公式記録の天候の欄には「強風」と記された。どのくらいの強風だったかというと、コーナーキックやゴールキックの際にボールを置いても、すぐに風で転がってしまい、なかなか蹴れない場面が何度もあったほど。熊本の福王忠世が「経験したことのない強い風」と言えば、ホームチームである札幌の杉山哲も「想像していたよりも難しかった」と振り返る。「風下だとサッカーにならないくらいだった」とは南雄太。風上に立つか風下に立つか。とにかくそれがこの試合のポイントだった。
前半に風上に立ったのはホームの札幌。強風に加えて雨も降る難しいコンディションだったこともあり、立ち上がりから双方がアバウトに蹴り合うような展開となったが、風上を生かして押し込んだ札幌が13分に前田俊介のゴールで先制する。対する熊本もファビオ、齊藤和樹という馬力のある2トップにダイレクトで当ててチャンスを何度か作り出したが、それでもやはり風下からはうまく攻撃を組み立てられず、ペースは札幌のまま。21分に上里一将のフリーキックを奈良竜樹が頭で合わせたり、25分すぎには前田からのトリッキーなパスを受けた岡本賢明が狙ったりと、ホームチームが好機をいくつも作っていた。
だが、その前半を熊本のGK南はこう見ていたという。
「風上に立ってしまえば押し込めると思っていたし、1点なら間違いなく取り返せるとも思っていた」。
その根拠として南はこう口にした。「今シーズン、うちはアウェイに行くと強風のなかでの試合が多かった。先週の山形戦でもそうだったし、ここまでだけでも4試合くらいあったと思う。強風に慣れている、というわけではないが、流れはある程度把握できていた」。
そして実際に前半を1失点でしのぐと、風上に立った後半は熊本が一気に盛り返す。
50分に札幌のクリアボールが風で押し返された流れから仲間隼斗が蹴り込むと、57分には左サイドのFKから、88分には同じく左サイドのクロスから、それぞれ札幌のオウンゴールを呼び込んで3点を奪ってしまった。そしてそのままタイムアップまで押し込み続けた。
ここ4戦は無得点だった熊本がアウェイで3得点を挙げたのだから、彼らにとっては快勝と言っていいだろう。3点のうち2点がオウンゴールではあるが、それもチームとして札幌を押し込み、相手ゴール前でのプレーを増やしたからこそ。後半だけで9本もシュートを放ち、「チーム状況を考えると、今日は試合内容よりも、勝点3を取れたことがとにかく大きかった」と齊藤。「今後につながる勝利」とも続けた。
ただし、吉田靖監督は風上に立った後半と同じように、風下で苦しんだ前半についても自チームを称えている。
「前半は風で戻されたりだとか、我々の意図するサッカーはできないような感じでした。ただしそのなかでひとつ勝因として挙げれば、前半を1失点で抑えたところ。そこが今日のゲームの勝因だったと思います。2、3点取られてもおかしくないような展開のなかで、1失点で後半を迎えられたのが大きかった」
後半に3得点を奪った勢いは見事だったが、それも前半に粘り強くホームチームの猛攻をしのいだから。前半から9本ものシュートを打たれていたし、前述したようなピンチもあった。そこでもうひとつでもゴールを割られていたならば試合の流れはもっと違っていたかもしれない。
それにしても、繰り返しになるが、この日の強風下ではどちらも本当に難しいゲームを強いられていたと思う。この試合のパフォーマンスだけをもって、双方のサッカーの質について論じることは難しい。ただ、先発11名の平均年齢が27.00歳の熊本が、同23.36歳の札幌に悪条件のなかで我慢強く競り勝ったことを考えれば、こうした状況下では経験という部分が非常に大きな要素となるのだろう。ホームスタジアムの特徴のひとつである強風に飲み込まれた札幌に対し、熊本はベテランの南を中心に冷静に対処、我慢して連敗を止めた。若い選手が多い札幌側の視点に立てば、学ぶべきものの多い一戦とも総括できるかもしれない。
次節は中4日で5月3日。札幌は札幌ドームで京都と、熊本はホームのうまスタで水戸と対戦する。
「内容が悪くないながらもなかなか勝てない試合が続いたが、今日はその逆で、内容はまったくなかったが勝てた。そこがサッカーの面白いところだと思う」と南は締め括ったのだが、やはりいろんな展開があるからこそサッカーは面白い。この強風の一戦を経て両チームがどのような変化をして次戦に挑むのか。その部分にもぜひ注視したい。
以上
2013.04.29 Reported by 斉藤宏則
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