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【J2:第13節 仙台 vs 甲府】レポート:双方がスタイルを見せた一戦。向上著しい守備が耐えて流れを引き寄せた仙台が、後半の2ゴールで完封勝利。甲府は1点が遠かった。(08.05.11)

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5月11日(日) 2008 J2リーグ戦 第13節
仙台 2 - 0 甲府 (13:04/ユアスタ/12,325人)
得点者:55' 岡山一成(仙台)、84' 中原貴之(仙台)
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耐えていれば、いいことがきっとやって来る。

前節の広島対仙台。プロ入り8年目でついにリーグ戦初出場を飾り、さらにそんな試合でファインセーブを連発して完封勝利に貢献するなど最高の一日を送ったGK萩原達郎を見て、私たちはそう思ったものだった。

彼の耐えてきた7年間と少しに比べれば、90分間のうちの何割という時間は、比べようのないほど短いもの。しかしこの時間の中で、今節は個人でなく仙台のチームが、我慢の先に光明があることを示した。

一時は甲府に恐れていたサッカーを遂行されかけた仙台だが、時間が経つにつれて盛り返すと、後半にセットプレーが絡んだ2ゴールを決めて、3試合連続の完封勝利に辿り着いている。

仙台が警戒していた甲府のスタイルとは、極端なスモールフィールドに選手が密集して、前線からボールを奪いに来る守備、あるいは狭い範囲での短いパス回しからサイドで飛び出してくる選手を活かした攻めだった。

そして今節の立ち上がり、実際に甲府のそうしたサッカーが、ユアスタの観衆の前で披露される。特に狙ってきたのは左サイド、2列目の藤田健と美尾敦が左に寄り、元々左サイドに並んでいたFWの宇留野純、さらには左SBの吉田豊が絡む。多いときにはさらにボランチの山本英臣、もしくは中央のFW前田雅文などが加勢し、ピッチの4分の1以下のスペースに密集を作った。狭い範囲で目まぐるしく動くボール、そしてボールの収まる先で、削る音がスタンドまで届かんばかりの激しい競り合い。今季のJ2で、少なくともユアスタの仙台サポーターが一度も見たことのない光景が繰り広げられた。

迎え撃つ仙台としてはこの試合、こうした域内でのボールを球際に激しく行くことでうまく引っ掛けて、奪ったら素早くワイドに展開するという、甲府のサッカーを逆手に取る攻めの意図を抱いていた。しかし試合の立ち上がりからしばらくは、仙台の選手も甲府のこうした流れにお付き合いしてしまう。甲府にしてみれば慣れたサッカーだが、仙台にとっては「畑違い」のもの。ゆえに自ずと流れは甲府が作っていく。

だが、流れそのままに、仙台がピンチを迎えていたわけでもなかった。苦しい時間帯のチームを救ったのは、ここ数節で整備著しいDFライン。前から取りに来る甲府のそれと同様に、仙台のDFラインも見事な統率の中で高い位置を保ち、抜け出してくる甲府の選手を次々とオフサイドの網にかけた。手倉森誠監督が会見で触れていた通り、前節の広島戦で90分間を耐え切った彼らには、裏へのリスクを凌駕する自信がみなぎっていたのだ(ラインコントロールにおいて迷いが生じたように見えたのは、平瀬智行が自陣でボールを失いカウンターを受け、一気にトップに顔を出してきた山本に裏を取られた37分の場面のみである)。

さらに競り合いの現場である中盤でも、永井篤志が高い技術でボールを「握る」(手倉森監督曰く「簡単にボールを周囲に叩かず、自ら持って、少しでも動こうとする」の意)ことで密集から抜けたボールが、オープンスペースの広がる前線に供給され始め、仙台が押し返す場面も増えてきていた。

後半開始直後、シュートがバーを叩いたり、両サイドから押し込んで好機を生み出すなど、甲府はさらなる勢いを持って仙台に襲い掛かったが、ここでも仙台の守備は、ラインコントロールとは別の顔―ブロック形成によるゴール前での強さ―を発揮して跳ね返す。

そして耐え続けた見返りが、試合開始から55分が経過して仙台にもたらされた。ゴール正面で得たFKが壁に当たってCKに。そのCKも一旦はクリアされるのだが、ハーフウェー付近で仙台が奪い返す。逆襲を試みようと一気に押し上げる最中だった甲府守備陣の乱れを永井は見逃さず、左45度でフリーだった平瀬へパスを出した。状況を確認した平瀬は、大外右からゴール前に差し込んできた岡山一成を見つけ、彼の足元へ完璧なサイドチェンジを送る。元FWらしく柔らかいタッチで右足を合わせた岡山のハーフボレーが、甲府のゴールを守るGK桜井繁のニアを抜き仙台が先制点を奪う。

ビハインドを負った甲府は、選手交代も含めさらなる積極策に。左サイドに石原を投入しての「3.5トップ」とでも言うべき布陣や、中央でよりボールに絡みだした藤田からの攻めで同点を狙う。しかしスローインから得た60分の絶好機で、ゴール正面完全にフリーだった山本のシュートはバーを大きく超えたり、際どく枠を突いた石原克哉のミドルは仙台GK林卓人に掻き出されるなど1点が遠い。さらにそんなピッチ上において、甲府の中盤にスペースを見つけた仙台のカウンターも鋭さを増しており、前半のような優位は失なわれていた。

そのような中で84分、甲府にファールが。このタイミングでピッチに投入された佐藤由紀彦がファーストタッチとして蹴ったFKが、ゴール前で競り勝った中原貴之の頭を完璧に捉えて仙台に2点目。文字通り、ゲームを「閉じる」ゴールを得た仙台がこのまま逃げ切っている。

甲府は密集からの崩し、仙台は奪ってからのワイドな展開。そして双方に言える、勇気を持っての高いライン設定。時間帯、そして90分後の結果に差こそあれ、双方の狙うサッカーがはっきりと垣間見える、興味深い一戦だった。やはり「スタイル」を感じられるサッカーは、見ていても(振り返っていても)楽しい。
 
試合が終わりに近づくに連れて、どんよりと漂っていた雲は薄まり、かすかながら夕日がのぞく空模様に。蔵王連峰なのかどうかは正直わからないが、西方にそびえる山々への視界もよくなってきた。
西方の山々…そういえば来週「彼ら」がやって来るが、仙台はそれを前に、良いチームへと仕上がりつつある。

以上
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