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前節の試合後、指揮官の語った言葉が頭の片隅に残っている。
「ネームバリューのある選手が相手に多いのはわかっているが、名前でサッカーをやるわけじゃない。ビビッて自分たちの首を自ら締めている感があった」
ふいに思い出されたのは、中断明けのある日の練習後、阿部吉朗が口にした言葉である。
「ナビスコカップのとき、みんなどこかビクビクしているように感じました。失敗を怖がったり、相手を過大評価したりした時点で負けていると思う。相手に対するリスペクトは必要だけど、でも結局は目の前の相手を倒さなければ上には行けないわけですから」
そして阿部はこんなふうに続けたものだ。
「J2にいるときから、J1でまたプレーするのを楽しみに、『見てろよ』という気持ちで日々やってきました。だから僕はいま、根底では楽しいというイメージで闘っているし、これからももっと点を取っていきたいと思ってる。やっぱり、J2を勝ち抜いた自分たちに自信をもっていたい」
くだんの名古屋戦では、湘南は立ち上がりの15分を凌いだ直後にセットプレーの流れから先制を許し、後半には追加点を奪われた。終盤、永木亮太の絶妙なスルーパスに、田原豊が「気持ちを込めて」左足を振り抜いたが、その後追いつき追い越すことは叶わなかった。
途中出場し、瑞穂でのデビュー戦を思い出したという馬場賢治は、「交代選手として攻撃をもっと活性化したかった」と自省しつつ、振り返る。
「名古屋戦もそのまえのF東京戦でも、ダイレクトでパスを繋げていくいい攻撃は見られていたと思います。でも、その先の迫力が足りなかった。中盤でリズムをつくれている分、最後のところでもっと積極的にいく必要があると感じます」
馬場の脳裏には、移籍加入したばかりの1月の宮崎キャンプの記憶がいまなお深く刻まれているようだ。そのとき初めて触れた、直線的にゴールへと向かう湘南の攻撃である。
「宮崎では、『そこで縦パスを入れるのか！』という印象がありました。そういう縦の意識が湘南のいいところだと思っていますが、最近は横パスを選ぶシーンが増えている気がする。しっかりプレーできてはいると思うけど、リスクを負うべきところは積極的にいかないといけない」
マイボールを大事にすることは、体力面を踏まえたうえでも緩急の意味でも軽視できない。ただ、腰が引けているがゆえに培ってきた「らしさ」が損なわれているのだとしたら、湘南である意味が褪せてしまう。阿部が以前語った「リスペクト」と「過大評価」という似て非なる心情がもたらす落とし穴は、自ら埋められはしまいか。反町康治監督の言葉にも通じている。
一方、平塚に乗り込むのは、現在2位につける清水である。リーグ再開直後は2戦2分と足踏みも、前節はホームでC大阪を降し、現在、首位鹿島に勝点1差と肉薄している。
C大阪戦では試合終盤にセットプレーから2点を奪われこそしたものの、ゲームをつねにコントロールしたその戦いぶりは盤石だった。反町監督も、「清水は質が高い。先発の11人だけでなく、後ろに控えている選手を含めて技術がある」と評した。湘南戦後の第17節にはホームで鹿島との直接対決も控えており、清水にとっては、先を見据えたうえでも、下位に沈む湘南を圧倒して弾みをつけたい今週末である。
なお今節は、本田拓也が累積で出場停止となる。中盤の底を担うキーマンに誰が抜擢されるのか。また清水は小野伸二や藤本淳吾ら多彩なプレイスキッカーを擁し、ヨンセンをはじめ長身も揃う。必然、セットプレーの攻防は、勝負の行方を左右するポイントのひとつとなろう。
ホームでの一戦を前に、反町監督は語った。
「我々はしぶとさが売りなんだから、しぶとく闘わなければいけない。連戦だし、『やってやろう』という選手たちの気持ちが大切だ。サポーターの力も大きい」
勝負の鍵は自分たちのなかに落ちている。慌てず臆せず、湘南らしさを示したい。
以上
2010.07.31 Reported by 隈元大吾
