たった一人から活動ははじまった。
昨年、水戸ホーリーホックのホームスタジアムであるケーズデンキスタジアム水戸の収容人数がJ1基準を満たしていないということから、「J1クラブライセンス」を取得できず、J1昇格の可能性が断たれてしまった。
J1に行くためにもスタジアムを改修しなければならない。そのためにサポーターができることは何なのか。様々な意見が交わされた。その中で「署名活動」という意見も出たが、調整がつかず実現できなかった。
しかし、「なんとかしないといけない」という危機感を、サポーターズチーム「レ・ブルー・水戸」代表の櫻井謙一さんは募らせていた。そして、いよいよ今季の開幕が押し迫ってきた時、ある方から「もうシーズンはじまっちゃうけど、何もやらなくていいの?」と問われ、「僕が責任を取るからやりましょう!」と決断。誰にも相談せずに署名用紙を作成し、仲間に意思を伝えた。それが開幕2週間前のことだった。
櫻井さんの意思に賛同する有志とともに街頭やスタジアムで「ケーズデンキスタジアム水戸の増設に向けた署名」の活動を開始。5ヶ月間で約5千人の署名を集めることができた。
櫻井さんが水戸ホーリーホックと出会ったのは4年前。選手寮の近くで食堂を営んでいる櫻井さん一家に選手寮の食事をお願いされたことがきっかけだった。
まずは、「試合を見に行かないといけない」ということで、当時のホームスタジアムだった笠松運動公園陸上競技場に足を運んだものの、その試合でチームは大敗。観客もまばらだった。「マイナスイメージからのスタートでしたね」と櫻井さんは振り返る。
しかし、選手やサポーターと接しているうちに「みんな、しっかりした信念を持って活動している。少しでも力になりたい」という力が湧いてきた。そして、選手寮の食事やスタジアムで売店を出すことに加え、「レ・ブルー・水戸」という団体を立ち上げ、クラブを支える活動を行うようになった。
団体の活動理念は「ホーリーホックが何を必要としているか考えて行動しよう」というもの。11年の財政危機の際には募金活動を行い、約150万円を集めてクラブに寄付した。そして、来場者数を増やすためにスタジアムで「ゲートフラッグ教室」を開催するなど、様々な活動を通して、チームに貢献してきた。
そして今回、スタジアム問題に揺れるチームを救おうと櫻井さんは立ち上がったのだ。しかし、「サポーターの中でも一筋縄にはいかないんですよ」と櫻井さんが振り返るように、すべての人が署名活動に賛同したわけではなかった。中には団体として署名活動に賛同しないサポーターグループがあり、そして「レ・ブルー・水戸」自体、賛成派と反対派に分かれてグループは二分することに。半分以上の人が抜けてしまったという。
「反対派」の考えは様々考えられるが、その中には「ただでさえ震災の復興で大変な水戸市に署名という形でプレッシャーをかけるのはよくない」というものがあった。
クラブもその考えに近かった。「震災後、水戸市は市役所などが被災し、いまだ復旧できていない。スタジアムを改修するのはライフラインが復旧してから」という考えで一貫しており、スタジアムの改修を要望しながらも、市の現状を踏まえて強く働きかけることは避けてきた。それゆえ、署名活動に対しても静観せざるを得なかったのだ。
「メディアを含めて扱ってくれる人は少なかったですし、邪険に扱われることが多かった」と櫻井さんは苦笑いしながら当時を振り返った。
流れが変わったのは水戸市が発表した来年からはじまる「第6次総合計画」の中にケーズデンキスタジアム水戸の改修が盛り込まれたことだった。
「それによってクラブ側も協力していただけるとのことだったので、ライセンス交付の9月末までの2カ月間一緒に活動しましょうということになったんです」(櫻井さん)
さらに、賛同する地元の企業や団体も活動に参加することが決定。8月1日から「ケーズデンキスタジアム水戸の早期改修を求める署名」へと形を変えて、活動が再スタートを切った。
一人ではじめた活動は大きなうねりを見せ始めたのだ。
「正直、僕が一番びっくりしていると思いますよ。トランプの大富豪で革命が起きて、天地がひっくり返った感じです。今までヒール役だった僕が、本線になってしまった(苦笑)。どうしようかなぁという感じです」。櫻井さんは戸惑いを見せながらも、「やるしかないですよね」と今後に向けて目を輝かせていた。
署名活動も残り1カ月。ラストスパートをかけるべく、さらに活動を大きくしていく予定だという。
「客席数を増やすためにも、観客を増やさないといけないんですよ。あとは順位の問題もある。それはクラブや選手が頑張らなければいけないのですが、僕らが関心を持って、その問題に真剣になって束になって取り組むことが大事だと思うんです。サポーターが騒がなければ、ムーブメントは起こせない。クラブが働きかけて、行政などが動いてくれればそれでいいのでしょうけど、でもそれでは本質的な点は変わらないと思います。次のステップに進むためにもサポーターが問題に対してどう向き合うか、どう動くかが重要だと思うんですよ。もうね、『水戸でJ1見たくない!?』の一言に尽きると思います。真剣にこの問題に立ち向かうことで、変わると思うんです。僕だけじゃなくて、他の人もいろいろ考えて行動していますし、サポーターレベルでいろいろ考える、いいきっかけになったと思う。もっといろんな人を巻き込んでいくことが僕らに求められていることなんだと思います」
「ライセンス問題」を前に、問われているのは水戸の「市民クラブ」としての価値である。今回の櫻井さんを中心とした活動が、突破口となるに違いない。
以上
2013.08.30 Reported by 佐藤拓也
J’s GOALニュース
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