凄いものを見た。守備もここまで徹底すれば、ある種の迫力が溢れ出す。
大宮の守備はとにかく徹底していた。広島のボランチ=青山敏弘に対し、大宮の攻撃の主軸=東慶悟をマンマークにつけた。サイドハーフの渡部大輔は、森脇良太の攻め上がりを監視。カルリーニョスと青木拓矢のダブルボランチは高萩洋次郎・石原直樹をマンマークで捕まえることに奔走し、佐藤寿人を二人のCBが常に挟み込む。FW長谷川悠も、前からの守備で広島のパスの基点を潰しにかかる。コンパクトなゾーンを最初から最後まで崩さなかった。
鳥栖戦で森崎和幸が豊田陽平にマンマークを受けたことがあるが、それ以上の守備専念戦術。75分、カルリーニョスのFKに東が飛び出したシーン。81分、下平匠のクロスに渡部が飛び込んだ場面。この二つの決定機が広島の肝を冷やさせたものの、それ以外ではほとんど攻撃の意志を見せなかった。
チョ・ヨンチョルとラファエル。二人のタレントの欠場が、ベルデニック監督にこの戦術を選択させたのか。だが試合後の指揮官は「柏戦のような(攻撃重視の)試合をしても、結果的に勝点を奪えていない。現時点で広島から勝点を奪うには、こういうやり方しか、見いだせなかった」と語る。もちろん、二人がいればもっと鋭いカウンターが爆発したかもしれない。だが一方で、これほどの徹底守備ができなくなり、広島の攻撃に決壊したかもしれない。どっちに転んだか、それは誰にもわからない。
大宮が全力で守ったように,広島もまた全力を尽くして攻めた。13本のCKを奪い(大宮は0)、ニア・ファー・ショートと何度も工夫を重ねながら、高さのある大宮守備陣をこじあけようとした。63分にはCKから森脇が決定的なシュートを放つ。チャンスは生み出していた。
青山が東の徹底マークを受けたなら、いつもは後ろでバランスをとる森崎和幸が前に出る。さらにリベロの千葉和彦がオーバーラップ。人数をかけて圧力をかけた。中央が堅いならとサイドにボールを集め、ミキッチと清水航平が突破を仕掛ける。だが、大宮の集中力は途切れず、最後の最後で身体を張る。守り抜く。
72分、高萩が左サイドにあいたスペースを見逃さず、スルーパス。そこに清水が飛び込んだ。抜けた。村上、追いかける。清水、倒れる。微妙なシーン。だが、主審の判定はノーファウル。PKはない。
さらに74分、ミキッチが強烈な突破からのクロス。GKが弾いたボールを石原が押し込もうとする。だが、菊地光将がいいポジションをとって跳ね返した。
終盤、大宮にも疲れが見えた。守備だけに専念することは、決して楽な仕事ではない。特に縦横のパス回しと後からどんどん上がってくる広島の多彩な攻撃を封じるには、一瞬の緩みも許されない。ストレスも溜まるし、肉体的にも精神的にも疲労が溜まるのは当然だ。
それでも、彼らは自分たちのタスクを全うした。「これしかない」。そんな指揮官の意識が、ピッチに立つ11人全てに浸透し、激しく身体をぶつけ、抜かれてもやられても、絶対に諦めない姿勢を見せた。独りよがりなプレーをする選手は一人もいなかった。徹底と集中。それが凄みと迫力に昇華して広島の圧力を跳ね返し続けた。
93分を過ぎた時、広島は最後の攻撃を仕掛ける。森崎浩のパスを受けた森崎和は、左へ展開。ファン・ソッコ、クロス。終着駅は佐藤寿人だ。ヘッド。だがエースが渾身の力を込めて放った広島の20本目となったシュートは、枠をそれてしまった。
試合終了。青山のマークに奔走した東は、思わず座り込む。もっともっと、攻撃に出たかったはずだ。だが、それでもチームのために役割を全うした彼の姿は美しかった。
思い出すのは2006年。開幕から10試合勝利がなかった広島は大宮を相手に全員で守り抜き、カウンターから佐藤寿人がゴールを打ち抜いて初勝利を奪った。徹底した守備で勝ち取った勝利に、望月一頼監督(当時)は言葉を詰まらせ、涙をこぼす選手やサポーターもいた。6年の歳月が立場を変え、大宮が全員守備で勝点1を奪う。歴史というのは、本当に不思議な因縁をつくってくれる。
広島にも収穫はある。徹底守備を仕掛けられ、カウンターやセットプレーで敗れた鳥栖戦や新潟戦と違い、しっかりと勝点1を奪えたことだ。結果として、首位・仙台との勝点差は2のまま。次節の直接対決で勝てば首位に立てる状況を保ったまま、広島は敵地に乗り込める。
第15節終了時点での2位は、1シーズン制ではクラブ史上初。1位・2位で闘う「首位決戦」は1994年6月4日の対清水戦以来。勝てなかった悔しさと「上位で闘える楽しさ」(佐藤)を噛み締め、広島は決戦に向けての準備を整える。
以上
2012.06.24 Reported by 中野和也
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