大熊 清監督の大宮、西野 朗監督の名古屋。ともに今シーズンから新監督を迎え、初陣を落とした者同士の対戦は、いまだ発展途上ながらも安定した戦いぶりを見せた名古屋が敵地NACK5スタジアム大宮で勝点3を手にした。
前半はやや膠着した。チョ ヨンチョルを練習中の負傷で欠いた大宮は、ズラタンのコンディションが上がってきたこともあり、キャンプから主システムとして採用してきた4-2-3-1ではなくズラタンとラドンチッチのツインタワーに、渡邉大剛と家長昭博が左右のMFを務める4-4-2を選択。名古屋も同じ4-4-2だが、両者の攻め方は多少異なる。ズラタンが積極的にサイドに流れ起点を作ってクロス勝負の大宮と、ポゼッションしてバイタルエリア攻略をねらう名古屋。しかしビルドアップに難がある大宮はなかなか前線に良い形でボールを運べず、クロスまで持ち込めてもその精度が低く、前半はシュートゼロに終わる。名古屋はボール保持率では上回るものの、アタッキングサードでの崩しにアイディアを欠き、優勢に進めながらも決定機までは作れないまま後半を迎えた。
ハーフタイムに「もう少しエリアに侵入していくランニングプレーを増やしていかなければいけない」(西野監督)と指示を受けた名古屋は、後半開始から飛ばす。46分に中盤でボールを奪ったダニルソンから小川佳純、玉田圭司とつないで走り込んできたダニルソンがシュート。さらには前半のような中央一辺倒ではなく、右から左から危険なクロスが大宮ゴール前に入り始めた。そして53分、中盤に下がってポストをこなしたケネディが再びボールを持つと、絶妙なタイミングで最終ラインの裏に走り込んだ玉田にスルーパスが通り、名古屋が先制する。
「それまで積極的な守備ができていたのに、あの場面では集中力が保てず、消極的な守備が出てしまった」と大熊監督は悔やむが、その直前に連続してクロス攻撃にさらされたことで、大宮守備陣はがら空きの右サイドへの展開と、そこからのクロスを予測していたように思える。結果、ケネディにだれも寄せに行かず、中央の玉田をフリーにしてしまった。中央とサイドの使い分け、名古屋は実にしたたかだった。リードした名古屋は落ち着いてボールを回し、66分には自陣ゴール前のセットプレーからロングカウンターを発動。小川が長い距離をドリブルで持ち込み、最後は金澤慎をかわして大宮ゴールを射抜いた。
ここまでは完全に名古屋のゲームだった。しかし70分に大宮がコーナーキックの流れからクロスを菊地光将が折り返し、高橋祥平が詰めて1点を返すと、名古屋から余裕が消えた。バタバタしてミスが増え、ボールがつながらず、足が止まり始めて守備も間延びしてきた。逆に大宮は片岡洋介に代わったカルリーニョスが運動量と展開力を発揮し、名古屋を押し込んでいく。80分には左サイドバックを削って期待のドリブラー泉澤 仁を投入し、さらに83分には金澤に代えて長谷川 悠を前線に送る。10番を背負う渡邉が左ストッパーの位置に回り、高橋とカルリーニョスがボランチに入る3-2-2-3の、捨て身としか言いようのないパワープレーを大宮は仕掛けた。
高さと強さを誇り、自らも闘莉王FW大作戦を得意とする名古屋だが、この攻勢には「厳しいなと思った」(西野監督)という。大宮の前線の3人は、ズラタン186cm、長谷川187cm、そしてラドンチッチ193cm。「闘莉王や大武 峻のところに入ればと思ったが、ことごとくうちの両サイドバックにかかってくるようなボールが入ってきた」(西野監督)ことで、しっかり弾き返せず、大宮の波状攻撃を許し、ゴール前でスクランブルが次々に発生した。ここまでパワープレーで苦しむ名古屋も珍しかったのではないか。大宮の攻撃は捨て身なだけに、守備の面では恐ろしくリスキーで、跳ね返され方次第では3点目を奪われる可能性も非常に高かった。それでも名古屋に息もつかせず攻め続けたことで、カウンターを封じ込めた。終了間際、カルリーニョスの高精度のロングボールを長谷川が折り返し、高橋がゴールに押し込んだが、闘莉王の必死のラインコントロールで名古屋はオフサイドに逃れ、からくも逃げ切った。
試合後、結果的に決勝点となるゴールを挙げた小川は「苦しみながらも勝てたのが大きい」と、安堵の表情を浮かべた。残り20分の試合運びには「未熟な部分」(小川)もあったが、「初戦よりも安定度はあった。2点を取るまではねらい通りにやれていた」と、西野監督も手応えを感じている。内容とともに初勝利を得て、西野名古屋のチーム作りはまた一段と前進した。
大宮の大熊監督も「前回の修正点として、やってきたところは出ている」と、内容は評価した。クロスに対して入り込む人数は前節よりも増え、迫力も感じられた。守備も失点の場面を除けば、それほど崩されていたわけではない。懸念のビルドアップに関しては、カルリーニョスの展開力を上手く生かすことが一つの回答にはなるだろう。何より、終盤の捨て身のパワープレーを、大きなリスクを負いながらもやりきったことは、敗戦の中にも希望を感じさせた。もちろん勝点は得られていない現実はあるし、「状況が状況だからできたこと」(菊地)には違いない。あれだけの人数が遮二無二ゴールを目指せば迫力が出るのは当たり前で、必要なのは通常の攻撃でも、人数が少なくても相手を受け身にさせられるような鋭さだ。それにはしっかりとした攻撃の形を作っていく必要がある。まだ2試合が終わっただけとはいえ、のんびり仕上げていくほど時間はない。
以上
2014.03.09 Reported by 芥川和久













