プレビューでも触れたとおり、鳥取は今季、先制されると17戦全敗、J2に昇格した昨季からの通算では1勝1分39敗と、引き分けに持ち込むことすらできないでいた(昨季の1勝1分の相手は、鳥取よりも唯一、順位が下だった最下位の岐阜)。その1勝もアウェイでのものだったが、ついにJ2昇格後初めてとなるホームでの逆転勝利。しかも逆転ゴールは後半のアディショナルタイムで、とりぎんバードスタジアムに詰めかけた鳥取のファン・サポーターは、初めての、劇的な勝利の興奮に酔いしれた。
序盤は千葉がセットプレーを中心にゴールを目指す一方で、鳥取も左サイドバックの背後を突く攻めでチャンスを作る。鳥取は、千葉から期限付き移籍しているFW久保裕一、DF藤本修司が契約の問題で出場できず、攻撃のパワーダウンが懸念されたが、久保に代わって先発した福井理人の奮闘などで、悪くない流れを保っていた。
しかし19分、千葉の山口智のロングパスに合わせて、藤田祥史がディフェンスラインの背後へ。対応が遅れた鳥取の水本勝成が懸命に追走してブロックにいこうとしたが、藤田はそれよりも早く左足を振り抜き、先制点を奪った。
最近2試合は無得点に終わり、特に前節は前半の決定機を逃したことが、最下位の町田にホームで敗れる遠因となっていた千葉にとっては、大きな先制点。一方、前述のように先制されると苦しい鳥取にとっては、非常に痛い失点だった。吉澤英生監督は戦前、「先制されると非常に厳しい試合になる」と語っており、選手たちの考えも同様。戸川健太が「ずっしりくる失点」と振り返ったゴールで、流れは一気に千葉に傾くかと思われた。
だが、その後も千葉のペースは上がらず、鳥取が各エリアで激しくプレッシャーをかけて主導権を渡さない。千葉の木山隆之監督は「(鳥取が)かなり前からプレッシャーに来ていた。ある程度、想定済みだったので、相手にあまり勢いをかぶせられないように、相手の後ろ側(背後)にボールを送って、そこから守備をするということも考えてゲームに入った」と語ったが、「最初はできていたんですけど、1点取った後ですよね。プレッシャーに行かず、自分たちが後ろへ下がり気味になって、全体が下がるというよりは、間伸びしたような形になった」と、先制後の失速の要因を振り返った。
ただ、この試合展開は鳥取にとっても、決して良いものではなかった。“良いリズムで攻めていても得点できない”“一瞬の隙を突かれて先制される”“その後に反撃するも追い付けず、結局は突き放されて敗れる”のは、前節の岡山戦をはじめ、昨季来の鳥取によく見られる悪い流れ。このまま得点を奪えなければ、同じ轍を踏む可能性は十分にあった。
ところが38分、鳥取が嫌なムードを一掃する同点ゴールを奪う。尾崎瑛一郎のロングパスをヘッドではね返そうとした竹内彬が、鶴見聡貴との競り合いでバランスを崩し、クリアしきれずに頭に当てて後方に流してしまう。これが鳥取にとっては最高の場所に落ち、鶴見がフリーで抜け出す形に。GK櫛野亮もペナルティエリア外までは飛び出すことができず、鶴見が「冷静に流し込めた」と振り返るループシュートでネットを揺らした。
千葉も失点直後の40分に、武田英二郎のセンタリングに、ファーサイドでフリーとなっていた田中佑昌が飛び込んだが、ヘッドでのシュートがうまく当たらず、体ごと押し込もうとしたシュートも鳥取GK小針清允がファインセーブ。これが決まっていれば、千葉は落ち着きを取り戻し、鳥取のダメージは、より大きくなっていただろうが、そのまま前半は1―1で終了した。
後半は、千葉が前半以上に両サイドバックが高い位置を取り、勝ち越し点を狙って圧力を強めてきたが、鳥取も両サイドのスペースを効果的に突く攻めを繰り出して対抗する。しかし、それぞれの守備陣のゴール前での踏ん張りや、最終局面でのシュートやパスの精度の低さもあり、なかなかスコアが動かない。千葉は「引き分けではなく、勝っていかなければいけないので、勝ち切ることを考えた」と語った木山監督が、71分に深井正樹と米倉恒貴、83分にリカルド ロボを投入したが、それでもゴールは遠く、鳥取も81分に交代出場した小井手翔太が右サイドを突破するなどしてチャンスを作ったが、やはりゴールはならなかった。
千葉は終了直前の89分、ゴール前の混戦から藤田が反転して左足で狙ったが、小針の好セーブに阻まれ、こぼれ球を狙ったロボのシュートも枠外へ。先制されると冒頭に挙げたようなデータがある鳥取にとっては、引き分けでも決して悪い結果ではなかった。だが、その後のアディショナルタイム、中盤のこぼれ球を左サイドに流れて受けた鶴見が低いセンタリング。中央でフリーとなっていた森英次郎が左足で合わせたシュートが、逆転ゴールとなってネットに吸い込まれた。
千葉は良い時間帯の先制点を生かせず、今季初の連敗。木山監督が敗因の一つとして「ルーズボールの処理・対応で、かなり後手を踏んだ印象」と振り返ったとおり、鳥取の激しい守備をうまく回避できず、不用意にボールを奪われてカウンターを受ける悪循環から、徐々にリズムを失った。山口はボールの奪われ方の悪さについて「いつもです。どんなやり方をしても同じカウンターを食らうし、何とかしなければいけないけど、何とかできないので、そこが一番歯がゆい。やりきるならやりきる、ミスをしても切り替えのところで頑張る、という単純なことをやらないとダメ」と指摘したが、いずれにしても下位相手の取りこぼしが、これ以上続くようだと、昇格争いの致命傷になりかねない。21位の岐阜との次節は、コンディショニングや下位相手という重圧との戦いなど、乗り越えるべき壁の多い難しい一戦となりそうだ。
鳥取は過去3戦全敗だった千葉相手の初勝利で19位に浮上。「これまで実績がなさ過ぎた」(戸川)先制された試合で、逆転までもっていく経験ができたことは大きい。JFL降格の危機は依然続いているが、それを勝ち抜いて残留を果たす上で、大きなターニングポイントになる可能性を秘める、劇的な勝利だった。
以上
2012.08.20 Reported by 石倉利英
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