満開の桜に囲まれたNDスタに響いたのは「ブルイズ」ではなく、「カモンロッソ」。日曜日遅くのキックオフで人数こそ少なかったが、熊本が3連勝のよろこびを体いっぱいに表現した。

山形のディフェンスラインには西河翔吾。昨年末のけがで出遅れていたが、特別指定選手としてプロ生活をスタートさせた広島で指導を受けた、当時の小野剛監督との試合で今季初出場のピッチに立った。西河は「ラインを高く保てばコンパクトな守備ができるかなと思っていたし、そこは意識しながらやりました」とチーム内における自らの役割を理解していた。しかし、ロングボールを蹴られる前にパスの起点にプレッシャーをかける連動した守備は機能せず、逆に背後に広いスペースを空けた状態で、相手のロングボールとそこへ走り込む相手選手に対応せざるを得ない状況に追い込まれる。

9分、藏川洋平がライナー性のクロスを齊藤和樹の頭に合わせ、その直後にもアーリークロスのタイミングで放った藏川のボールがそのままゴールマウスを襲い、GK清水健太がいっぱいに伸ばした右手でセーブした。11分には仲間隼斗と澤田崇がはさんで奪ったボールを橋本拳人がぽっかり空いた中盤に送り、収めた岡本賢明のドリブルからの低い軌道のミドルシュートには、オフサイドになったものの相手の背後を取った仲間が反応していた。そのチャンスが続いたあと、山形が13分から17分までに3度のコーナーキックを得た場面はひとつの見どころだったが、ここも熊本が確実に対応した。

浮いた位置取りのディエゴはセンターバックとボランチからなる箱の中で監視下に置かれ、そのなかでもシンプルに箱の外へとさばくシーンは何度かあったが、その先ではしっかりとコースに立って対応した熊本がクロスやシュートをゴール前に入れさせなかった。「どうしても相手の技術力が高いとファウルになってしまうプレーも出てくる。ただそれを恐れて行かなくなると、我々のレベルのチームだったら、相手に自由を与えてしまったら勝つ術がない」。小野監督の意を汲み取った選手たちが、相手にセットプレーを怖がらずに果敢に球際での勝負を挑んだことも、着実にペースを握る下地になった。それと同時に目立ったのが、山形の自滅型のパスミスだった。石崎信弘監督は「相手のプレレッシャーに対して落ち着いてボールが回せなかった」と振り返ったが、ディエゴと川西の間でも、両サイドの中島裕希やロメロフランクを含めた関係でも、出し手と受け手の齟齬によるボールロストは散見され、空いたスペースを起点にロングボールを蹴られる悪循環は前半が終わるまで続いた。

それでも風下でなんとか失点せずに堪えていた山形を襲ったのが、43分の熊本コーナーキック。キッカーの仲間はショートコーナーを選択する。澤田からのリターンを受けたあとは岡本とパス交換する2対2に移行。マークが外れた岡本がすかさずファーサイドへクロスを送ると、待ち構えていた園田拓也が古巣のゴールマウスにヘディングを突き刺した。試合の主導権を握っていた熊本がついに先制した。

山形は59分、ロメロフランクに代えて山崎雅人を投入。両サイドバックが高い位置でボールを持つなど少しずつ押し込み、そこから裏へのボールも送り始めたが、その時間帯にゴールを奪ったのはまたも熊本だった。藏川から前線のスペースに送られたシンプルなフィード。タッチに逃れる余裕は十分にあったが、西河は追ってきた齊藤を見ながらボールを逃がす。しかし、ゴールライン手前で体を入れ替えた齊藤がボールを奪い、そのまま持ち込みフィニッシュまで完結。山形の反撃の機運が高まるなかで増していた1点差の緊張感は、このワンプレーでいったん冷却された。

2度目の失点から10分後、山形は秋葉勝に代えて萬代宏樹を投入し、中盤ダイヤモンドの4-4-2に移行する。前に勢いを持って攻め込もうとする山形に対し、熊本も澤田を篠原弘次郎に代え、3-4-3で後ろの枚数を増やして対応するが、「あの時間帯はフォーメーションが変わって3バックになって、ちょっとみんなあたふたして、サイドを使われ始めてズルズル下がってしまった」と園田。山形のディエゴと川西がともに中盤まで下りてビルドアップを始めた83分、左サイドでフリーになった石川竜也のクロスから中島にヘッドで折り返され、ディエゴのシュートをブロックしたこぼれ球を移籍後初ゴールとなる川西に押し込まれた。さらにアディショナルタイムには、中島のクロスに逆サイドから走り込んできた山田拓巳にフリーでシュート打たれるシーンもあったが、これはサイドネット。アウェイチームが守りきってゲームは終了した。

「しっかりとボールにプレッシャーをかける、それから攻守の切り換えで絶対にサボらない、そういった一つ一つのことが勝負をわけるということ、それを非常によく心掛けて、最後まで集中して戦ってくれたと思います」。小野監督は選手を讃えた。前節に続き最後に1失点は喫し、シュート数も相手に上回られているが、「自分たちのやりたいサッカーが多少できたと思いますし、そういうサッカーをしようと言っていたので、結果も出てよかったと思います」（養父雄仁）と内容は完勝に近い。ホームに長崎を迎える連戦のスタートもいい状態で準備できそうだ。

この試合の終了間際に象徴的なシーンがあった。裏へ抜け出そうとする途中出場のファビオを2人がサイドで挟み、最後はゴールラインを割らせたが、対応した西河がすかさずボールをゴール方向へ蹴って送る一方、キーパーの清水は背後のボールボーイからボールを受けとろうとしていた。きびすを返し蹴り返されたボールの存在に気づいた清水は、結局ボールボーイから受け取ったボールを外に出し、西河から送られたボールを拾ってセットしたが、流れたボールをゴールエリアのファー側まで追った分だけ時間をロスすることになった。時間に追われるなかで最善の行動を取っているように見えるが、互いの意図を汲み取る余裕はそこにはなかった。「もう1回チームとして一つになってやっていくしかないので、攻撃もそうですけど、全てにおいて見つめ直してトレーニングからやっていきたいと思います」と西河。1試合でも早く立て直したい思いがある一方で、焦りが負のスパイラルを加速させるケースもある。難題と向き合うには、地に足を着ける必要がある。

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2014.04.21 Reported by 佐藤円