両チームが放ったシュート数はともに14本。しかし、その内訳は、前後半でくっきりと分かれた。前半はC大阪がシュート11本を放ちゲームを支配すると、逆に、後半は鹿島が10本と撃ち返す。もちろんシュート数と勝敗が比例するわけではないが、この試合に限ってはその展開を正確に映す数字となった。前半はC大阪、後半は鹿島が怒涛の攻撃を見せ、鹿島がホーム・カシマスタジアムでの通算200勝を祝う連勝をおさめた。
リーグ戦初勝利をあげた前節と同じメンバーで臨んだ鹿島だが、この日はなかなかペースが掴めなかった。序盤こそ、新井場徹のセンスあふれるパスから大迫勇也が3回連続で決定的な場面を迎えるも、いずれもゴールを決められない。C大阪も清武弘嗣が開始早々から積極的な仕掛けを見せるなど、どちらも一進一退が続いた。
だが、この時間帯にミスが目立っていたのは鹿島。特にパスミスが多く攻撃の形もつくれなくなっていく。そのため、シュート数が順調に伸びていくのはC大阪ばかり。21分には新井場のディフェンスにてこずっていたキム ボギョンが左サイドにまわると、清武・ブランキーニョとの美しいパス交換で崩し、先制点をあげた。
ジョルジーニョ監督は、この状況を相手の圧力に負けていたと見ていた。
「彼らが取った方法は、相手陣内で、つまりうちのビルドアップですが、そこにプレッシャーをかけて組み立てをさせない。要はボールを前に運ばせない、ということをやっていた」
そこで、失点が重ならないうちに手を打つことを決断、31分に梅鉢貴秀から柴崎岳に選手を交代し、ボランチを青木剛と小笠原満男に変更する。多少の落ち着きが見られるようになったが、終了間際にまたもキム ボギョンにゴールを許し、C大阪が2点のリードを奪った。
「前半は、非常に良いサッカーができていたと思います。相手を上回るボールのまわし方、そしてトータルで見ても相手を上回るいい前半だったと思います」
セルジオ ソアレス監督が自賛したように、C大阪にとっては完璧ともいえる前半だっただろう。鹿島は時間の経過とともに攻撃の糸口を見出せなくなり、残りの45分でどうやって反撃を試みるのかに注目が集まった。
ジョルジーニョ監督の決断は早かった。後半から青木を下げてドゥトラを投入。トップ下に置くと、右に遠藤康、左に小笠原、アンカーに柴崎を据えて中盤の形もダイヤモンド型に変更したのである。この戦術変更により鹿島が一気に主導権を奪い返し、C大阪のゴールを急襲するようになった。
57分には、小笠原が左サイドで粘ってボールを奪おうとしたところを遠藤がすばやくフォロー。ゴール前にあげたクロスを飛び出したキム ジンヒョンがパンチングで逃れるも、弾いた先にいたドゥトラが落ち着いたトラップからゴールへロビング気味のシュートを放つと、C大阪の選手たちの頭を越えたボールはゴールへと吸い込まれた。
後半の早い段階で1点を返したことが、鹿島の勢いをさらに増す。62分には、右サイドで小笠原、ドゥトラと繋ぎ、最後はゴール前に走り込んだ興梠慎三がうまく合わせ同点に。
さらに攻勢を強め85分に左サイドでスルーパスを得た遠藤が、豪快にニアサイドに蹴り込み、2点差をひっくり返して見せた。
C大阪としては、後手に回ってしまったことが痛かった。前半で高橋大輔をアクシデントで失い、怪我明けの丸橋祐介を起用。前半は攻撃にプラス面がもたらされたが、足が止まった後半はサイドに厳しく守備に行くことができない。さらにはボランチの二人(山口螢、扇原貴宏)もいずれも前半でイエローカードを受けてしまったことで、トップ下の位置からドリブルで突貫してくるドゥトラに対して受身の守備しかとれなかった。アンカーの位置から柴崎が的確なパスを左右に散らすと、ボールの奪いどころは自陣のゴール前しかなくなってしまった。途中交代の丸橋を再び代えなければならなかったところに、チーム事情の苦しさがうかがい知れる。
前節、退席処分でベンチに入れなかったジョルジーニョ監督としては、真の意味でリーグ戦初勝利をあげた。劣勢になっても勝負を諦めない姿勢は、現役時代そのもの。
「最後の得点は、僕の代の前から、そして僕らも引き継いだものである伝統のアントラーズスピリットだと思います。諦めず、献身的に、最後まで戦い続けるというのが、勝利を引き寄せたところもあったと思います」
会心の逆転劇の要因を、"アントラーズスピリット"と表現していた。内容的にも、ベテランの小笠原が牽引し、中堅選手になりつつある興梠が3戦連発、遠藤が2戦連発と、取るべき人が得点している。さらには新加入のドゥトラが良いアクセントを加えた。ジョルジーニョ監督が求めるピッチとベンチが一体になって掴んだ勝利だった。
以上
2012.04.22 Reported by 田中滋
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