結果が出ていない時には「内容よりも勝つことが大事」とはよく言う。確かに結果だけを求めたことがチームに好影響を与える場合もあるが、なりふり構わず自陣に籠城してカウンターに徹し、そこで勝点3を手にしても、今の柏にとってそれは根本的な解決策にはならず、逆に「勝利した」という事実によって、当面の問題がぼやけてしまうことにもなりかねなかった。したがってプレビューでも述べた通り、結果と同時に自分たちが築き上げてきたスタイルを取り戻すことこそ、柏が“負の連鎖”を断ち切る最も重要なポイントだと見ていた。
「チームが勝てていない中で、どう戦うかをテーマにしていた」。この大谷秀和の言葉を聞く限りでは、おそらく選手たちにもそういう意識があったのだろう。攻守両面で陣形をコンパクトにしながら、攻撃ではジョルジ ワグネル、茨田陽生、澤昌克がゾーンの間に顔を出し、工藤壮人も裏狙いに固執することなく、バイタルのスペースに降りてクサビの縦パスを受け、それぞれが最終ラインやボランチからボールを引き出せした。ジョルジが起点となるため、そこに絡む左サイドバックの橋本和の攻め上がりも多く、「立ち上がり、我々は良い入り方をして、攻守ともにリズム良くチャンスも作れていた」とネルシーニョ監督も試合の入り方を称賛した。
ただし、決めるべき時に決め切れず、守備も粘り切れずに失点を喫し、その結果劣勢を招く“悪癖”はこの試合でも感じさせ、20分過ぎまでは柏がゲームをコントロールしていたが、次第に川崎Fがリズムを手繰り寄せていく。その理由は、序盤は中盤の狭いゾーンの中に閉じ込められていた中村憲剛と風間宏希が次第にスペースを見出し、効果的なパスを供給し始めたからだ。中でも中村のポジショニングは秀逸で、そのマークは主に澤か、高い位置に入った時には大谷か栗澤僚一がケアする形を取っていたが、中村はそのいずれにも捕まらない位置取りでパスを受け、状況に応じて大きく展開を揺さぶり、時には縦に鋭いスルーパスを放つ。
時間帯によって両者の狭間で揺れ動く中盤のイニシアチブ、それを確実に手にするために両指揮官は後半から選手の並びに手を加える。ネルシーニョ監督が茨田をトップ下に置き、澤を右サイドに出せば、風間八宏監督も中村をトップ下に据え、山瀬功治をサイド、大島僚太をボランチと、ポジションをスライドさせた。
この変更は柏の方に奏功した。茨田のトップ下には「茨田、クリ(栗澤)、タニ(大谷)と連携を取りながら、中村をケアする」(ネルシーニョ監督)という“中村封じ”の狙いがあった。ところが、中村が前半よりも高い位置に入ったことで、中村のケアは大谷、栗澤、近藤直也、那須大亮の役回りとなり、茨田は守備のタスクから解放され、ジョルジ、工藤と近い関係を保ち、彼の持つ本来のパスセンスが生きた。
とはいえ、柏は6対4の割合でボールを回せていても、川崎Fの最終ラインを冷やりとさせるような、例えば工藤や澤が實藤友紀とジェシの背後に抜け出すシーンというのはなく、途中から入った田中順也も巧みな持ち出しでシュート体勢に持っていけたと思いきや、味方に預けて、逆に攻撃を手詰まりにさせてしまう。
一方、前節の札幌戦のように圧倒的にボールを保持することはできない川崎Fも、決して劣勢だったわけではなく、敵陣深くペナルティエリア付近までは運べる、だが、「ペナルティエリアに入ったからこそ落ち着いて攻めないと。そういうところで相手を外す動きが少なかった」と中村が振り返ったように、体を張った柏の守備、的確なカバーリングの前にあとひとつ押し切れず、後半のシュートはわずかに1本のみに終わる。その1本も山瀬のシュートミスが偶然に田中裕介の前に転がり、決定機にはなったが、全体的に見れば仕上げの部分でもう一工夫の必要性が感じられた。それでも63分には、中村のスルーパスから楠神順平が最終ラインの背後を突き、両チーム通じて唯一ディフェンスラインを破った場面を作っており、それが那須のタックルによってシュートまで持ち込めなかった点も考慮に入れなければならないが。
どちらが勝ってもおかしくはないこの攻防を制したのは、ジョルジの左足だった。16分と43分に続き、「最も得意とする位置」(ジョルジ)という66分の3度目のフリーキックを、鮮やかにゴール左上に蹴り込んだのである。この一撃で勝利を手にした柏にとって、もちろん勝点3を手にしたことも大事だが、丁寧なパスワークで構築する攻撃と粘り強い守備、柏の本来のスタイルを垣間見せたことが何よりも大きかった。
そしてこの勝利を単発で終わらせず、ようやく取り戻しつつある本来のスタイルをどう今後につなげていくか。水曜日の天皇杯3回戦、週末のヤマザキナビスコカップ準決勝と連戦が続く中で、さらなる答えを導き出してほしいところである。
以上
2012.10.07 Reported by 鈴木潤















