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【J1:第7節 広島 vs 名古屋】レポート:90+4分、森脇良太が決めた「後悔を吹き飛ばす」劇的ゴール。ストイコビッチ監督を落胆させ、広島ビッグアーチは熱狂のるつぼに。(12.04.22)

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話は、水曜日まで遡る。ヤマザキナビスコカップ対磐田戦の終了間際、セットプレーのこぼれ球が森脇良太の足下に入った。一瞬、完全なフリー。だが、トラップをミスした森脇は、シュートではなくパスを選択。結果として広島は、0−1で敗戦してしまった。
森脇はこのプレーを、ずっと悔やんでいた。
どうして、パスを選んでしまったのか。
名古屋戦前日になっても、彼はその想いから抜け出せなかった。それには、理由がある。
リーグ第2節の対清水戦。森脇は高木俊幸のシュートをブロック。「防げた」と思った次の瞬間、足に当たったボールがそのままゴールに吸い込まれた。
「シュートを打てば、何かが起こる」
この時に得た教訓を胸に刻んだ森脇は「ゴール前では自分を信じて、シュートを打つ」と決意した。にもかかわらず、決定的な場面でパスを選んでしまった心の弱さ。自分が許せない。後悔を吹き飛ばすには、結果を出すしかない。

1点ビハインドの後半途中から、森脇は自らの判断で、前に何度も走った。危機管理は千葉和彦や水本裕貴、森崎和幸に任せ、前線を追い越して攻撃を仕掛け続けた。山岸智のクロスにミキッチがシュートを放ったシーンでも、その外側にはストッパーの彼がいた。大崎淳矢の決定的なシュートを導いたのも、森脇のスルーパスだった。失点シーン、ダニルソンとの球際の争いの中で青山敏弘と接触、ピッチに倒れてしまった。その悔いが、彼の想いをさらに攻撃へと駆り立てた。

しかし、立ちはだかるのは名古屋の守護神二人。3バックの中央に君臨した田中マルクス闘莉王は、何度かダニエルの裏をとった佐藤寿人の突破をことごとくカバー。危険なシーンで必ず顔を出し、広島の攻撃を跳ね返した。その闘莉王の壁を破っても、最後には楢崎正剛だ。前述した大崎の決定的シュートも、石原直樹のクロスに飛び込んだ佐藤のヘッドも、楢崎の落ち着きが広島の希望を打ち砕いた。

90+2分、清水航平が左サイドを突破し、クロス。191センチの増川隆洋がジャンプした頭上を超え、ボールが落ちてくる。飛び込んだのは、森脇だ。ゴールの予感に広島ビッグアーチが沸き立ったその瞬間、そこに楢崎が存在する。無理にキャッチにいかずに身体で止め、ゴールに吸い込まれそうになったボールをライン直前でキープした。
シュートコースを読み切った抜群のポジションどり。どんな時も冷静さを失わずに最善手を選択できる意志の強さ。小川佳純やダニエルの決定的シュートを未然に防いだ西川周作と共に、偉大なGK=楢崎の見事なプレーが試合を引き締める。

時計は93分に達していた。アディショナルタイムは4分。もうほとんど時間がない。それでもホームのサポーターはさらに声援を増幅させ、紫の戦士を後押しする。全員が自陣に入って守りを固める名古屋の選手たちを、アウェイに乗り込んだ赤いサポーターが全力で励ます。ヒートアップしたスタジアムを待っていたのは、劇的すぎるフィナーレだ。
右サイドから青山のクサビ。森崎浩司が落とした場所にいたのは、森脇だ。縦パスを狙う素振り。ブロックに入ろうと中村直志が滑るが、そこはフェイクだ。 左に持ち出し、フリーになる。危機を察知した闘莉王が身体を投げ出す。その闘将の想いを振り切るかのように、森脇の左足から放たれたボールは、猛スピードでゴールへと向かった。楢崎が身体を伸ばすも届かない。広島の想いを乗せたボールはバーに当たり、内側に吸い込まれた。「シュートを打てば、何かが起きる」。その教訓が、ついに活かされた瞬間だ。

失点直後、ストイコビッチ監督は腰をかがめ、じっとピッチを見つめていた。そして背広を脱ぎ、アンツーカーに叩きつけ、試合が終わっていないのに控え室へと戻りかけた。森脇のスーパーシュートは、それほどのショックを偉大なるドラガン ストイコビッチに与えたのである。

阿部翔平の体調不良もあり、急遽の3バック。さすがに連係がスムーズだったとは言えないが、それでもビッグチャンスをいくつもつくった。19分、永井謙佑と入れ替わった金崎夢生が独走。24分には小川のシュート、45分には金崎が決定的なクロスを放つ。いずれも広島守備陣の身体を張った守備に阻まれたが、62分にはダニルソンのドリブルで左サイドを崩し、ファーサイドに飛び込んだ田中隼磨のファインゴールで先制。闘莉王、楢崎、そして足がつるまで走り続けたダニルソン。彼らを中心とする名古屋の守備を崩すのは不可能にすら思えた。その堅守をこじ開けたのは、ストッパーの強い攻撃意識を「いい判断だ」(森保一監督)と許容しサポートする広島の哲学。そして試合前日、胸に残る後悔の念を吐き出した後に「期待してください」と言い切った森脇良太の決意だった。
 
以上

2012.04.22 Reported by 中野和也
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