アフシン・ゴトビ監督によると、清水はこの試合に先立つスカウティングにより、川崎Ｆに中盤のスペースを与えないような戦いを目指していたという。

「彼ら（川崎Ｆ）の傾向というのもわかっています。鍵となるのは中盤でスペースを与えないことでした」（ゴトビ監督）

その清水のプレスをもろに受けた一人がボランチの稲本潤一だった。「清水はFWの選手から、足元でボールをつながさないような意図で高い位置からプレスに来てましたね。僕とマサキ（山本真希）のところに入った所ですごく早いプレスが来てました」と清水の守備を説明。ただ、そう述べた稲本自身、そしてそれ以外の選手たちも、たとえプレスを受けたとしてもそれでもパスを繋がなければならないし、そのやりようはあったのだと反省していた。

「そこでもう少し早いテンポで、もう少し近い距離感で（やれていれば）。（実際に）何本か、プレッシャーに慣れてきた時間帯でゴール前まで行けてました」（稲本潤一）

「一人ドリブルでかわせたらあとは数的優位で運べる感じだったので、その一人をどう剥がすのかが重要でした」（山越享太郎）

「本当に自分たち次第だと思います。いい距離感でリョウタ（大島僚太）とかマサキくん（山本真希）とかと絡んだ時は、そういう相手でもしっかり崩せたところがあったと思います。本当に自分たち次第だとはいつも思います」（森谷賢太郎）

パス回しを追求してきた川崎Ｆの選手を苦しめるだけのプレスを連続させた清水ではあるが、それについては八反田康平が「ディフェンスラインからつないでくるのはわかっていた」と話しつつ「（川崎Ｆの）ボランチのところだったり、（森谷）賢太郎くんのところで前を向かせるとパスを通されてしまう」と述べている。つまり、プレスをかけなければやられてしまうという切迫した危機感が根底にあり、だからこそ、前半から激しさを見せたその守備はペース配分を度外視したものでもあったという。

そうしたある意味捨て身の攻撃的な守備を仕掛けてきた相手に対し、苦戦するのは当たり前なのだろうと思う。ただ、そんな試合を振り返り、それでもやりようがあったという言葉が川崎Ｆの選手の口から異口同音で出てくるところに風間八宏監督のチームマネージメントの巧みさが見て取れる。選手たちは、自らの個人技術のさらなる向上や、それがチーム全体としての質の向上につながるのだと信じているのである。

ゴトビ監督は「60〜70分間素晴らしいサッカーができていて、ボールをしっかり回せていて自分たちがやりたいサッカーをできていたことを嬉しく思います」と述べている。実際に、今季川崎Ｆが初めて相手にシュート数で上回られたこの試合は、その試合時間の過半が清水ペースで進んだと見るのが妥当であろう。そうやって激しいプレスによって前半から試合をコントロールした清水は、その前半に2本の決定的なシュートを放っている。そういう意味で、ハイペースの試合の進行は悪いものではなかった。ただそれにしても「最後の20〜30分で組織が崩れてしまい、そこからオープンな試合になってしまいました」と述べるゴトビ監督の言葉から明らかなように、清水は試合終盤にペースダウンを余儀なくされた。もし仮に清水が有利に試合を進めた時間帯に得点が決まっていれば、ゴトビ監督が選択した戦いは称賛されてしかるべきものだっただろう。しかし、思うように試合を作れず、耐えることを強いられた川崎Ｆは、その苦しい時間帯で失点を許す事がなかった。そして、川崎Ｆが手にした20〜30分の有利な時間帯の間に決定機を作った。

前半44分に、登里享平からパトリックに通ったパスにより、GKの櫛引政敏と1対1になった場面。後半59分には、山越からのパスが森谷に通り、櫛引と1対1に。81分には大島僚太からのパスを小林悠が受けた場面。稲本はこうした場面を念頭に「GKと1対1になっている場面があったので、そこまで行っている、っちゃ行ってる。正直3−0でもおかしくない試合ではありましたね」と悔しさをにじませていた。

結果的に0−0で終わった試合は、清水が試合をコントロールする時間帯を作っていたという点で清水の狙い通りの戦いがある程度できていたと言える。そして、川崎Ｆがその清水のハイプレスを耐え、決定機を作ったという事実から、川崎Ｆの戦いも悪くはなかった。お互いにいい時間帯があったという点で、この試合は勝点1を分け合う結果が妥当だったとも言える。

なお、4節を終えたAグループは磐田が勝点を9に伸ばす一方、川崎Ｆの勝点は4に。川崎Ｆはまだ勝ち抜けの可能性はあるが、引き分けた相手が勝点2で予選リーグ最下位の清水だったことを考えた場合、少々物足りなさを感じるのも事実である。

以上

2013.04.11 Reported by 江藤高志