『攻撃は最大の防御(策)』とはよく言ったものだ。
前半とは打って変わって、後半は新潟が主導権を握っていた。57分には、FWブルーノ ロペスが強烈なシュートを放って、新潟に勝利を呼び込むかと思われた。61分のMFアラン ミネイロのシュートは、鳥栖としてはポストに救われた。このどちらかが決まっていれば、鳥栖にニューヒーローが誕生することはなかっただろう。
60分、FW矢野貴章が右サイドの位置に投入された。この交代で一気に新潟が勢いづいた。自ら仕掛けて奥深いところからクロスをいれたかと思うと、中のスペースに走りこんでサイドバックが攻撃参加するスペースを作った。
「マークしていた相手が中に入ったかと思うと別の選手が出てきて…」と今節も左サイドバックに入ったDF呂成海(鳥栖)はこの時間帯は新潟の攻撃に手を焼いていた。
「後半に入って相手のブロックが少しずつ崩れてきたところでチャンスを作ることもできた」と黒崎久志監督(新潟)は、選手交代も含めて意図していた攻撃の手ごたえを感じていた。しかし、この意図を一人の選手交代で消してしまう采配を尹晶煥監督(鳥栖)が見せた。
考えられたのは、呂成海に代わりケガから復帰したDF磯崎敬太の投入であった。磯崎は、左サイドを主戦場とする守備のスペシャリスト。新潟の攻撃力を鳥栖の守備力で消し去る作戦である。しかし、お互いに無得点のままであり、試合時間は20分も残っている状態である。
尹晶煥監督の講じた一策は、左サイドMF金民友に代えて指定強化選手として登録されたばかりの、MF清武功暉を投入することだった。疲れも見え始めた金民友に代えて、元気な清武が高い位置で攻撃的に動くことで、新潟の右サイドを守備に回そうとの作戦だった。
確かに彼がピッチに立った瞬間から、それまで新潟が握っていた主導権が鳥栖に流れてきた事を考えると、有効な一策だった。そして、彼をこの日のヒーローに仕上げた時間がやってきた。80分に、右サイドのFWトジンからボールを受けた清武が新潟のセンターディフェンスの間にスルーパスを通した。このパスを引き出したFW岡田翔平も59分からピッチに立った元気者。今季が始まる前までは、清武と同じ指定強化選手だった。この若い2人でお膳立てをしたボールを、最後はトジンが蹴り込んで決勝点となった。
尹晶煥監督の期待に応えた若い2人も立派だが、この選手交代には深いヨミがあったことも付け加えて起きたい。清武をピッチに立たせたのは、20分の残り時間とスコアレスドローの状態だった。新潟に先制されると、雨中の試合で2得点を取るのは非常に難しい。しかも、交代カードは1枚しか残っていないので、攻撃的に使うと守備でのリスクが大きくなり追加点も奪われかねない。鳥栖が先制点をあげても、最後に新潟はパワープレー気味にシフトしてくるだろう。ヘディングと対人の強さのある呂成海を外してしまうと、守備での負担が大きくなり、先制点が無駄になってしまう可能性もある。
59分に岡田、71分に清武と攻撃的な選手を入れて、80分に先制点を狙い通りにあげることができ、83分に磯崎を入れて万全の守備体制を引いたのである。
60分に矢野を入れて一気にトップギアまで持ってきたにもかかわらず、好機に得点が奪えず鳥栖に先制を許してしまった新潟。80分に展開力のあるMF小谷野顕治、85分にDF裏への飛び出しを得意としているMF田中亜土夢を送り込んだが、71分の鳥栖の清武投入に後手を踏んだ感は否めない。
90分間という試合時間の中で、持てる戦力と起きている現象、そして起きると予想される現象をいち早くシミュレートできた尹晶煥監督の会心の試合運びと言える内容だった。
選手のプレーに一喜一憂することができるサッカー。それはそれで楽しいものである。
しかし、試合の途中に気づかなくても、振り返ってみると気づくサッカーの楽しさもある。
監督と同じ気持ちになって、試合運びや選手交代を予想しても、ベンチとスタンドでは観えるサッカー・感じるサッカーが違うようだ。
この違いを楽しむことができるのも、サッカーの醍醐味のひとつ。同じサッカー観(ここでは“感”や“勘”でもいいかもしれない)を所詮は持ち合わしていないのだから、色々と角度を変えて楽しむことができるのもサッカーである。
サッカーの魅力はひとつではない。
以上
2012.04.22 Reported by サカクラゲン
J’s GOALニュース
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