昨シーズンはわずか3勝しか挙げられずにJリーグワースト記録を更新してしまったサガン鳥栖。観客動員数も対前年比で18.5%も減少、結果も内容も問題が山積みの鳥栖は出口の見えないトンネルに迷い込んでしまったかのようだった。その鳥栖がゼロからの出直しを図る。「この監督でなければサガン鳥栖を建て直すことはできないと確信している」と古賀社長がチームの指揮を委ねたのは松本育夫監督。「私はサッカーで育てられた1人の男。サッカー界に何かが起きたときにその建て直し、貢献ということが私の人生。まさに私にとっては非常に名誉な仕事」と、松本監督も意欲を見せる。
クラブがまず着手したのが現場スタッフの刷新。松本監督の補佐役としてフィールドコーチに桂秀樹、GKコーチに笹原義巳を招いた。桂コーチは松本監督が川崎フロンターレの指揮をとっていたときの選手であり、笹原コーチも同じく川崎フロンターレ出身で、地球環境高では共にGKを育てた経験がある等、松本監督との信頼関係は厚い。さらに、昨年は不在だったフィジカルコーチにブラジル留学経験のある内藤淳一を採用。44試合をプロとして戦える身体に鍛え上げる。4人の結束力は強く、チームを作り上げるには万全の体制が整ったといえる。
チームの選手構成にもクラブは大鉈を振るった。松本監督の、各ポジションに2人ずつの選手を置くこと、ベテラン・中堅・若手のバランスを取ること、という要請に応えて11人の新入団選手を獲得。チームの約3分の1が入れ替わったが、昨シーズンから在籍する選手たちと、新たに獲得した選手たちとの構成バランスは良く、ゼロからのスタートにふさわしいメンバーが揃った。「選手の質は高い」と松本監督も満足気に語る。これらの資質の高い選手たちをどのように伸ばすのか、あるいは、選手たちがどれだけ高い意識を持ってシーズンに臨めるのか。このあたりが、新生鳥栖の鍵を握ることになりそうだ。
そんなチームが掲げるスローガンは「挑戦〜Challenge」。松本監督は「プロ意識へのチャレンジ」「昨年の成績を上回るためのチャレンジ」「勝利へのチャレンジ」を、その3本柱に上げる。中でも松本監督が強調するのが「プロ意識の徹底」だ。90分間走りぬく体力、プレッシャーに負けない技術、リズム感のある戦術、強い精神力、そして24時間にわたる自己管理。その徹底のため、どこよりも早くトレーニングを開始し、質量ともに激しいトレーニングを課した。
その成果は確実に現れている。C大阪とのプレシーズンマッチでは立ち上がりに2失点を喫したものの、その後は互角の試合を展開。大分との45分×3本の練習試合では5-1で勝利を収めた。また、G大阪との試合では1-2で敗れたものの、先制点を奪い、終了間際には一方的に攻め込む等、今までとは一味違うところを見せた。いずれの試合も90分間衰えないフィジカルをもとに、高い位置からタイトなマークでボールを奪う守備と攻守の切り替えの速い攻撃を披露。観戦に訪れた多くのファンから歓声を浴びた。
ポイントは、2列目からの飛び出しと正確なキック力を持つ伊藤彰の存在と、中盤でタメを作りボールを配給する本橋卓巳の働き。チームに柱ができたことで攻めのリズムが格段に良くなってきた。スピードのある小石龍臣、竹村栄哉のサイド突破や、本橋卓巳のスルーパスに2トップと伊藤彰が反応する攻撃は見ごたえがある。また、ポジションを競わせることで、それぞれのポジションのバックアップメンバーのレベルが上がったのも頼もしい。まだ、局面での甘さが顔を出す部分もあるが、仕上がり次第ではJ2の台風の目にもなりうる存在だ。侮れない存在になったと言える。
【新戦力・注目のキープレーヤー】
トレーニングマッチを見る限りでは、先発メンバーのうちの5人を新加入選手が占めることが予想される。この5人を主軸として、その周りを昨シーズンから在籍する選手たちが固める。そういう点からすれば、この5人の活躍がチームの動向に直結するといっても過言ではないだろう。
サポーターから最も大きな期待を寄せられているのが、横浜F・マリノスから期限付き移籍で加入した本橋卓巳だ。中盤のタレントが豊富な横浜F・マリノスでは出場機会を得られなかったが、市立船橋高2年時にチームの中心選手として全国高校選手権大会で優勝した他、ユース時代は数々の実績を持つ等、その能力は本物。中盤からの組み立て、スルーパスを武器にチームを操る。鳥栖では攻撃的なボランチという役割を任され、中盤で攻撃の起点を作り、得意のパス捌きからいくつものチャンスを作り出す。「足技は非常にいい物を持っている。感覚もいい」と松本監督も期待を寄せる。
本橋卓巳とともに中盤の核となるのがベテランの伊藤彰。大宮アルディージャからの移籍だが、かつては川崎フロンターレに所属し、松本監督とともにJ1昇格を果たした経験を持つ。ポジションは2列目の中央。2列目からの飛び出しとスルーパスが持ち味で、セカンドストライカーとしての役割を果たす。またセットプレーからの正確なキックも特徴のひとつで、鋭いボールをゴール前に供給する。JFLで84試合・24得点、Jリーグ(J1・J2通算)では、158試合・22得点と実績も豊富だ。今シーズンは副キャプテンの役割も任され、豊富な経験を生かしてチームのまとめ役としても期待されている。
大宮アルディージャからやって来たもう一人のベテラン竹村栄哉は、左サイドのスペシャリストとして攻撃の一翼を担う。伊藤彰同様、JFLで25試合・9得点、Jリーグ(J1・J2通算)では、115試合・9得点と豊富な経験を持つ。かつて在籍した大分トリニータ時代に左サイドを駆け上がり、相手の守備網を切り裂いた実力は今も健在。大宮で過ごした過去2年間は出場機会に恵まれることが少なかったが、「もう一度、うちに来て蘇ってもらいたい」と松本監督が活躍を期待する。右サイドの小石とともに鳥栖の大きな武器になることは間違いない。
最前線でゴールを狙うのはガンバ大阪から期限付き移籍で加入した羽畑公貴。ガンバ大阪ユース育ちらしく、そのテクニックは高い。プレースタイルは本人曰く「職人スタイル」。松本監督も「球扱いが感覚的。非常にいい感覚を持っている」と評している。まだ20歳と若く伸びしろは大きい。サガン鳥栖の得点力不足解消の切り札として期待される。
また若手ということでは、福岡大学から入団したルーキーの加藤秀典も注目だ。学生時代は九州大学選抜、全日本大学選抜に選出され、キャンプではストッパーとしての能力をいかんなく発揮。ルーキーとしてはただ一人、レギュラーポジションを獲得しそうだ。
さて、新戦力の他に鳥栖の鍵を握る選手として鈴木勝大をあげたい。本橋卓巳とともにダブルボランチを組む。勝負に対する強い気持ちと気性の激しさから、昨年はややもするとハードなプレーに走ることもあったが、その守備能力と精神力の強さは誰もが認めるところ。ガンバ大阪とのプレシーズンマッチではフェルナンジーニョを徹底マークして仕事をさせなかった。コンビを組む本橋卓巳の攻撃能力を生かすためには、鈴木勝大の守備能力は欠かせない。攻撃が機能するかどうかは鈴木勝大の活躍次第とも言える。
【開幕時の布陣予想】
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基本フォーメーションは3-5-2。GKの定位置争いは激しいが、今のところシュナイダー潤之介が一歩リードしている。最終ラインはストッパーに朝比奈伸と加藤秀典、リベロ的な動きを要求される中央のポジションは中村祥朗が奪いそうだ。ダブルボランチは守備力に定評のある鈴木勝大と、パス能力が高い本橋卓巳がコンビを組む。鈴木勝大がピンチの芽を摘み取り、本橋卓巳が前目に構えてゲームメーカーの役割を果たすことになる。
両WBは右に小石龍臣、左が竹村栄哉。ともにスピード溢れる縦への突破が魅力の選手で、シーズン中は2人が両サイドから突破を仕掛けるシーンが何度も見られることだろう。トップ下は伊藤彰で決まり。2列目からの飛び出しと、正確なキックは新生サガン鳥栖の大きな武器になる。そして2トップは羽畑公貴と鳴尾直軌。ベテラン佐藤大実も虎視眈々と出場機会を狙う。鳴尾を左サイドに出し、羽畑、佐藤大実で2トップを組むのもオプションのひとつだ。
2004.3.5 Reported by 中倉一志
以上
鳥栖、中津江村キャンプレポート
2004シーズン 開幕直前・クラブ別戦力分析レポート

















