大分 1 - 1 仙台 (14:04:大分ス) 入場者数 33,278人
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　もう誰も動けなかった。死力を尽くした戦いは１−１のドロー。互いに持てる力は全て出し切った。しかし、両チームにもたらされたものは天と地ほどに違うものだった。ピッチで両手を突き上げて、試合中に一度も声を切らすことのなかったサポーターと喜びを爆発させる大分イレブン。終了直後はピッチに倒れこんで動けず、遠く仙台から駆けつけた1000人を超すサポーターと涙にくれた仙台イレブン。大分のJ1残留と、仙台のJ2降格が決まった。

　J1残留のためには勝つしかない仙台は、予想通り、右に岩本、左に根本を配置。シルビーニョのトップ下、森保のワンボランチという攻撃的な布陣を敷いてきた。しかし、選手の動きは重い。ルーズボールを拾うことが出来ず、大分のプレスにあい、前を向いてボールが持つことが出来ない。狙いであるはずの両サイドからは形が作れず、山下、佐藤の２トップにボールが渡らず苦しい立ち上がりだ。

　一方の大分は理想的な立ち上がりを見せた。軽快な動きで中盤の主導権を握ると、両MFの後ろのスペースを巧みについて試合を組み立てる。特に、左サイドのスペースに流れる寺川と、それをフォローして攻め上がる有村のコンビネーションが光る。そして12分、この２人が先制点を演出した。寺川が岩本の裏へ流れてボールを引き出すと、有村が猛然とオーバーラップ。そこへ寺川からボールが渡る。この時点で勝負あり。有村からのクロスボールを中央でフリーになった梅田が落ち着いてゴールに流し込んだ。

　仙台にとっては大きな誤算、大分にとってはしてやったりの得点だった。「いい時間で点が取れたということと、先取点が取れたということで選手は気持ちよくやれたんじゃないか」（小林監督・大分）。その後も大分ペースで試合が続く。だが仙台もこのままでは終われない。先制点を喫したことで吹っ切れたのか、シルビーニョを中心に、選手の動きが良くなっていく。ジワジワと盛り返す仙台。そして30分、ベルデニック監督が動いた。


「後半は交代しようという準備はもともとありました。ただ、失点をしたということで早めに対応した」（ベルデニック監督）。
　岩本に代えて金を、森保に代えて財前を投入すると、４−３−３にシステムを変更。金をターゲットにボールを集めて起点を作り、両サイドから根本、財前が裏へ飛び出しゴールを狙う。

「３トップになって有村が上がれなくなったという意味で対応が早かった」（小林監督）
　試合の主導権を握った要因だったサイド攻撃が封じられた大分は、試合のリズムを仙台に奪われた。どんどんゴール前に放り込んでくる仙台に対し、GK岡中のスーパーセーブとカウンターで対抗したが、時間とともには自陣内へ閉じ込められていく。

　仙台の同点弾は71分、山下がドリブルからチャンスを作って交代出場の福田へ。最後は根本が左足を振りぬいた。さらに強引に攻め込む仙台。大分は必死にゴールを守る。残り時間は10分、サポーターの声援が一段と大きくなる。これでもかと攻め続ける仙台。３万人を超すサポーターの声援に押されて必死でゴールを守る大分。そして長い、長いロスタイムが４分を超えたところでホイッスル。試合はドロー。この瞬間、大分のJ1残留が決まった。


　最後まで攻め続けた仙台。しかし、ベルデニック監督は振り返る。「長いボールを蹴って、こぼれ球を拾って、確かにチャンスは何回かできたが、それはあくまでも偶然に過ぎない。うちが得たチャンスは頑張った結果。けれど、ずっとそういうプレーしているチームというのは、いい結果を出すことは難しい」。課題はチームのクォリティを上げることと語ったベルデニック監督。明日から、J1復帰を目指す戦いが始まる。

　一方、崖っぷちからJ1残留を果たした小林監督にも喜びの表情はない。あるのは安堵感と憔悴しきった表情だった。「すごくうれしいという部分と、ここまで引っ張らずに何とかなったんじゃないかという思いがある。そこを合わせてすごく苦しかった」。大分スタジアムを埋め尽くしたサポーターの声援には応えたが、J1で安定した戦いをするためには更なる進歩が求められる。大分にも新たな挑戦が待っている。

2003.11.30 Reported by 中倉一志

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