前半25分を過ぎたあたりでホームの観客席から「シュート打て」と連呼される。その時点でF東京が放ったシュートはFKをつないで東慶悟がゴールを狙った1本のみ。ただし、F東京が積極性に欠けていたわけではなく、大分に完全に支配されてしまっていたことがその状況を招いていた。記録を取るノートには、そこまでの時間帯でF東京の決定機として記したメモ書きはない。大分に押し込まれ、フィニッシュまで行けていなかったのだ。
原因は明らかだった。大分の田坂和昭監督は「内容は、入りも悪くなかった。ミスマッチを突いてボールを運んでフィニッシュまで持っていくことができた」と振り返る。4バックで守るF東京に対し、大分は攻撃時に1トップ2シャドーに加え、両ウイングバックも高い位置に張り出した。この4対5の数的不利な状況に対し、F東京はボールサイドを優先し、サイドを変えられると素早く横にずれるやり方で対応した。しかし、それが間に合っていなかった。森重真人は「4バックだと、守り方はゾーン中心になって入ってきたところをつぶすイメージ。それに、夏場ということもあり、肝心のスライドのタイミングが1つ2つ遅れていた」と悔やむ。この守備方法を取る場合は大前提として常にボールホルダーへプレッシャーを掛けなければいけない。前線から最終ラインまでかなりの運動量を強いられるため、高温多湿の夏場で中2日の試合には不向きな戦術だ。
F東京は、一つひとつの対応が遅れ、ずるずると最終ラインを下げざるを得なくなった。ボールを奪う位置も下がり、攻撃へと出て行くためには長い距離を走らなければいけなくなっていた。そこに、大分の帰陣の早さが手伝い、F東京はほぼノーチャンスの状態に陥っていた。
ポポヴィッチ監督は27分、大分と同じ3−4−2−1の並びへとシステムを変更した。この決断で一変した。米本拓司は「後ろが4枚だと、シャドーを見なければいけない。そこは任せて前に行きやすくなった」と言う。最終ラインはマンマークとなり、ボランチも相手ボランチまでプレッシャーを掛けやすくなった。
F東京のDF徳永悠平が「1対1なら能力はうちのほうが上。目の前の相手に勝てばいいのでわかりやすくなった」と語れば、大分の田坂監督も「マッチアップさせられると、これは力の差がどうしても出てしまう」とその差を認めるほど、個人の能力には開きがあった。各所で繰り広げられた局地戦で勝ったF東京に試合の流れが傾き、30分過ぎからシュートが増え始める。
守備の負担が減った両サイドのポジショニングが高くなり、太田宏介と徳永の攻撃参加の機会も増えていく。それが、先制点へとつながった。37分、太田が左サイドを突破し、中央へと切れ込んでエリア内へと侵入した。「右足で打ってやろうと思ったけど」、横パスを選択。ボールを預かった渡邉千真は、トラップして確実に左足でゴールへと流し込んだ。先行して試合を折り返したF東京は、後半開始早々にも渡邉がPKを獲得。これを自ら決めてリードを2点に広げた。
追いかける大分も動いた。「前線を2トップ2シャドーにし、(宮沢を)アンカーにした」(田坂監督)システムへと変更した。これはミラーゲームに持ち込まれた際の対策としてJ2時代に確立したものだ。しかし、序盤から上下動を繰り返していたチームに攻め落とすだけの燃料は残っておらず。F東京に押し切られる形で試合を終えた。
大分は主導権を握った早い時間帯で得点を奪うことが出来ていれば、違った展開になっていた。田坂監督は試合後の会見でフィニッシュの精度について言及しているが、それはF東京にとっても同じことだ。この日、2得点を挙げて得点ランク単独首位となった渡邉だが、「2−0ではもの足りない試合。もっと決めないといけなかった」と反省の言葉を並べた。1人でチームの総シュート3分の2にあたる10本を放ったが、3点目を奪いきることはできなかった。
F東京は5戦負けなしとなり、勝点を30に伸ばして6位へと浮上した。大分は15節以降、勝点を積み上げられず。残留に向けて厳しい戦いが続く。明暗は分かれたが、戦術の奥深さと、ゴールを挙げて失点を許さないというサッカーの明快な競技性を感じられる試合だった。
以上
2013.08.04 Reported by 馬場康平













