11月12日（日） 2006 J2リーグ戦 第48節
鳥栖 2 - 1 湘南　（14:04／鳥栖／18,231人）
得点者：'34 新居辰基（鳥栖）、'42 横山聡（湘南）、'70 飯尾和也（鳥栖）
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選手の気持ちを鼓舞し、最高のパフォーマンスを見せるための要因には何があるのだろうか？　満員のスタンド、クラブ史上初の4連勝と今季20勝目、単独4位、そして昇格の可能性…。いずれもが今節の鳥栖の選手に与えられた権利であり、勝利する事でその可能性を秘めていた。
鳥栖は選手だけでなく、クラブもスタッフもそしてこの日スタジアムに集まった18,231人のファンも、最高の形で湘南戦を迎えていた。

地元小学校の3年生6名の「鳥栖スタジアムを満員にしたい」という夢を行政もクラブも一体になってかなえようとした。それが18,231人の入場者となって、クラブ史上最大の入場者が鳥栖スタジアムに駆けつけた。入場者数だけではない。つい2年前には、年間3勝しかあげていないチームが、数字の上では昇格の可能性を残している。試合前の選手のモチベーションは異様に高かった。しかし、緊張しているわけではない。今季の鳥栖の躍進には、「一戦必勝」（松本監督/鳥栖）の精神が生きている。「いつもと同じ戦い方をするだけ」（山口貴之/鳥栖）と選手とベンチ、そしてスタンドもキックオフを迎えた。

最初にスタジアムに歓声が上がったのは34分。中央でボールを受けた新居が、走りこんだ濱田にボールを流した。濱田はゴールに向かってボールを蹴り込んだが、そのボールが再び新居のもとに流れてきた。「コースを狙って蹴っただけ」（新居/鳥栖）。この日、久しぶりにスタメンに戻ってきた新居のシュートで先制点を鳥栖があげた。

しかし、この日の湘南は、いつになくアグレッシブだった。前線からプレッシャーをかけ、鳥栖にいつものポゼッションの機会を与えない。先制点を奪われてもアジエルが自由に動き鳥栖の中盤をかく乱し、中町が起点となって前線にボールを送り続けた。全員が早く動く事で鳥栖のファールを誘い、加藤が狙いを定めてバイタルエリアに放り込み続けた。徐々に湘南がボールを支配する時間が増え、その成果が42分に現れた。
右サイドでボールを奪った村山が、素早く前線の横山にボールを送った。「いい感じで裏に抜ける事ができた」（横山聡/湘南）というように鳥栖DF金の後ろで受ける事ができた。足元に入れば、横山のテクニックが生きる。GKをかわすようにゴールを決めて、試合を振り出しに戻した。

再びスタジアムに歓声が響いたのは70分、湘南ゴール前20m地点で鳥栖がFKを得たときだった。右サイドから前線に走りこむ藤田にボールが渡り、湘南DFに倒された。盛り上がる18,231人の観客。彼らの思いがゴール前に入った選手に伝わらないはずがない。濱田の蹴ったボールは弧を描いて右ポストに当たった。跳ね返ったボールが詰めていた飯尾の足元に入る。渾身の力を込めて湘南ゴールネットを揺らした。ポストに当たって、飯尾の前に転がる…この偶然は、間違いなくスタジアムに訪れたファンの思いに違いない。鳥栖の選手だけでなく、ボールにもその思いが伝わっていた。

90分の戦いが終えても冷めやらぬ熱気。ピッチを囲むスタンドからは、いつまでも続く拍手と選手への声援。6名の小学生の夢は、18,231人の興奮となって現実のものとなった。クラブ史上最多の入場者数。それを支えたボランティアスタッフ。そして鳥栖スタジアム。すべてが一体となって得た1勝は、永遠に記録と記憶になって語り継がれるに違いない。
「夢を持つことはすばらしい事。どんな小さな夢でも、かなえるために一生懸命頑張る事ができる」。松本監督が試合後に残したメッセージである。「全力に悔いなし」を座右の銘とする松本監督が3年間かかって築き上げたチームの価値ある1勝でもある。


以上

2006.11.12 Reported by サカクラゲン