サッカーは点を奪い合うスポーツ。相手よりも多くの得点をあげれば勝ちとなる。逆に、失点さえしなければ負けにはならない。その場合、最悪でも引き分けだが、試合時間のどこかで1得点をあげれば勝てるのである。1点を取る難しさ、1点を守るつらさを知ることができる鳥栖と仙台の試合だった。
試合レポートに入る前に、もう一度録画を見直して欲しいシーンがある。試合時間90分が経過して、長いアディショナルタイムに入った鳥栖のベンチである。試合の行方をベンチに座って見守る選手たち。アディショナルタイムの経過とともにその表情に変化が起き始めた。5分を超えた時には、ベンチ前に立ってアディショナルタイム予定時間が経過したことを盛んにアピールしていた。そして、試合終了のホイッスル。スタッフまでが輪になって、飛び上がって喜ぶ姿が映し出されている。それだけ、この試合の厳しさと勝利の持つ意味の大きさを表していた。
その中心にいた水沼宏太。26分に決勝点となる26mのミドルシュートを決めた時の顔と勝利が確定した後の歓喜の輪の中の顔には、同じ笑顔でも伝わってくる喜びは違うものだった。ピッチで戦っているアスリートの顔とチームが勝利した選手の顔の違いである。前者は、勝利に向かってがむしゃらに戦っているアスリートがその過程で結果を出した喜びであり、後者はチーム一丸となって戦った勝利の喜びなのであろう。水沼だけでなく、ともに戦った鳥栖の選手、スタッフは同様の顔を見せていた。
逆に手倉森誠監督の試合中と試合後の表情も見ていただきたい。言葉でこそ「リスペクトし過ぎた」との言い回しで振り返ったが、その目には前半と後半、試合前と試合後の仙台の悔しさを見て取ることができる。「前半の戦いが慎重になり、難しくしてしまった。最後の攻撃というところに対して、共通理解を持ってはいらせたかったけど、逆に相手にひっかけられて攻められてしまい失点してしまったあの時間帯だけが悔やまれる。」(手倉森監督/仙台)は偽らざる気持ちであり、その瞬間で勝敗が決しただけに悔やんでも悔やみきれはしないだろう。
前半は慎重になったのは仙台だけではない。鳥栖も仙台同様に前線から激しいプレスをかける場面は少なかった。お互いに守備のブロックを引いて、相手に付け込まれる隙を埋めながら攻撃の機会をうかがっていたのは同じであった。ただ、そこの違いをあげるならば、仙台はDFラインでボールを回す時間が長かったことと鳥栖はシンプルに前線にボールを送っていたことだろう。その差がこの試合で唯一の得点につながるのだが・・・
26分に仙台の選手が前線へのグラインダーのパスを送った。そのパスをカットしたのが、ボランチ高橋義希である。手倉森監督が「もう少し外につければよかったというだけ」といったシーンである。そのボールを藤田直之が拾い、前を向いてフリーになっていた水沼が、仙台GKの位置を見て、技ありのシュートを決めた。中盤でボールを拾い、シンプルにつないでシュートを狙った鳥栖の戦い方の象徴シーンでもあった。
この一点が仙台に重くのしかかった。鳥栖は、追加点を奪う機会も少なく、この一点を守らざる状況となっていた。1点を取る難しさ、1点を守るつらさを、ピッチ上の選手たちだけでなく、互いのサポーターも知ることになる。
49分には、右サイドのクロスからDF石川大徳が飛び出してシュートを放つ。66分には、左サイドからMF太田吉彰が抜け出してシュートを放った。続けて、左CKからDF蜂須賀孝治はヘディングシュートを放った。88分の太田のヘディングシュートはクロスバーに弾かれた。後半だけで6本のシュートを仙台は放ったが、最後までゴールネットを揺らすことはできなかった。
83分からは、DF小林久晃を入れて5バック3ボランチを鳥栖は用いて「一点を死守」(尹晶煥監督/鳥栖)する作戦に出た。見た目や戦術論などは構わずに、ただ目の前の『無失点勝利』だけを目指していたのである。鳥栖と仙台、そこから得た結果には大きな違いがあった。手倉森監督(仙台)の見せた悔しさと鳥栖の選手たちが見せた喜びは、そのまま激しかった試合内容と言えるだろう。1点を取る難しさ、1点を守るつらさを知ることができる鳥栖と仙台の試合だった。
シュート数や決定機を多く作っても、ゴールネットを揺らさない限り得点にはカウントされない。サッカーには、優勢勝ちもなければ判定勝ちも存在しない。相手よりも多く得点しなければならないし、相手よりも少ない失点で試合を終えない限り、勝利の喜びを味わうことはできない。サッカーは、点を取り合うスポーツなのである。
以上
2013.08.25 Reported by サカクラゲン
J’s GOALニュース
一覧へ【J1:第22節 鳥栖 vs 仙台】レポート:初の無失点試合で、初の連勝を飾った鳥栖。仙台の猛攻に耐え、勝点を23に伸ばす。「前半にリスペクトし過ぎた」仙台は後半戦初黒星。(13.08.25)
- 終盤戦特集2025
- アウォーズ2025
- 明治安田J1昇格プレーオフ2025
- 明治安田J2昇格プレーオフ2025
- J3・JFL入れ替え戦
- AFCチャンピオンズリーグエリート2024/25
- AFCチャンピオンズリーグ2 2024/25
- はじめてのJリーグ
- Jリーグ×小野伸二 スマイルフットボールツアーfor a Sustainable Future supported by 明治安田
- 明治安田Jリーグ百年構想リーグ
- 2025 月間表彰
- 2025 移籍情報
- 2025 大会概要
- J.LEAGUE FANTASY CARD
- 2025 Jリーグインターナショナルユースカップ
- シャレン Jリーグ社会連携
- Jリーグ気候アクション
- Jリーグ公式試合での写真・動画のSNS投稿ガイドライン
- J.LEAGUE CORPORATE SITE













