スカパー!生中継 Ch185 後05:20〜
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Jリーグをずっと追いかけていると、その全てがまるで大河ドラマのように思えてくる。闘いの日々の中で醸し出される人間たちの葛藤、友情、苦闘、悲哀、そして寂寥。激しい起伏に富んだストーリー、意外性に満ちたシーズンの結末。ただ、ドラマと違うことは、シーズンが終わることは一つのピリオドであって、エンディングではないことだ。生きているかぎり、それぞれがまた、新しいドラマを始めることになる。
ミハイロ・ペトロヴィッチ監督と広島が共に紡いできた物語は、明日を含めてあと2試合で一つのピリオドを迎える。特にホーム・広島ビッグアーチを舞台としたストーリーは、明日が最後。ここまでの歴史を振り返ってみれば、ペトロヴィッチ広島が見せてきた物語は、まさに波乱万丈だ。それはJ2降格→復帰→ACL、などという全体の展開もそうだが、個々のゲームでもやはりドラマティックだ。
2006年、F東京を相手に佐藤寿人・駒野友一(現磐田)を怪我で途中交代を余儀なくされながら、2点差をひっくり返して5点をぶちこんだ闘い。2007年の千葉戦、アディショナルタイムで2点差を同点に追い付かれた試合。2008年、J1復帰を決めた愛媛戦で服部公太が決めたボレーシュートは、20本以上のパスをつないだ広島らしいコンビネーションの賜物。2009年、神戸に2点差をひっくり返されながら再逆転した試合では、広島らしい後ろからの攻撃参加が輝いた。2010年、ヤマザキナビスコカップ準決勝で清水に李忠成・高萩洋次郎のゴールで完勝、初めての決勝進出に王手をかけた。そして今季、G大阪を攻守にわたって圧倒し、10年間勝利がなかったリーグ戦における対G大阪戦の歴史を終結させた。これらの試合は全て、ペトロヴィッチ監督と選手たちが広島ビッグアーチを舞台に演じた「筋書きのないドラマ」である。
そして例えば、青山敏弘だ。5年半前、それまで一度もリーグ戦出場がなかった彼は、ペトロヴィッチという審美眼に長けた人物によって「発見」され、今やザッケローニ日本代表監督が代表候補としてリストアップするほどの実力者となった。
「監督が退任するという実感は、まだない」と青山は言う。「明日が、監督と一緒に戦う最後のホームゲームなんて、未だに信じられない。怒られた思い出ばかりだけど、それはいつも僕を見ていてくれたから。信頼されていたし、絆も感じていた。監督のことを疑ったことは、ほんの少しもない」
そして、こうも付け加えた。
「なんかね……、監督のことを考えると、寂しくなるんですよ。だけど今日の夜は、ここまでの5年半のことを、ずっと考えてみたい」
寂しいのは、青山だけではない。佐藤寿人も、森崎和幸も、西川周作も、水本裕貴も、高萩洋次郎も。選手たちはみんな、言葉の表現は違っても、ペトロヴィッチ監督退任へのカウントダウンが始まっていることに、寂寥感を感じている。だが、決して感傷にひたっているのではない。
「監督と共にやってきたことを、チームが一つになって表現して、勝って、みんなで喜びを分かち合いたい」という青山の言葉も、選手たちの共通認識だ。特にここまで、天皇杯を含めてホームゲームでは3連敗を喫している。最後のホームでも勝てず、サポーターを悲しませたままシーズンを終えることだけは避けたい。
ただ、対大宮戦はホームで2連敗中。カウンターから数的優位をつくられて失点し、膝を屈している。ラファエルや東慶悟が不在という状況は大宮にとっては痛手だが、逆に「広島対策」に徹しやすくなる効果を生む。石原直樹をはじめとして、大宮にはスピードに満ちたアタッカーは少なくない。中盤で中途半端なボールの失い方をしてしまえば、広島は大きな危機を迎える。
NACK5スタジアムでの闘いでは、大宮の前からのプレスが功を奏したものの、広島が我慢の展開からセットプレーによる1点を守りきった。ただビッグアーチでは、違った展開になることが予想される。広島はリスクを冒して攻撃し、大宮が速攻を狙う。勝敗は、互いがいかに我慢を続け、集中を切らさずに自分たちのサッカーを展開するかにかかるだろう。
明日が終われば、ビッグアーチにおける「ペトロヴィッチとその子供たち」の物語は、終結する。ただ、ミハイロ・ペトロヴィッチも、選手たちも、そしてサンフレッチェ広島も、それぞれの物語はまだこれからだ。その新しい門出をたくさんのサポーターと共に祝福できれば、最高である。
以上
2011.11.25 Reported by 中野和也













