「ゲーム自体は、立ち上がりがひょっとしたらすべてだったのかなと思います」
2-0で山形を下し、クラブ新記録の4連勝を果たした熊本・高木琢也監督の弁だ。いまの熊本は、相手の強烈な攻撃を受けることになっても慌てることがない。しのいだ先にチャンスが必ず来ることを信じきることができているからだ。「山形さんはアウェイでなかなか勝てないという時期にあって、やはりホームですし、どんどん前に人を集めてくるんだろうなというのは想定してました。その時間帯を超えたことが、今日の本当に大きな勝利に結びつけることができたのかなあと思います」(高木監督)
キックオフ、横につなぎドリブルで仕掛けた熊本の奇襲に冷静に対応したあと、攻撃権を握ったのはホームの山形。永田亮太が2トップに絡んでギャップを突き、サイドバックの宮本卓也も積極的な上がりを見せた。アタッキングサードでの細かいパスは出し手と受け手の呼吸が合わない場面が多々見られたが、6分には左へ開いていた中島裕希が強烈なミドルシュートを放つなど熊本陣内でアグレッシブな攻撃を見せていた。
しかし、8分に起きたワンプレーがすべての状況を反転させる。山形スローインからの流れを切ってからのカウンター。受けに下がった武富孝介が、深く追ってきた石井秀典をかわし、ハーフウェイラインを越えてゴールをめざす。1枚余らせて守っていた山形は宮阪政樹が対応した2対2の展開は、武富の中央からのミドルシュートがわずかに右にそれて途絶えたが、その2分後。なおも押し込む山形の攻撃を熊本がしのぐと、右サイドに下りてきた齊藤和樹へ藏川洋平からパスが送られたが、今度は付いてきた岡根直哉が足を滑らせる。ターンしてタッチライン際をそのまま持ち込んだ齊藤が山なりのクロスを送ると、相手のマークを外していた武富がヘディングでゴールネットに突き刺した。「前半は終始、センターフォワード2人と相手のセンターバック2人がマンツーマンみたいな感じだったので、一人かわせればそこでフリーになる」と武富。1対1の駆け引きに勝ち、先制点につなげてみせた。
2本のフリーキックをしのいだあと、山形はまた相手陣内で押し込むまでに持ち直したが、そこでまたしても熊本の鋭利な攻撃にさらされる。22分の左スローインから、養父雄仁のスルーパスに飛び出した片山奨典のマイナスのグラウンダーを、またも武富がダイレクトでシュート。これはわずかに右に外れたが、その直後のこと。自分にマークが付いていないことを確認した五領淳樹が右サイドからダイアゴナルにスルスルと裏へ抜け、タイミングよく出された養父のパス受けるとマイナスの折り返しで養父のシュートをお膳立てした。ここは体を寄せた秋葉勝のブロックに阻まれたが、跳ね返りを拾った原田拓が今度は右へ展開。藏川がワンツーの動きで縦に抜けると、パスを受けた武富は正面に立った秋葉とカバーに入った石川竜也をかわして低い弾道のシュートで追加点を奪った。39分にはワンツーでサイドを突破した片山からのマイナスクロスのこぼれを武富がシュート。GK清水健太に弾かれて前半でのハットトリックはならなかったが、カウンターのみならず、守備をセットした山形のブロックも自信を持って崩しにかかっていた。最近2試合で3得点を挙げている北嶋秀朗が負傷離脱したが、それでも動じないチームとしての真の強さを、熊本は身につけつつある。
山形は前節、東京Vを相手にラストプレー直前まで無失点に抑え、守備の安定感を手にしたかに見えたが、攻めても得点が奪えず、押し込んで背後が広いことで逆にカウンターを受け先に失点する展開は、9月の3連敗中のそれと近似していた。「前半、一発目で入れ替わるということがあったので、そこでラインが下がってしまう。また裏を取られてしまうんじゃないかという、そういう相手との駆け引きに少し押された部分があった」と宮阪。失点時の対応を悔やんだ岡根も「相手がシンプルに蹴って走ってくるというチームだったので、少し後ろを警戒しすぎた」と、今度は手前で起点をつくられた展開を振り返った。
そうした精神状態で、リードを盾にした熊本の8枚ブロックを崩すことは簡単なことではない。たとえば33分のプレー。林陵平が相手センターバックを引き連れて裏へ走ったことで熊本のディフェンスラインにはギャップが生まれていたが、そのスペースを使う動きはなく、パスの選択も滞空時間の長い逆サイドへのサイドチェンジだった。そうした攻撃のチグハグさと、失ったあとの切り換えで後手を踏むことで、熊本のボランチからの展開を容易にさせていた。また、山形は人の配置にも試行錯誤が見られた。スタートから左サイドでプレーしていたブランキーニョを失点後は右サイドに回し、30分頃からは中島と入れ替えてトップに移したが、前からボールに行きたいブランキーニョは、中盤より後ろが連動して押し上がらない状況に終始苛立ちを見せていた。なんとか追いつこうという責任感の強さが空回りしていた。
後半開始から、2点ビハインドの山形はブランキーニョ、永田に代えて山崎雅人、廣瀬智靖をピッチに送り込んだ。オフサイドも含めて激しく裏を狙い、フォアチェックのスイッチもはっきりしている山崎の登場で、山形は息を吹き返す。52分には石川から縦のフィードで、外に巻いてスペースを突き、58分には中島からのパスを間で受けて左足を振った。60分には中島のくさび、山崎のターンからスルーパス、林のダイレクトシュートと鮮やかな連係でゴールネットを揺らしたが、林がオフサイドと判定されてゴールはならなかった。
山形のトップに山崎が入り裏を突かれる機会が増えても、熊本のセンターバック・矢野大輔、廣井友信は「ラインを上げてコンパクトにしていこう」という高木監督のハーフタイムの指示に忠実にプレーし、サイドでは藏川が「山形はクロスが多いチームと聞いていたし、中に高い選手もいるし、そういう面でクロスは上げさせないように、守備を意識してやっていた」と左サイドの片山とともに鉄壁とも言える対応を見せていた。山形はサイドチェンジを多く加え、石川が高い位置でプレーを始めるが、コンパクトさを崩さない熊本の守備を突き破ることは最後までできなかった。
公式記録に記載された山形のシュート数は3本。ここまでJ2最多のシュート数を積み上げてきた山形にとっては深刻な数字だ。6試合勝利なしでプレーオフ圏内までの勝点差はついに4まで広がった。5試合あれば追いつける可能性は十分にあるが、自らの立ち位置を見失いかけている現状を打開することなしでは、それは空疎な理想論に終わってしまう。次節、アウェイ岐阜戦は日程的なハンディを背負って戦うことになり、タフな試合になることが予想されるが、天皇杯3回戦も含めて必死で糸口を探る日々が続く。
以上
2012.10.08 Reported by 佐藤円















