11月23日（日・祝）J2第44節新潟−大宮(13:00KICKOFF/新潟ス）
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　一度は同点に追いついた福岡戦を落としてもなお、新潟はアドバンテージを持っていた。試合後に記者に囲まれた反町監督は、引き分けでも昇格が決まるという最終節の状況について質問されて苦悩の表情を浮かべた。

「そうなんだよね、難しいところだよね」

　サッカーは、点を取るためにバランスを崩さなければならないスポーツだ。FWの選手に後ろのポジションの選手が絡むことで、得点の機会は増えていく。しかしそれは守備のバランスを崩すことと同義であり、失点のリスクが高まる場面でもある。つまり攻守が表裏一体の関係にあるサッカーにおいて、攻撃は最大のリスク要因なのである。

　そういう性格を持つサッカーにおいて、失点さえしなければ、点が取れなくてもそれでいい、というテーマを与えられたときにそれを遂行するのは、勝利することに比べれば難しいことではない。だからこそ、昇格にこだわってガチガチに守り抜く、という誘惑に駆られたとして不思議ではない。

　しかし舞台はホームのビッグスワンだ。クラブ史上初めて前売りが完売し、スタジアムがオレンジ色で埋め尽くされることは確実な状態だ。そういう中で無様な試合はできない。そういう葛藤が、冒頭の反町監督のコメントに現れている。

　ただし、試合が始まれば守備を固めなければならなくなる可能性はある。それだけ対戦相手である大宮は調子がいい。ワンタッチかダイレクトでつなぐすばやいパスワークは、相手に付け込ませる隙を与えさせず、バレーと伊藤が組む2トップのスピードは脅威だ。

　その大宮だが、連勝を4に伸ばして迎えた最終節で、最高のモチベーションの中で試合に臨めるはずだ。当然のことながら新潟には大勢のマスコミが集まり、活躍はニュースで配信されることになる。そういう中で一泡吹かせてやろうという想いを持つ選手は少なくないだろう。また、今期はここまで新潟に対して3連敗中と、分はよくないことも発奮材料になる。さらに言うと、昨シーズンも大分が目の前で昇格する姿を見せつけられている。同じ想いは二度としたくない、というのが正直な気持ちだろう。失うもののない大宮が前からプレッシャーを仕掛け、攻撃に行くのは容易に想像できる。

　もちろん、それは新潟にとって願ってもないチャンスでもある。

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　すでに報じられている通り、新潟は主力メンバーの数名が音頭を取り、複数の選手が丸坊主にして試合に臨むという。もちろん、それに応えてサポーターの中にも丸坊主が多数発生することになるだろう。そうした「何か」を共有することで得られる一体感が、新潟にプラスの力を与えるのは間違いない。

　新潟で勤務経験のある、あるスポーツ紙の記者がこんな昔話を聞かせてくれた。

「まだ人気のない頃は、見出しに『アルビレックス』と入れると販売店からクレームが来ました。『こんなもの誰も読まない。高校野球を入れろ』という具合に。ところが最近では、『もっとアルビレックスと入れてくれ』とリクエストが出てくる。変わりましたよ」

　新潟の盛り上がりは、すでにブームといえるレベルを通り越し、生活の中に浸透しつつある。その証拠に、4万人オーバーの観客が集まるのは日常となった。反町監督就任後に現実味を帯びてきたJ1昇格という3年越しの夢は、自らの力で勝ち取る事ができるところにはっきりと見えている。

　世の中の大多数の人間にとってプロスポーツの世界は未知の領域だ。そしてプロのプロたる所以（ゆえん）は、一般の人が思い描く夢を具現化してくれるところにある。

　ホームでの最終節。4万人の流す涙に、悲しみはいらない。


2003.11.21 Reported by 江藤高志

以上

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