「甲府に関わるみんなが、大木さんのことを『特別な人』と思っている」とキャプテンの山本英臣は言う。「想い」の温度や形はいろいろだと思うが、クラブ初のJ1昇格(05年)、J1残留(06年)という目に見える結果だけでなく、鹿島やG大阪や横浜FMに勝ったそのサッカーが山梨に対する自尊心やアイデンティティをより強く意識・獲得させたことで特別な人になった。ただ、大木武監督をコーチの立場からサポートした安間貴義(現・富山監督)とのコンビは印象が強すぎて、2人がクラブを去ってからは思い出だけが美しくなるばかりだった。
過去の記憶と戦って勝つことなんかできないし、過去を懐かしんでも今を良くすることはできない。でも、そういう時代はもう終わった。多くの人が同じ船に乗りたいと思う城福浩を監督に迎えたからだ。大木武も安間貴義も城福浩も完璧な指導者ではないし失敗もする。でも何が大事なのかはわかった。「同じ船に乗りたい」と思うかどうか。同じ船に乗ったなら一緒に戦えるし、どんな結果でも受け入れて次に進むことができる。今季、そういう監督に巡り会ったからこそ、今節の京都戦がものすごく楽しみになった。元カノのフェイスブックやツイッターを気にするような生活はもう終わり。甲府のファン・サポーターが京都の選手・監督紹介で「監督は大木武です」、とスタジアムDJが言ったときに、敬意を込めてブーイングをするのか、それとも拍手をするのか。この辺りにも「想い」の違いが出て来そうで興味深い。手では拍手をしながら口ではブーイングする新しいスタイルを確立するのも悪くない。
今のJ2の順位表を見ると、このままプレーオフに突入すればものすごいことになりそうな詰まり具合で先が読めない。勝点22で並ぶ4クラブには5位の甲府と6位の京都がいるし、勝点21のクラブは2(8位と9位)で、2位以内とプレーオフ圏内入りの争いはギュウギュウ。まだ順位を気にする時期でも状況でもないが、昇格を狙うクラブにとって首位から離されないことは重要。これは甲府も京都も同じはず。
DF秋本倫孝が出場停止で、DF染谷悠太がケガと、前節ターンオーバー気味に戦ったように見えた京都はゴールデンウィークの連戦の締めくくり、アウェイ甲府戦では先発に予定外の変化を求められそうだ。それがどんな形で表れるのかはわからないが、大木監督がどんな判断・決断をしてくるのか興味深い。この京都の魅力のひとつは産・官・学の地域連携の下で充実してきたアカデミー組織。宮吉拓実、久保裕也、伊藤優汰、駒井善成らアカデミー出身の選手が多く、あと3〜4年じっくり取り組めば先発メンバーの半数以上がアカデミー出身選手になりそうな勢いもある。さらにオール京都に近づきそうなところがすごい。ウエアがワコールってのもカッコいい。とはいえ、よそ様から今年のJ2のなかでビッグクラブと呼ばれる立場なのは京都と千葉。どうしても短期間で結果を求められてしまうが、パフォーマンスに波が出やすい若手を育てながら勝つのは容易ではない。勢いに乗ってハマればものすごいのに、ハマらないと自滅することもあるから。サヌを獲得したのも、その波を小さくするためだと思うが、どんな組み合わせで崩しにくるのか。
城福監督は京都の特徴のひとつとして、「ポジションの取り方が独特で、近い距離で狭いところに多くの人数を割いてくる」という点を挙げた。もちろん特徴はこれだけではないが、かつて甲府のファン・サポーターが大好きだったスタイルのひとつと今節は戦うことになる。これもちょっと楽しみ。
大木武を「敵」として初めて山梨中銀スタジアムに迎え入れる第13節は、過去に対する想いをなかなか断ち切れなかった人にとって、断ち切るための儀式でもある。05年から07年の特別な3年間を共に生きた甲府のファン・サポーターにとって、今節は過去と向き合う特別な儀式。そして、そのいけにえとして京都には勝点3を出してもらう。今僕たちが乗っている船は城福丸。すぐに過去になる現在を生きているが、今節戦う京都は過去の甲府でもある。こんな想いで戦うことは、これが最後かもしれない。特別な3年間に関わっていない人たちを置き去りにするつもりはないが、あの時代に熱狂したからこそ今節で決着をつけて、城福丸の一員としての未来を生きよう。そのためには絶対に勝点3を奪い取らなければならない。そして、勝って「タケシ」コールをしよう。
以上
2012.05.05 Reported by 松尾潤
J’s GOALニュース
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