キックオフから10分。手元のノートによれば、右サイドをオーバーラップした川鍋良祐のクロスに池元友樹が左足で合わせようとしたシーンの前後だったろう。ずいぶんと早くなった黄昏の空に、大輪の虹が架かっていた。バックスタンドやゴール裏からは見えなかったかもしれないが、大きく艶やかな虹。それは少なくとも北九州にとっては80分後のホイッスルに向けた吉兆になった。
ポテンシャルはありながらもチームやクラブの基礎体力に乏しかった北九州。昨季、三浦泰年体制でゼロからの再構築に踏み切ったばかりで、チームはまだ歴史の第二幕を歩き始めたに過ぎない。その北九州に必要なことであり三浦監督が目指しているものは、勝利のために相手に応じて大きくスタイルを曲げるのではなく、まずは揺るぎない北九州サッカーを作るということ。90分を通して自分たちのサッカーを表現し、自分たちのサッカーによってゲームの主導権を握り、自分たちのサッカーによって勝点3を得るストーリー。これを積み重ね、繰り返すことで、基礎体力は必ず高まっていく。そして吉兆を得たこの試合、果たして好ゲームを演じきることになった。
得点シーンを中心に試合を振り返っていこう。
北九州は立ち上がりから縦パスと横へ流すボールを効果的に組み合わせてピッチを広く使い、何度かゴール前にボールを送り込む。ただ、人数をかけて守る熊本のディフェンスを突破できず、木村祐志のロングフィードを池元がペナルティエリア内の左側で受けてシュートに持ち込んだ28分のチャンス以外に決定機はなかった。
しかし辛抱強く揺さぶってスペースが空いてくるのを待つと、35分、均衡が破れる。
木村の右サイドからのフィードをゴール前で常盤聡が受けて右に流すと、池元が相手DFにコースを狭められながらも巧みにループシュート。GKの上を越えて、ゴールへと吸い込まれていった。「練習の中でもいろんな(シュートの)バリエーションから意識しながらやっているのでそれが出たと思います」と池元。技ありのゴールで先制し、試合の流れをたぐり寄せた。
後半に入ると熊本は前線の選手が高い位置をキープし、ロングボールを当てたり、ミドルシュートでゴールに迫るようになる。端的な例は51分。武富孝介の低い位置からのフィードを大迫希が左の深い位置で受けてクロスを入れると、藤本主税が体勢を崩しながらも頭で合わせて枠を捉えるコースにシュート。しかし、このシュートは北九州のGK佐藤優也が好セーブし、またほかの決定的な場面でも北九州のハードワークが勝って熊本はゴールが近づいてこなかった。熊本としてはロングボールやミドルシュートの次の展開を確実にマイボールにすべきだったが、新井涼平が「セカンドボールが一番のキーだったのかな」と振り返るようにセカンドは北九州が拾い、攻撃に転換。熊本は上下にも揺さぶられることになり、熊本のゲームメイクの核となる根占真伍は「ボールを持っても取られることが多くて、それを取り返す力が足りなかった」と悔やんだ。
北九州は74分、安田晃大を投入してトップ下を任せると、このポジションで先発していた端戸仁を一列上げ、池元と端戸の2トップに変更する。すると79分、この采配がぴたりハマる。
熊本が前掛かりになってスペースが間延びしていたこともあり、新井がイレギュラーするボールを操りながら果敢に中央突破。左からペナルティエリア内に入った端戸に流すと、端戸が切り返しながら自らコースを作ってゴールへ貴重な追加点を振り抜いた。「仁を信じて出しました」と話す新井の冷静な判断と、「いいボールを出してくれたので、うまくフェイントしたら(相手が)くっついてくれた」と話す端戸の技が光り、北九州は試合を決定づける2点目を手にした。
試合終了間際にも、最終的にはバックチャージで止められてしまうが、カウンターから池元がディフェンスラインを突破していくチャンスを作るなど、北九州が自分たちで作り出した流れに乗り、アディショナルタイムまで棹を差しながら進んでいった。
熊本は崔根植を先発起用するも、「2トップが下がりすぎてしまって、フリーランニングとパス交換の中での背後を突けるようなシーンが残念ながら作れなかった」(高木琢也監督)。低い重心からのスピードのある攻撃が、北九州のファーストディフェンスによって遅らせられ、前線ではズレを修正できなかった。ただクロスやセットプレーからは決定機を何度も作っており、結果はひっくり返っていた可能性もある。上述したがセカンドボールを自分たちのものにできれば攻撃は重みを増したはずだ。悲観せず次の試合へと進んでいきたい。
一方で北九州は持ち前のパスサッカーを続けることで少しずつゴールを近づけ、試合の主導権をも握った。ストーリーのある試合で勝点3を掴み、6戦負けなし。端戸は「6位以内というのはまだ誰もあきらめていないですし、この先もこのサッカーを続けていけば見えてくると思う」と意気込んだ。また、三浦監督は「キャンプから構築してきているもの、積み重ねてきているもの」が噛み合うようになったと試合を振り返り、「夏場を迎えてからが『スタート』になっているんじゃないかなと思っています」と話した。プレビューでも触れたが、無敗の8月に北九州サッカーが花開く土台が完成。揺るぎない北九州サッカーの構築と、目指すべき高みへ向けて、いよいよスタートを切った。
「バトル オブ 九州」でも現時点で1位。他チームの結果次第だが「とりあえずはやることはやったのかなと思います」とキャプテンの木村。「去年は1位だったけど、その前の年は1勝だったので、実力ではなく偶然と思われてもしかたがない。今年1位になれば実力での1位だと証明できる」。九州で1位、リーグで6位以内へ。残り10試合が北九州にとってのスタートダッシュとなる。
以上
2012.09.03 Reported by 上田真之介















