流れを変え、そして試合を決めたのは、チームに合流して3ヶ月半、そして熊本のユニフォームをまとって7試合目の出場となった北嶋秀朗だった。勝点差1で福岡を迎えて今シーズン最後の『バトル・オブ・九州』に臨んだ熊本は、北嶋の2発を含む3ゴールで快勝。順位こそ変わらないものの前節に続く連勝で3ポイントを積み上げ、14位徳島、15位草津と勝点で並んだ。試合後のスタンドは、勝利の後のセレモニーとして定着した選手たちのゴール裏でのパフォーマンスによって、さらに歓喜に沸いた。
このゲームの勝因のひとつは、前節の大分戦同様、球際での激しいコンタクトとボールへの積極的なアプローチ、そして守備から攻撃の切り替えにおいて、相手の守備陣形が整う前に背後を狙うことを徹底した点だ。開始2分、右からの養父雄仁のコーナーキックに高橋祐太郎が頭で合わせて幸先良く先制したが、この場面に至ったのは、吉井孝輔から藏川洋平へと展開し、右サイドの深い位置で齊藤和樹が粘ってコーナーキックを得るという流れからだった。しかしながら、その後の展開で熊本が主導権を握っていたとは言いがたい。
「あの時間から1−0という感覚は持たない方が良かったかもしれない。点を取った後は、アグレッシブにプレーすることがやや欠けてしまったのかなと感じた」と高木琢也監督が振り返っているが、中盤から最終ラインにかけてブロックを作り、福岡のボールの動かし方に対して細かくスライドしながらスペースを埋めるポジショニングで縦に入るパスはうまく潰していた熊本ではあったが、全体的に少し引いてしまったことも影響して、あまりにイージーに福岡に同点ゴールを許す。22分、自陣左サイドでのつなぎを後ろ向きに下げた養父のパスは味方の足元から少しずれ、一瞬のミスを逃さなかったオズマールがスピードを生かして抜け出し、難なく流し込んだ。
以降、熊本は齊藤、高橋の両FWへボールをつけた後のサポートも遅くなり、鈴木惇や末吉隼也がフリーで前向きの状態を作り始めた福岡が押し込むのだが、その福岡の攻撃も連動性を欠いていた。そうした中、30分過ぎに先制点を挙げた高橋が右ひざを傷めて交代。北嶋がピッチへ入ったのを境に、再び熊本が流れを引き戻し、38分、40分、42分とサイドからチャンスを作る。ついにゴールとして結実したのはアディショナルタイムに入った45+1分。縦に入ったボールをワンタッチで武富孝介が左へはたくと、これを受けた原田拓がアーリークロスをゴール前へ。福岡のセンターバックの間で「ここしかない」というポジションを取った北嶋がきれいに頭で合わせ、ネットを揺らした。
後半に入ると、53分にオズマール、59分には城後寿と、追う福岡も左の成岡翔からの配球で決定的な場面を作って勢いを増す。しかし熊本はGK南雄太のファインセーブなどでゴールは割らせない。そして迎えた63分、再び北嶋にゴールが生まれる。中盤での奪い合いから福岡陣内へ下がったボールを武富が積極的なチェイスからマイボールにすると、ペナルティエリア内にいた北嶋へ低い横パス。「リターンをもらおうと思った」という武富の動きを受け、福岡の対応は北嶋を挟む形にはならず、結果として北嶋に反転する余裕を与えてしまう。ボールを受けた北嶋は、かつて柏で一緒にプレーしていた古賀正紘をかわし、写真を見るとやや巻くようなイメージだったのだろうか、左足でファーサイドへ決めた。
福岡は3点目を失って以降、チャンスに絡んでいた成岡に替えて石津大介、さらに右サイドバックの小原章吾に替えて木原正和を投入。しかし70分の石津のシュートは南に弾かれ、81分の坂田大輔のシュートも枠を捉えられない。逆に熊本は、81分に入った仲間隼斗が高い位置でのキープ、また齊藤が執拗なチェイスを見せるなど、自陣にボールを運ばせずに時間を使うといった狡猾さも見せ、4分のアディショナルタイムをやり過ごしてタイムアップ。内容的には決して良いとは言えないが、結果の求められるホームでの『バトル・オブ・九州』を制した。
前田浩二監督が試合後に述べているが、立ち上がりや前半終了間際といった時間帯にルーズな対応で失点を招いた福岡は、リーグワースト2の失点数にも表れている守備のまずさを修正しなければ、残留争いにまで巻き込まれかねない。攻撃でも本来ゴール前で仕事をすべき高橋泰が低い位置まで下がったりサイドへ流れてしまう場面が少なくなく、狙いを明確にした形はほとんど作れなかった。自動昇格の可能性が消えプレーオフ圏への浮上も厳しい状況をどう打開していくのか、残り試合では結果以上にその姿勢も問われるだろう。
熊本の勝因については冒頭で少し触れたが、このゲームでいっそう強く感じられたのは、チームとしての一体感である。監督からの打診を断り続けながら左サイドバックとしての先発を受け入れた原田の決断も、加入後初ゴールを決めたあとで北嶋が見せた双眼鏡を覗くような仕草も、その思いは、先週の練習時に負傷して欠場を余儀なくされた筑城和人に向けられていた。南のセーブも藏川洋平のクロスも、「キタジが取ったゲームで負けられない」「キタジに点を取らせたい」という味方を思う気持ちがプレーに表れたものだろう。先制ゴールを決めながら交代せざる得なくなった高橋に対しても、そうした思いを一人一人が抱いていたに違いない。さすような日差しが和らいで、試合終了の頃には少し肌寒くなり、初秋独特の物悲しさを感じるこの時期、勝利というゲームの結果以上に見ている者が胸を打たれるのは、1シーズンかけて培い、積み上げてきた、そうした思いの一端を彼らのプレーや行動から感じ取れるからだ。結果が伴わなくても、ここまで無為に時間を過ごしてきたわけではない。
「勝つ事に慣れること」。3ヶ月半前、熊本の一員となった北嶋は、上のステージへ進むために必要なことを問われ、そう答えている。まだ慣れきったとは言えない。しかしその真意は少しずつ、チームにもサポーターにも、浸透し始めている。
以上
2012.09.24 Reported by 井芹貴志















