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【J1:第7節 大宮 vs 浦和】レポート:東の復帰で攻守に躍動感が蘇った大宮、入念な分析に基づく現実的サッカーで浦和からホーム初勝利!(12.04.22)

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この試合に臨んだ大宮の鈴木淳監督は、追いつめられていたというとオーバーだが、決して安穏としていられる状況ではなかった。ここまで1勝2分3敗の勝点5。目標の勝点50はおろか、このまま調子の上がらないまま推移すれば降格の危険もあるペース。もしこのダービーに敗れたとしたら、監督の進退を問う声が出てきてもおかしくなかった。昨シーズンの浦和も、残留争い渦中にホームで行われたダービーで大宮に敗れ、直後にゼリコ ペトロヴィッチ監督を解任したように、ホームで迎えるダービーはそれだけ可燃性の高い試合となるのだ。
鈴木監督の試合前の会見の第一声は、「ダービーは特別な試合だが、平常心で臨みたい」と、いつものように淡々としたものだったが、いつもと違ったのは“相手に合わせた戦い方をする”と明言したことだ。いつもであれば「相手がどうあれ、やり方は変えない。前からアグレッシブにプレスに行き、攻めて勝つ」と、判で押したような回答に終始する指揮官が、この試合の前に限っては「守備で前から行きすぎると(プレスをかわされたとき)危ない。攻撃でも中途半端に攻めきれないとピンチになるので、攻めにかかる人数と、守備の重心をどこに持っていくかのバランスを考えたい」と、つまりは相手に合わせ、ある程度は引いて守ることを示唆したのだ。昨シーズンにはいよいよ残留争いがシャレにならなくなった段階までは見られなかった姿勢が、今シーズンは早くもこの段階で出てきたことは、「平常心」とは言いながらこのダービーが他ならぬ監督自身にとって期するもののある試合だったことを物語っている。

試合はまったく鈴木監督の思惑通りに進んだ。ハイプレスはよほど相手がバランスを崩しているとき以外は自重し、ハーフウェーラインからプレスをスタートした。ただし最終ラインまではコンパクトさを保ち、ボランチとセンターバックで最も警戒しなければならない浦和のポポ、マルシオ リシャルデス、柏木陽介のトライアングルを抑え込んだ。浦和に後方とサイドではボールを持たせるが、縦パスは許さず、中に入ってきてもあっという間にオレンジのユニフォームが取り囲んだ。浦和は両ワイドも高い位置取りで前線に張り付くが、裏をねらう意識に乏しく、まったく大宮の最終ラインを崩すことができなかった。
逆に大宮の攻めは、したたかに浦和の弱点を突いた。「事前のスカウティングで浦和の右サイド、特に永田さんと坪井さんのところにギャップができやすいことは分かっていた」(渡邉大剛)が、大宮にとって大きかったのは、そのギャップを作るフリーランニングを得意とする東 慶悟がこの試合で復帰したことだ。ラファエルが引いたときに東が裏へ飛び出すだけでなく、左に流れてチョ ヨンチョルが中に入るなど、東不在のここ数試合で欠けていた前線のアクティビティが復活。前線の連携した動きに合わせて、大宮は執拗に3バックの間や横のスペースにボールを送り続ける。先制点では、東が坪井慶介を上手く自分に引きつけたことで、チョがシュートまで持ち込めるスペースが永田充の右にぽっかり空いた。追加点はリスタートに集中を切らした浦和の隙を見逃さず、3バックの右を突破したチョが見事なクロスを浦和キラー・ラファエルに送った。これ以上ない展開で、大宮は試合を折り返す。

後半、「柏木がボランチに入って原口が前に出てきたので縦への速さへのケアと、中途半端にプレスに行って剥がされるのを嫌がったのもあって、後ろに引いてしまった」と渡邉が振り返るように、大宮はベタ引きになった。プレスの開始点は、ハーフウェーラインから10メートルは入った辺りになったが、結果的に原口にドリブルするスペースを与えなかった。大宮は中央をガチガチに固めて、浦和の細かいパス回しでの突破を阻止。サイドでもMFがDFラインに入って、5バックで守る場面が頻発した。攻撃には人数を割けないが、それでもラファエル、東、チョの3枚のカウンターで何度か浦和ゴールを脅かした。終盤には東に代えて深谷友基を投入し、完全に5バックを形成する徹底ぶりを見せた。
浦和は攻めに攻めた。しかし、柏木が「中へ中へ行きすぎたかもしれない」と反省するように、細かいダイレクトパスでの中央突破にこだわりすぎた嫌いがある。もちろん前半よりサイドからのクロスも増えてはいるが、中央で引きつけてサイドに展開するというより、中央ではね返されたので次はサイドへという具合で、ただでさえ引いている大宮の守備網を崩すまでには至らない。それでも後半だけで10本のシュートを放ち、そのうち半数は決定的と言ってもいいものだった。しかし、敵将ミハイロ ペトロヴィッチ監督が「サポーターやクラブから何かプレゼントしてもらってしかるべき」と賞賛した大宮の守護神・北野貴之のスーパーセーブと、菊地光将をはじめディフェンス陣の体を張った守りでゴールを許さない。「泥臭くても、勝ちは勝ち」……残留仕様の堅守速攻に舵を切った昨シーズン終盤、深谷がよく口にしていた言葉そのままだった。

シュート数、コーナーキックの数で上回りながら、0−2の敗戦。浦和の選手にもサポーターにもストレスのたまる試合だったろうが、ペトロヴィッチ監督が試合後語ったように「サッカーにはこういう試合もある」のだ。大宮に破られた守備の組織、また引いて守る相手をどう崩すかという課題は残るが、完璧な守備というものはないし、引いた相手を崩すのはどんなチームにとっても容易ではない。内容自体はそれほど悲観すべきものではないだろう。
大宮は東の復帰によって、これまで停滞していた攻撃が嘘のように活性化した。さらに今シーズン初めての完封を記録したことで、今後に大きな希望が見える試合となった。試合前の会見で鈴木監督は、「このダービーに勝つことがターニングポイントになるのでは?」との質問に、「そういうことはシーズンが終わった後になって『あの試合がそうだったな』と思うことであって、『この試合をそうしよう』と思って戦うものじゃないよ」と笑いながら答えたが、指揮官にとってはこれで少なくとも危機的状況は脱した。おそらくはまた、「相手がどうあれ、やり方は変えない」が復活するのだろうし、自分たちの良さを出すよりも相手の良さを消すサッカーはあまり魅力的とは言えないので、理想を追うことは歓迎だ。ただ願わくば、理想の攻撃的サッカーと、この日のような現実的な戦い方を、試合の中で使い分けられるようであればと思う。さいたまダービーで大宮がホームで浦和に初めて勝った、その記念すべき試合をターニングポイントとして振り返ることができれば、サポーターにとってもこれほど喜ばしいことはないだろう。

以上

2012.04.22 Reported by 芥川和久
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