明した。
そして、32分には左FKのこぼれ球をベテラン土屋征夫が冷静な1タッチのループパスで裏に送り、ウーゴが抜け出して左足シュートを決め、早い段階で同点に追いつくことに成功した。
その後は、どちらかといえば清水が主導権を握る展開だが、一進一退で実質は互角。どちらもセットプレー絡みやカウンター以外ではなかなかチャンスを作れない流れになっていった。後半は、清水が不調の高木俊幸に代えて温存していたバレーを投入し、伊藤翔を左ウィングに移して攻撃に出る。その分、前線の迫力や恐さは増したが、冷静にポゼッションしながらチャンスを作っていくという意味ではもうひとつ。
とくに後半18分に瀬沼優司を入れてからは、これまで通りロングボールの多い攻撃になっていく。しかも、ゴトビ監督が求めている「ダイアゴナルな(対角線の)ボール」ではなく、ストレートなロングボールが多いため、なかなかバレーと瀬沼の高さを十分に生かせない。その意味では、甲府がよくセカンドボールを拾っていたことも大きかった。
ただ、甲府のほうもなかなかセットプレーとカウンター以外では可能性を見出せず、1-1のままタイムアップ。シュート数は、清水が7本(前半2/後半5)、甲府が5本(前半3/後半2)とどちらも少なく、チャンスメイクという面では課題が残った。
どちらもそれなりに手応えがあり、課題も表われた中で勝点1を分け合った試合。ただ、その手応えがより確かだったのは、アウェイの甲府であったことは、甲府サポーターの明るい反応にも表われていた。
清水のほうも、チームの現状を考えれば1試合で一気に流れが変わるとは考えにくい。「こういうふうに一歩一歩積み上げていけたら強くなれると思います」(村松大輔)という着実な前進が今は重要だろう。そのことをよく理解しているサポーターだからこそ、冒頭のような反応になったのかもしれない。
以上
2013.03.21 Reported by 前島芳雄















